ゴミ06 達人、波乱の2日目午後
チンピラどもにゴミ袋を奪われた。だが直後に、ゴミ袋からゴミが噴き出した。あわれチンピラどもはゴミの下敷きに。
これはいったい、どういう事だろう? 噴き出したゴミの下敷きになるぐらいだから、チンピラどもも予想していなかったのだろうが……もちろん、俺にとっても予想外の状況だ。
だが、すぐにピンと来た。技能だ。ゴミ拾いの技能によって、ただのゴミ袋が魔法の鞄みたいになっていたのだから、ゴミ拾いの技能が及ばない状態になったら、その効果が切れるのだろう。彼らがゴミ拾いを手伝うつもりだったのなら、もしかするとゴミ袋の効果は切れなかったかもしれない。そのあたりは検証しなければ分からないが、単純に考えると俺の手を離れたら効果が切れるのではないだろうか。
ということは、魔法の鞄みたいになったゴミ袋を、盗まれる心配はないという事だ。正確に言うと、盗んでも意味がない。とすると、新しくゴミ箱やゴミ袋を手に入れたらどうなるのだろうか? それも魔法の鞄みたいになるのだろうか? それとも一緒に転移してきたゴミ袋だけが特別なのだろうか? もっといえば、ゴミ拾いLV2の効果は、ゴミ袋だけなのだろうか? 他の道具にも何か効果が出ている可能性はないだろうか?
「#$%&!」
ゴミの山がドバッと弾け飛んで、チンピラどもが起き上がってきた。
怒声を上げて殴りかかってくる。喧嘩なんてした事ないが、最初の1人のパンチは躱した。
「#$%&!」
直後に別の角度から声が聞こえて、2人目のチンピラに腹を殴られた。
今のは何となく分かったぞ。「もらったァ!」とか言ったのだろう。
だが、パンチの威力はひどくお粗末なものだった。小石か虫でも飛んできてぶつかった程度にしか感じなかった。
……おかしいな。どう見ても、すごく痛そうな一撃だったのに。それに、当たったときの音も「ドスン」と重そうな音がした。喧嘩慣れしたチンピラの、腰の入ったいいパンチをもらってしまったのだろうが……まるで衝撃を感じない。
「#$!?」
ケロッとしている俺に、驚愕の表情を浮かべるチンピラ。
さらに別のチンピラどもが色んな角度から殴ってくるが、どれもダメージはなかった。
「#$! %&#$!」
後ろに控えていたチンピラのリーダーみたいな奴が何か言うと、他のチンピラどもが俺から離れた。
直後に、チンピラリーダーが火の玉を投げてきた。魔法!? ファイヤーボール的な!? 当たったら爆発する感じか!? ヤバい! 逃げる暇がない! 避けても爆発には巻き込まれそうだ!
「うわあああっ!」
本能的に防御する。腕で爆発を防ごうなんて、そんなの無理だと考えたら分かるのだが、咄嗟に出る本能的な行動というやつは、そういう理屈を無視してしまう。
……あれ? 爆発しない……?
恐る恐る目を開けると、火ばさみが火の玉を掴んでいた。
「ラッキー……! って……はァ!?」
なんで掴めるんだ!? 燃えてる炭とかじゃなくて、実体のない火の玉だぞ!?
「#……!」
「#$%……!?」
ほら、チンピラどもも驚いている。
だいたい分かるぞ。「なっ……!」「バカな……!?」みたいなセリフだろ?
「……#$%&!」
横からチンピラが飛び出してきた。
その手にナイフがあった。
げっ! 刺される! と思ったとたんに、咄嗟に手で受け止めようとしてしまった。
いや、待て! バカな! できるわけない! 軍手をはめているとはいえ、ナイフが相手ではほとんど素手だ。ナイフなんて受け止めたら、ブスッと貫通してしまう。
「……は?」
「#……?」
ナイフは鉄板にぶつかったかのように、軍手の表面で止まっていた。俺の手には、チクリとも届いていない。
そのままナイフの刃を握ると、チンピラが押しても引いてもびくともしなかった。そのまま投げ捨てると、チンピラもろとも突き飛ばされたようにズザーッと地面に転がった。手を見ると、軍手が少しだけ傷ついていた。絶対的な防御力だが、回数制限はあるという事だろうか?
だが、どうやら分かってきたぞ。身につけているものがチート化してるんだ。おそらく道具本来の性能を大幅に拡張している。ゴミ袋は収納力が無限になり、作業服は防護能力が無敵になり、火ばさみは「挟む」能力に制限がなくなり、軍手は手を守る能力と物を掴む能力が最強になっている。
一言で言うと、身につけている道具が「絶対に(道具本来の性能)する」ようになっている。
考えてみれば、タオルで体を拭いたときに凄くサッパリしたし、肌が濡れなかった。これは「絶対に拭き取る」効果だろう。水拭きなのに、その水さえも完璧に拭き取ってしまうから、肌が濡れなかったのだ。そして当然、汚れも完璧に拭き取られたから、凄くサッパリしたというわけだ。
だが、そうすると、新しくこの世界で手に入れた道具はどうなるのだろうか? これは検証が必要だな。検証するための道具、それを買うための金、金を手に入れるための方法が必要になるわけだが。できるだけ早く実験できるように頑張ろう。
……さて、道具に守られていない頭部は弱点だが、それ以外は無敵状態だと分かった。このチンピラども、どうしてやろうか……?
「とりあえず返すぞ。」
火ばさみで掴んだままの火の玉を投げ返す。地面に着弾すると同時に、火の玉は爆発してチンピラどもが吹っ飛んだ。
……あ。これ、決着だ。
ゴミ袋を拾って、ゴミを入れ直し、俺はその場を立ち去った。
チンピラ? 知らんな。怪我をしていても自業自得だ。死にはしないだろう。見たところ、血がドバドバ出るような怪我はしていないようだし。