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ゴミ63 達人、別れる

 1月18日、午後3時。ダイハーンの城の前に到着した。

 チョーオーカーを出発したのが9時頃で、陸路なら7時間ほど、休憩を入れれば8~9時間かかるという話だったから、6時間で移動できたのは舟に乗ったおかげだ。

 船員には念入りにお礼を言って、俺たちは上陸した。


「とりあえずお城へ行きましょうにゃ。

 領主にアポだけ取って、今日はもう夕方になりますにゃから、面会は明日にでもにゃ。」

「領主の都合次第ですが、そうですね。」

「しかし夕食には早いな。」

「それなら観光してはどうですかな?

 私としては、魔道具の購入に行きたいところですが。」


 オーレさんの目的はそれだ。

 アローと違って俺が雇っているわけではないし、単に同行してくれただけだから、俺たちに行動を縛る権限はない。


「そのあとはSランクになれるかどうか、冒険者として活動してみるのでしょう?」

「そうですな。」


 ならば、オーレさんとはここでお別れだ。


「オーレさん、ここまでありがとうございました。」


 博識で、道中の些細な疑問にも答えをくれて、おかげで退屈しなかった。

 それに接近戦での強さは凄まじいものがあった。出会ってすぐに茂みから飛び出してきた魔物を切り伏せたり、スタンピードに突っ込んで敵を殲滅していったり、思い返すと結構重要な活躍をしてくれた。

 俺はエコさんを振り向いた。


「魔道具は、猫耳商会でも扱っていますか?」


 尋ねると、エコさんは大きくうなずいて胸を叩いた。


「もちろんですにゃ。

 特にこのダイハーンにある本店なら、どこの店にも負けない国一番の品揃えですにゃ。」

「ではオーレさんをお願いします。」

「お任せ下さいにゃ。」

「ありがたいですな。」


 続けて放った言葉に、オーレさんが驚いた。


「魔道具の代金は、俺に請求して下さい。」

「五味殿!」


 だが遠慮はさせない。


「ここまでの護衛の代金だと思って、受け取って下さい。

 冒険者なんですから、あれだけの活躍をして料金を取らないのでは、宣伝費にしても度が過ぎるというものです。」


 実質的には俺の護衛というか私兵というか、そんな立ち位置で動いてもらった。拘束時間も長く、危険度も高い。特にスタンピードに対抗したのが大きい。食費や宿代、武具の手入れに消耗品の補充など、出費はあるのに、これで無償なんてあり得ない。

 一応、キオートでのスタンピードでは、俺たちは領主からそれなりの金額を受け取っている。個人では持ち運びできない量なので、猫耳商会に預けて銀行みたいに個人口座にしてもらった。この国、この時代の銀行は、こういうものだ。つまり、銀行は商人が兼業しているもので、その業務内容も現金輸送の代わりに為替手形を輸送して済ませるというものだ。

 たとえばメイゴーヤで麦を買い、ダイハーンで売る商人Aがいたとする。当然メイゴーヤからダイハーンへ麦を輸送しなければならないが、同様にダイハーンでの売り上げをメイゴーヤに送ってやらないといけない。メイゴーヤでは買うばかり、ダイハーンでは売るばかり、となればメイゴーヤの支店は資金難になってしまう。

 ところが、ダイハーンで買った服をメイゴーヤで売る商人Bがいる。こういう場合、麦と服の代金は実際に輸送するよりも、書類1枚で済ませるほうが簡単だ。「ダイハーンの商人Aは麦を100万円分売ったので、メイゴーヤの商人Bに100万円を送金する。ついては商人Bに麦農家への支払いを頼む」「メイゴーヤの商人Bは服を100万円分売ったので、ダイハーンの商人Aに100万円を送金する。ついては商人Aに服の代金支払いを頼む」という書類をお互いに送るだけでいい。実際には、商人Aは麦を売ったお金で服の代金を支払い、商人Bは服を売ったお金で麦の代金を支払っているが、為替手形によってそれが成り立つのだ。

 なにも現金を本当に輸送しなくても、紙1枚で足りる。現金を輸送すれば途中で魔物・盗賊・悪天候などに襲われるリスクもあるが、為替手形ならば奪われたり失われたりしても紙1枚。再発行すればいいだけだ。こうした為替手形の利用は、貿易と呼べるような遠隔地での取引を活発化するが、日本人がそれを銀行と呼ぶには抵抗がある内容だ。個人口座もなければ、全国を網羅するような送金システムもない。

 エコさんが猫耳商会の会頭なので、そして受け取った金額がそれなりの金額だったので、エコさんは会頭権限で俺たちに個人口座を開設してくれた。猫耳商会にとっても初の試みらしいが、代金を先払いして、その金額の範囲内で買い物を許すようなものだ。そしておつりを渡すのと同じように、現金を引き出す。もともと為替手形を使っていたから、エコさんに個人口座の概念を説明するのは簡単だった。


「いや、しかし……。」

「オーレ殿、あまり遠慮されても浩尉の立つ瀬がない。

 キオートでの事がなければ、オーレ殿の旅にこちらが同行したという事で引っ込みもつくが、あれだけ派手に戦っては、な。それに参戦したのも冒険者ギルドで依頼を受けたからというわけではなく、浩尉の仲間として、という事だったし。」

「承知しました。

 ならば、Sランクになれた暁には、何なりと依頼を受けましょうぞ。

 それに、引退したら必ず駆けつけます。猫耳商会を通せば、居場所は分かるでしょうからな。」


 うなずき合って握手を交わし、俺たちはオーレさんと別れた。

 あとついでに、オーレさんを案内するエコさんとも自動的に別れることになった。


「ウチの扱いがヒドイにゃ!?」


 エコさんには、これからも資金の管理を頼むことになる。

 王様からの給料も、これで受け取りやすくなる。

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