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ゴミ59 達人、他人の技能を羨む

 2000年前の達人、七味唐子さんは転移した日本人だった。日本のどの時代に生きていたのかは、俺にとってあまり興味がない。もしかすると、地球とこっちの世界では時間軸が大きく異なっていて、ほぼ同時期に生きていたのに2000年も異なる時代へ転移したのかもしれない。たとえば地球に戻る方法があったとしても、それが理由で「同じ時代に戻れる」とは限らないわけだ。たとえ七味さんが2000年前の日本から2000年前のこの世界へ転移したのだとしても、それが今回だけの偶然の一致という事も考えられる。元の世界へ帰るというのは、それはそれで非常にリスクの高い行為だ。

 それよりも、七味さんの技能は「菜園」だという。


「所有する土地……プランターでも構いませんが、それを菜園として指定することで、そこに任意の植物を栽培できるというものです。

 ただの家庭菜園や農業と違うのは、たとえ種や苗を持っていなくても、望み通りの植物を栽培できることです。それに、育つのも早いですし、実を付けるのもあっという間です。」


 凄まじい技能だ。存在しない植物を作り出すことができ、短時間に量産できると。量産の程度は、所有する土地の広さ次第だが、たとえプランター1つでもその価値は大きい。雑草を育てるよりも簡単に、たとえば「万病を癒やす薬草」とか「理想的なバランスで豊富に栄養を含む果実」とかを作れてしまうわけだ。同じように「無味無臭で極めて少量で死に至る毒草」とかも。

 量産できるということは、経験知的なものを獲得する効率も高いということだ。量だけなら俺もかなりのものだとは思うが、高価な植物とゴミでは単位量あたりの獲得経験値が全然違うのだろう。俺が最初から達人だったことは、幸運かもしれない。


「私はこの技能のおかげで、こっちの世界でも日本とほぼ同じ食事ができます。もちろん、醤油やみりんなど加工の必要があるものは、その技術を持っていそうな相手に手伝ってもらって開発する必要がありましたけど。」


 羨ましい技能だ。食うに困らない上に、竹細工や麻布、材木なども加工さえできれば利用できて、家屋から生活必需品までかなりの範囲をカバーできる。


「そのときにシチミカラコ様から懇意にしていただいたのが、ウチのご先祖様、つまり猫耳商会の初代会頭ですにゃ。

 初代はそのときに開発した加工技術と加工品を武器に、猫耳商会を一気に拡大しましたのにゃ。」


 得意げに言うエコさんだが、七味さんはちょっと残念そうにため息をついた。


「私の技能で作った作物は、よそに移して栽培してもらうと、多かれ少なかれ変異してしまうのです。

 大豆なんかはその最たるもので、おかげで猫耳商会でも全国規模ではまともな味噌が造れません。」


 そういえば、あの白味噌よりもっと白い感じの味噌なのか何なのか分からないものがあったな。あれを使った味噌汁もどきを飲んだことがある。ニアベイでもご馳走になった。あれはあれでウマいのだが、味噌汁というよりは野菜スープといったほうが正しい味だ。


「にゃー……申し訳ありませんのにゃ。

 変異を抑える研究は、この2000年まるで進歩がみられませんのにゃ。」

「どんな研究を……いえ、そもそも、どうして変異するのでしょう?」

「原理的なものは、まだ分かっていませんにゃ。

 それを突き止めるのもウチらの使命ですにゃ。」


 困り顔で首を左右に振るエコさん。

 一方で、七味さんは神妙な顔をしていた。


「原因は2000年前に生きていた魔族のせいです。」

「魔族?」

「『汚す者』と名乗っていました。

 土壌汚染のような呪いか何かを、おそらく国全体に仕掛けていて、全国的に植物が弱体化しているのです。農作物は味も収穫量も落ちて、材木は軟弱になり、腐葉土の養分さえも減っているようです。

 そんなときに私が『菜園』の技能を持って転移してきたので、上質な植物を提供できる救世主のように扱われまして……。」

「その『汚す者』とやらは、今は……?」

「倒しました。

 2000年前に、私と、当時の王国軍が総力を挙げて。」

「しかし倒しても汚染はなくならなかったと……。」

「ええ……残念なことに。

 ステータス画面に、魔法に、魔族に……ここまでゲームっぽい世界なら、ラスボスを倒したら世界が浄化されたりしてもよさそうなものですけどね。これが現実ってことなんでしょう。」

「おかげで本物の味噌を造るには、今でもシチミカラコ様から原種の果実を買い取らせて頂くしかありませんのにゃ。

 大量生産できませんから、売る相手も王族ぐらいしか居ませんのにゃ。」


 他の品目でも同様なのだろう。そして七味さんが作る原種からの加工品は、王族に売るほどの価値があると。なるほど、それなら成果が出ない研究で赤字を垂れ流していても、誰も文句は言えないわけだ。原種を仕入れて加工品で利益を得ている上に、研究自体もそれが成功したら王族に売るような品を量産できるわけだから、文句など言えようはずもない。


「……にしても、七味さんだけが生産可能な『原種』ですか。

 貴重といえばあまりに貴重……日本の味は懐かしいですが、買おうとして買えるようなものでもなさそうですね。今から注文しても、何年待ちになる事やら。」

「いえいえ、同郷のよしみです。差し上げますよ。

 それに、ゴミ拾いでしたか? その技能でも、売れるものはあるでしょう?」

「今のところ、この技能から売れるものといったら、ゴミ処理の労働力ぐらいですが。」


 俺は廃棄物処理特務大使に任命された事を話した。

 そして、その任務として全国20都市を巡ってゴミの処理を請け負うことも。


「それほど大規模に……。

 国中から出るゴミの、かなりの部分が五味さんのもとに集まってくるという事ですね。

 それならリサイクル業ができそうではありませんか。」


 俺も考えた事はあるが、それにはリサイクル技術の開発という課題がある。

 しかも、リサイクル品を売れるようにするには、その質を高め、加工単価を下げる必要がある。

 醤油やみりんなどの加工技術を開発した猫耳商会なら、リサイクル技術の開発もできるのだろうか?

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