表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/245

ゴミ67 達人、証拠を受け取る

 1月19日、午後2時40分。

 ダイハーンの領主の弟に、その自宅へ呼ばれた俺たちは、領主の弟からダイハーンに蔓延する汚職の証拠を王様に届けてほしいと頼まれた。


「分かりました。で、その証拠というのは?」

「実は、それが問題でして。」


 という事で、汚職の証拠を見せてもらう事になった。

 案内されるままに領主の弟についていくと、応接室を出て、別のもっと広い部屋へ入った。所狭しと並んだ棚に、大量の書類が保管されている。邸宅の書斎というよりは、会社の資料室とか、大学の研究室とかを彷彿とさせる雰囲気だ。


「あまりにも汚職がはびこっているために、証拠の数もこれほど膨大なのです。

 猫耳商会から魔法の鞄をいくつも買い集めていますが、それでも入りきらない分が、まだこれだけあるのです。」

「収納済みの証拠はどちらに?」

「そこに。」


 と指さされた先は、棚の一番下の段だった。ぱっと目に付く位置ではない。そこに無造作に押し込まれた無数の鞄があった。


「あれは、全て魔法の鞄ですか?」

「そうです。

 容量は外見の10倍前後。どれも、すでに満杯になっています。」


 鞄の大きさは、どれもボストンバッグの大きさだ。

 ボストンバッグという名称は、ボストン大学の学生が重くて分厚い参考書をいくつも入れていた丈夫な鞄――それが日本に入ってきて、和製英語としてこの名称が使用されるようになった。こっちの世界でも書類を大量に入れるのに使用される鞄が同じ大きさだというのは、ちょっと不思議なような気もするが、考えてみれば当然だろう。人間の体の大きさがそう変わらないのだから、使いやすい書類の紙のサイズも同じぐらいになる。ミリ単位では違うかもしれないが、見た感じA4ぐらいのサイズだ。そうすると、それを入れる鞄も、似たようなサイズになるのだろう。


「メイゴーヤやキオートでは、ゴミを大量に収納していると聞きました。

 その魔法の鞄であれば、これらの資料もすべて入るのではありませんか?」

「残念ながら私のものはゴミしか入らないのですよ。」


 俺は技能について話し、俺が持っているゴミ袋は誰かが作った魔法の鞄を買ったり貰ったりしたのではなく、俺の技能によって普通の袋が魔法の鞄のような効果を持つようになったものだという事を説明した。


「つまり、ゴミなら入ると。

 分かりました。ならば、私はこれらの証拠をすべてゴミとして捨てましょう。」


 頭がいいというか、思い切りがいいというか……。

 とにかく、領主の弟の機転によって、俺は証拠の品をすべて収納できるようになった。





 私の執務室に、足音もなく近づいてくる者がいた。

 気配を感じて、それが敵意のあるものではないと分かって、私は待つことにした。

 ほどなく気配はドアの前で立ち止まり、ノックが聞こえる。


「入れ。」


 音もなくドアが開き、そして閉まる。

 すきま風か幽霊のように静かに入ってきたのは、諜報員のリーダーだ。例の大使を監視させていたチームを率いている。


「報告。

 弟君の宅内にて、大使と弟君が接触。現在も継続中にて、予断を許さぬ状況。」


 弟のやつ……大使と接触して何を……?

 大量に証拠を集めているのは知っているが、このダイハーンでは私以上の権力者は居ない。たとえ証拠を公表されても、でっち上げだと言い張ればいい。でっち上げかどうか調査すれば分かること……とはいえ、その調査を許可するかどうかは私の権限だ。なぜなら、領主には領地を運営する権利と義務がある。領地運営に必要であれば、どんな情報でも機密扱いにできるのだ。

 さすがに国王陛下に提出されたら、調査が入るだろうから、それは困る。国王陛下からの調査は、領主の権限では拒否できない。しかし、弟が国王陛下に証拠を提出することは、諸刃の剣になる。弟は私の――領主の補佐役だ。領主たる私が汚職に手を染めているという事は、その補佐役である弟が役目を全うできていないという事でもある。

 相打ち覚悟で国王陛下に報告を、というのでなければ、他に考えられる事は……ああ、そうか。あの大使は調査権を持っていたな。ゴミに関する調査に限定されているが、その調査権は「貴族はそれに協力しなければならない」という国王陛下のご命令(おすみつき)だ。大使の証言つきで証拠が本物だと公表されたら、もみ消しには苦労するだろう。

 別の大きな事件を起こして、それどころじゃない状況にしてしまう必要があるかもしれない。ちょうどキオートでスタンピードが起きたし、あれの生き残りがいたことにして、キオート方面で大きめの街に滅亡して貰うか……。位置的にはゼルコバがいいな。


「2つ命令する。

 1つは、弟と大使を制圧し、弟が集めた証拠を処分しろ。まとめて殺して、家ごと燃やしてしまえばいいだろう。失火扱いで処理できる。

 もう1つは、万一に備えて、ゼルコバを滅ぼせ。魔物の群に襲われて守り切れず、という体裁を作っておくように。」

「了解。」


 諜報員のリーダーは、また音もなく部屋から出て行った。





 大量の証拠書類をせっせとゴミ袋に収納し続けること1時間、部屋いっぱいにあった証拠書類も残すところ棚1つ分となった。


「浩尉!」


 不意にアローが叫び、殺気立つ。

 逆反りの弓を構えて、周囲を油断なく警戒し始めた。

 何事か……と俺が身構えるより早く、窓ガラスとドアが同時に破られ、黒ずくめの集団が乱入してきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくれてありがとうございます。
楽しんでいただけたら、幸いです。

「楽しめた」と思っていただけたら、上の☆☆☆☆☆をポチっと押していただきますと、作者が気も狂わんばかりに喜びます。
バンザ━━━┌(。A。┌ )┐━━━イ!!

「続きが気になる」と思っていただけたら、ブクマして追いかけていただけると、作者が喜びのあまり踊りだします。
ヽ(▽`)ノワーイ♪ヽ(´▽`)ノワーイ♪ヽ( ´▽)ノ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ