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ゴミ66 達人、接触される

 1月19日、午後2時。

 ダイハーンの廃棄物処理センターを出た俺たちは、遅めの昼食をとっていた。食堂はすでに昼の営業時間を終了し、酒場はまだ営業していない。この日の昼食は、屋台商人から串焼きなどの軽食を買い食いすることになった。

 公園のベンチで買い集めたものを食べていると、身なりのいい老紳士が現れた。メイゴーヤの領主のところにいた執事の人と、雰囲気が似ている。


「廃棄物処理特務大使の五味浩尉騎士爵とお見受け致します。」

「そうですが、あなたは?」

「わたくしは――」


 と、そこで老紳士は言葉に詰まった。

 そして、何やら逡巡する様子で俺とアローを見ると、1つうなずいて再び口を開いた。


「……お2人は、この国の人々がもつ長い名前には、あまりなじみがなさそうですが、名乗ってもよろしいでしょうか?」


 これはありがたい質問だった。


「確かに、どなたも名前が長くて覚えきれませんね。

 先日知り合った方などは、自分で自分の名前が覚えきれないと言っていましたが、皆さんそのあたりはご苦労なさるのではありませんか?」


 答えると、老紳士は満足そうにうなずいた。


「それが普通になっている土地ですから、苦労を苦労とは思わないのかもしれません。

 それでは、名乗りは省きまして、簡単に自己紹介を……私は執事をしておりまして、私の主にあたるお方は、このダイハーンの領主の弟君なのです。」

「なるほど。

 で、その領主の弟君が、私に用があると?」

「はい。

 ご同行頂けますでしょうか?」

「すぐに食べてしまいますから、少し待って頂けますか?

 実は昼食がまだでして。」

「かしこまりました。」


 答えると、老紳士は一礼して横へ避けるように動いた。

 執事としての振る舞いなのだろう。正面から見られるよりは、気になりにくくてありがたい。

 俺たちは急いで食事を片付けた。





 執事に案内された先は、お城近くの屋敷だった。

 領主の弟というだけあって、かなり立派な屋敷だ。だが城を見慣れてきたせいか、俺はもう驚かなくなっている。

 とはいえ、壁や天井の装飾、床の絨毯、飾られた調度品、どれも見るからに高級品だ。驚きはしなくとも、真似できない財力はうかがい知れた。

 執事の案内に従って、客間へ通され、少し待っていると60代ぐらいの老人がやってきた。


「お待たせしました。私が領主の弟です。名前は……どうしましょうかな?」

「残念ですが、覚えきれませんので、無用に願います。

 私が廃棄物処理特務大使の五味浩尉です。

 こちらは護衛に雇っている冒険者のアローです。」


 テーブルを挟んでソファーに座る。

 にこやかだった老人の顔が、急に険しくなった。


「早速ですが、本題に入りましょう。

 実は、このダイハーンでは汚職が横行しているのです。」

「廃棄物処理センターでも責任者が天下りの文官だそうで。

 王命を果たすのに少しだけ手間取りましたよ。」


 正確には、まだこれからゴミ処理場に出向いて、回収作業を始めなくてはいけない。

 廃棄物処理センターでは、あのあと部長たちを集めて、ゴミを燃やして埋める必要はなく、集めるだけでいい旨を通達した。


「さもありなんですな。

 無数の外郭団体が乱立していて、どこもかしこも天下り、賄賂、横領、職務放棄、優遇措置など、枚挙にいとまがありません。

 私たち兄弟は、かつてはその汚職を一掃するべく誓い合った仲でした。ですが兄はいつの間にか汚職をする側になっていまい……このままではダイハーンがダメになってしまいます。兄に対して暗殺や処刑といった手は使いたくありませんが、領主の座からは退いてもらわないといけません。」


 数や規模が増えれば、証拠隠滅も隠蔽も難しくなるだろう。

 すでにそういう段階は過ぎていて、誰もが見て見ぬふりをするしかない状態なのかもしれないが。

 弟さんには、クリーンな政治を目指して、是非がんばってもらいたいところだ。

 ただし、話を聞く限り、今のところ俺にできる事はなさそうである。


「あなたが政権交代を狙っているとして、それが私とどのような関係にありますか?

 私の権限はあくまでゴミの処理に関するものです。そうでない部分まで取り締まったり調べたりする権限はありません。」


 尋ねると、領主の弟はうなずいた。


「ご説明いたします。

 今申し上げました通り、兄に対して暗殺や処刑という手は使いたくありません。

 となると、汚職の証拠を押さえて、より強い権限を持つお方に処分を申し渡して頂くのがよろしいかと思います。実際すでに証拠は押さえてあります。その結果、やはり処刑ということに……まあ、ならないと思いますが、なったとしても仕方のない事です。

 一応、兄は公爵の地位を賜っていますから、それより上の権限を持つお方というと、もう王族しか居なくなります。そして兄は公爵ですが、私自身が公爵なのではありませんから、私から王族へ直接メッセージを届ける伝手がありません。兄の補佐役として王族の方とお会いすることはありますが、それは兄を通しての接触ということになりますから。」


 確かに王族相手には会うだけで大変だろう。

 そういえば江戸時代の日本でも、将軍に直接会えるのは「直参」という地位にある上流武士だけだった。高校のとき日本史の先生がやたら熱心に教えてくれたっけ。当時はそういう存在が認知されていなかったけど、あれは今で言う「歴史マニア」的な人だったんだろう。明らかに「学校教師」の熱量じゃなかった。こっちの世界ではどうなのだろうか? 残念ながらあの先生は世界史についてはさほど熱量を持っていなかったから、中世ヨーロッパの謁見がどんなものだったのかは教わっていない。


「大使殿は、近衛騎士団と同格の扱いであり、法的に問題のあるゴミを発見した場合は報告する義務を負うとされています。つまり、その報告というのは国王陛下に直接届くわけです。

 幸い……といっていいのか分かりませんが、廃棄物処理センターでも天下りや職務放棄がありますから、ゴミに絡めて他の汚職の証拠もまとめて報告していただければと。」

「なるほど。」


 少し権限の範囲を超えているが、ゴミに関する「法的に問題のある」状態なのは間違いない。つまり報告の義務はある。その添付資料として、汚職の証拠をすでに持っている彼から受け取るのは合理的だし、そのときゴミ以外の分野については受け取らないというのは非効率だし、おかしな話だ。管轄外でも知ってしまった情報があれば、あえて無視するのは職務放棄に当たると考えていいだろう。


「分かりました。で、その証拠というのは?」

「実は、それが問題でして。」

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