ゴミ61 達人、チョーオーカーで1泊する
1月17日、昼過ぎ。チョーオーカーで2000年前の達人、七味唐子さんに出会った俺たちは、猫耳商会の会頭エコさんを交えてリサイクル業の開始に向けて計画を立てた。
といっても、俺が集めたゴミを猫耳商会に売って、あとは猫耳商会に任せるという大雑把なものだ。地球ではリサイクル業が成り立っているのだから、この世界でも成り立つだろうという予想のもとに、猫耳商会は計画を開始する。
「……と、気づけばもう夕方ですね。
今日はこのまま泊まっていってください。
家庭料理しか作れませんが、『本場の味』をご提供しますよ。」
七味さんの言葉に、俺とエコさんが反応する。
「おお……! 本物の日本の味が……!?」
「にゃにゃ……! 原種の料理にゃ! あれはウマいにゃ!」
それがどんな味なのか知らないアローとオーレさんは、微妙な顔をしている。俺たちが何をそんなに喜んでいるのか分からない様子だ。
「手伝いますよ。」
「あら、ありがとうございます。」
「にゃにゃ!? 大使様は料理もできますにゃ?」
「家庭料理にも及ばない、いわゆる『男メシ』ですがね。」
というわけで1時間ほど料理。
そして実食。
「ウマああああ!」
「なんとなんと……! これほどとは……!」
驚くアローとオーレさん。
それを微笑ましそうに見ている七味さんと、作ったわけでもないのにニヤリと自慢げに見ているエコさん。ちなみに七味さんは名前通りに唐辛子をたっぷり掛けて食べていた。いかにも辛そうだ。
俺は半年ぶりになる日本の味に、ただただ涙が出てきた。
◇
懐かしい味を堪能したせいか、懐かしい夢を見た気がする。
ド*クエとかポケ*ンとかで流れるような、なんかそれっぽい効果音を聞いたような気がして、目が覚めた。どんな夢を見たのか全く覚えていないが、妙に懐かしい気分だった。
テレビゲームか……いつか誰かが開発するのだろうか?
「お世話になりました。」
「いえいえ。
これ、お土産です。」
七味さんは、1つの鉢植えを渡してくれた。
そこに、見たこともない植物が生えている。土の上へ出てすぐのところから、10本ぐらいに分裂してまっすぐな茎? 幹? が伸びていて、それぞれの太さは直径5mmより少し太い。たぶん7~8mmだ。1cmはない。長さは1mほど。その下半分に松の葉みたいな針状の葉が生い茂っている。普通は、植物の葉といったら上の方に生い茂って日の光を求めるものだが……。なんとも不自然な植物だ。それに葉の数も、松の葉より遙かに少ない。まるでバーコード並に薄毛になったかのようだ。そして茎だか幹だか分からないそれぞれの先端には、つぼみのようなものが生えている。
「……これは?」
尋ねると、七味さんはハサミを取り出して、茎だか幹だか分からないものを1本切ってみせた。
直後、たちまち切られた茎? 幹? が再生して、元通りになる。凄まじい生長力だ。
七味さんは気にした様子もなく、切り取ったものを庭先へ投げた。葉が空気抵抗を生じて、ちょうど矢のように安定して飛んでいく――と、先端のつぼみが地面に落ちた瞬間、破裂音がして白い粒が飛び散った。
「ああやって、つぼみに衝撃を与えると、破裂してお米をたくさん撒き散らします。
五味さんは、ゴミ袋が壊れなくなる能力があるんでしたね? 袋の中で破裂させれば、簡単にお米を手に入れられますよ。脱穀や精米の必要はありません。そのまま研いで炊くだけです。
もちろん爆発する矢として使ってもらっても構いません。火は出ないので、延焼する危険もありませんし。」
素晴らしい。
取扱注意だが、あまりにも有用だ。
「いいのですか? こんな凄いものを……。」
「ええ。そのために作りましたから。
ああ、枯らさないように水だけは与えて下さい。週に1回ぐらい土が湿る程度で十分ですが、水田や水耕栽培みたいに常に水に浸かった状態でも根腐れは起こしません。肥料は必要ないので、水だけ与えるようにしてください。
ただしマイナス40度以下やプラス40度以上の環境では、切ったあとで再生しません。それと日光については、日陰や室内でも大丈夫ですが、洞窟の奥とか地下室みたいな真っ暗な場所では、切ったあとで再生しません。」
「なんてタフな……。」
1つ1つの項目は、そういう環境に特化した植物なら存在すると思うが、これほど幅のある全環境対応の植物なんて、他にあるだろうか?
「ありがとうございます。
まさか白米を量産できる植物を貰えるなんて。」
味噌は白すぎるが、醤油やみりんなどは猫耳商会が取り扱っており、塩や砂糖などは他の店でも買える。とりあえず白米さえあれば、日本食もどきは食べられるのだ。
逆にみりんが出回っていて米が出回らないのが不思議でならない。米を発酵させれば酒になり、それをさらに発酵させるとみりんになる。みりんがあるなら、米もあるはずだ。
「猫耳商会では、なぜ米を売らないのですか?」
「大豆と同じ、変異するせいですにゃ。
大豆の場合は味噌に加工すると白くなりすぎるにゃけど、米の場合は加工しないとパサパサすぎて食べられたものじゃないですにゃ。変異した米を炊いても、麩菓子みたいになってしまいますにゃ。」
「なるほど……。」
米が麩菓子のように……つまり、ポン菓子みたいなものだろう。
三角錐のビニール包装に「にんじん」とか書いてあった気がする。
あのシリアル食品みたいな食感が「炊いた米」の食感になるとしたら、それを「ご飯」と呼ぶのは違和感しかない。
「浩尉、そろそろ出発しよう。」
「ダイハーンまでは、丸1日かかりますぞ。」
「ああ。了解。
では、本当にお世話になりました。」
俺たちはチョーオーカーを出発した。




