表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/245

ゴミ55 達人、仲間の実力を知る

 アローがついに、その実力を示す時が来た。

 迫り来るオーガ、距離およそ1km。

 ロングボウの最大射程は400m、ショートボウでは200mしかない。北の防壁に再集合した弓兵部隊は、攻撃が届かず、まだ待機するしかない。

 そんな中、アローの矢がオーガに命中していく。


「この距離から撃って、刺さるものか?」

「骨や筋肉に守られた部分は無理だな。

 しかし目玉や首なら別だ。あまり深く傷つけなくても、効果は大きい。」


 なるほど。目玉や頸動脈が傷ついたら一大事だ。


「しかし、さすがに全部を食い止めるのは難しいようですな。」


 オーレさんが言う通り、オーガは数を減らしながらも迫ってきている。

 ロングボウが届く400mへさしかかると、弓兵部隊と魔術師部隊が攻撃を始めた。しかしオーガはそれらの攻撃を耐えながら前進してくる。オークやゴブリンみたいに吹き飛んでくれないし、倒れてくれない。オーガの防御力は高いのだ。

 さらに近づいてきたところで、俺も連射式ボウガンを使ってみるが、相変わらず狙った場所には飛んでいかない。しかしオーガが密集しているおかげで、そこそこ命中はする。ダメージはないようだが。


「嫌がらせ程度には、なるか……?」

「でしょうな。少なくとも気を引くことはできるはずですぞ。」

「東西で戦闘中のところへ乱入されるのは防げる、という事だな。」


 乱入されたら混乱が起きる。それはほとんど奇襲に等しい効果を生む。実際より数倍も強いような結果につながるのだ。つまり俺たち人間側にとって大損害である。

 それを防げているのなら、俺の下手な鉄砲を撃ちまくる行為は、まったくの無駄ではないのだろう。


「だが、もうちょっと頑張っておきたいな。」


 死体が光って見える。ゴミとして扱えるということだ。死体を丸ごとゴミとして認識するのは、感覚的にはちょっと抵抗があるものの、料理に使った牛肉や豚肉だって「死体」の一部だが「生ゴミ」だ。ならば、武器としても使える。手袋のゴミを道具としてチート化し、サイコキネシス的に操って、死体を掴んで持ち上げる。上空から落とす手もあるが、もっと効率的に――振り回す。

 刃物を握らせてもハーピーさえ倒せない貧弱パワーだが、ゴミに対しては天下無敵だ。なにしろゴミの重さを無視できる。だが無視できても消えるわけではない。振り回したゴミは、その重さを保っている。当然それらが激突すれば、オーガといえどもダメージを受ける。

 手袋のゴミは他の場所でも使っているから、今はあまり数がない。今度、普通に道具として大量購入してみようか……いや、ダメだ。ゴミ袋の収納チートに入らないから、持ち運ぶのが大変だ。常に浮かせて持ち歩くのは、見た目があまりに奇妙になってしまう。


「そろそろ東西の戦闘は終わりそうだ。」

「あとはオーガだけといったところですな。」


 見れば東西の戦闘は人間側の優勢になっており、戦線もずいぶん北へ押し戻されている。北の防壁より北へ移動したことで、俺も直接その様子が見える。

 西側では援軍が1000人ほど、キオートの騎兵部隊100、歩兵部隊100。対する魔物が2000ほどだったが、援軍がオークやゴブリンを雑魚として狩れる冒険者たちだったためか、数の不利は質の有利でひっくり返したらしい。

 東側では援軍が500人ほど、キオートの兵士は同じく騎兵100、歩兵100。対する魔物は2000ほどで、数の差では西側よりも不利だが、この援軍はニアベイの騎士団だ。騎士たちは気合いとともに吠えまくり、動きの切れや力強さもダイナミックだ。見るからに、士気の高さは冒険者たちより遙かに上である。それが数の不利を覆しているようだ。


「……はぁ……。」


 さっきから領主が何度もため息をついている。

 キオートの兵士がまるで活躍できていないからだろう。鶴翼の陣は失敗し、練度では冒険者に負け、士気では騎士団に負け、頑張って戦っているのだが、結果だけ見ると状況に翻弄されている。


「さて、そろそろ出ますぞ。今度は止めないでしょうな?」


 オーレさんが剣を抜く。

 オーガは残り150ほど。距離は50mといったところだ。

 俺とアローが黙ってうなずくと、オーレさんは防壁から飛び降りた。


「我が剣の冴えを見よ!」


 そこから先、起きた事を一言でいうなら、虐殺だった。


「はあっ!」


 戦場にオーレさんの気合いが轟く。

 と同時に、オーガ10体の胴体が、上半身と下半身に分かれて宙を舞う。


「一撃で……!?」

「いや、今のはちゃんと1体ずつ斬り伏せていたぞ。

 しかも左から斬ったあと、右から改めて斬っている。まるで木こりだな。」


 ああ、木を切り倒すときのアレか。倒れる方向を調節するためにやるらしいが。


「……ん? て事は、10体のオーガ相手に20回の攻撃を? 今の一瞬で?」

「そうだ。」

「化け物かよ。」

「Sランクはみんな化け物だ。」


 そういえば、Sランクに最も近いAランク冒険者という評判だったっけ。

 感心している間にも、オーレさんの無双は続く。いや、無双というより虐殺だ。一撃で鮮やかに倒しているように見えて、実際には2回攻撃とか……。しかもわざわざ胴体を両断するんだから。同じ威力で首を切れば一撃だろうし、心臓を一突きにしてもいいだろうに。なんでわざわざ胴体を……? アローの言うとおり、木こりの出身なのか? 木こりを極めて存在進化でもしたのか?


「ぜやああっ!」


 先に殺されたオーガの死体がまだ地面に落ちる前に、次の10体が両断されて吹き飛ぶ。

 オーガたちは反応する暇もない。

 まるで砲弾だ。

 オーレさんの声が響き、オーガが吹き飛ぶ。その繰り返しが15回。150体ほどいたオーガは、ほんの1分かそこらで全滅していた。


「凄いな……あれがAランク最強の剣士か。」


 Sランクに最も近いAランク冒険者。その実力のほどを、まざまざと見た。


「まさか、これほどとは……。」


 今度は俺がそれを言う番だ。

 あんなに強いなら、5分ぐらいで1000体倒せそうだが……と思った矢先、オーレさんは疲れた様子で座り込んだ。

 なるほど。長く戦うのは苦手と。遠距離攻撃の手段もないし、魔法も使えないし、けっこう弱点だらけの最強剣士だな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくれてありがとうございます。
楽しんでいただけたら、幸いです。

「楽しめた」と思っていただけたら、上の☆☆☆☆☆をポチっと押していただきますと、作者が気も狂わんばかりに喜びます。
バンザ━━━┌(。A。┌ )┐━━━イ!!

「続きが気になる」と思っていただけたら、ブクマして追いかけていただけると、作者が喜びのあまり踊りだします。
ヽ(▽`)ノワーイ♪ヽ(´▽`)ノワーイ♪ヽ( ´▽)ノ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ