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ゴミ54 達人、何もしない(というか、できない)

 川の水を落として、魔物の群の一部を押し流した。

 だがキオートを水害から守るために作った空堀が、土砂に埋まってしまったので、もう同じ手は使えない。

 どうするか、領主に尋ねると、今度は兵士を動かすという。兵士にも花を持たせないとね。


「騎兵部隊に伝令! 鶴翼の陣!

 弓兵部隊と魔術師部隊は、4割を西の壁へ、4割を東の壁へ移動せよ! 残り2割は正面を警戒!」


 領主の命令を受けて、兵士たちが慌ただしく動き出す。

 5分ほどで東西から騎兵部隊の足音が聞こえてきた。

 遅れて弓兵部隊や魔術師部隊の攻撃音が聞こえてくる。


「……どうなってる?」


 目がいいから見えるかもしれないと思い、アローに尋ねた。

 川の水を落とす方法が使えないとなると、俺にできる事はない。

 連射式ボウガンはあるが、届かない距離だ。


「あまり良くない状況だ。

 鶴翼の陣は、包囲殲滅するための陣形だが、包囲しきれずに蹴散らすだけになっている。

 魔物が散り散りになってしまって、食い止めることができていない。」

「となると、このまま魔物の群は南へ……?

 チョーオーカーが危ないですな。」


 チョーオーカーは、キオートのすぐ南にある街だ。3本の川があって、そのうち2本がキオートの東西を流れている。チョーオーカーの南で3本の川が1本に合流しており、そこより南はダイハーンの領主が治める領地になっている。


「歩兵部隊に伝令! 出撃し、東西の敵を挟撃せよ!」


 もう騎兵部隊は魔物との乱戦に突入している。敵味方の距離が近すぎて、弓兵部隊や魔術師部隊は攻撃できない状況だ。歩兵部隊は後から駆けつけて参戦するには足が遅いが、この状況で動かせるのは歩兵部隊しかない。

 選択肢の中から最良のものを選ぶのならいいが、他に打つ手がなくて選ばされてしまう状況だ。これはマズイ。有り体に言って、追い込まれている。騎兵部隊はすでに乱戦状態になっており、歩兵部隊が到着しても「挟撃」と言える形になるかどうか怪しい。歩兵部隊が到着する前に、騎兵部隊が総崩れになる可能性さえある。

 と、そこへ西の壁へ移動していた弓兵部隊から伝令兵が走ってきた。


「報告!

 西門より出撃の騎兵部隊、魔物の群と乱戦になり、歩兵部隊の到着で混乱が加速した模様!

 一部の魔物が騎兵部隊から逃れて南進を開始しました!」


 騎兵部隊が抜かれたか。

 歩兵部隊による戦力の追加が裏目に出るとは。挟撃どころか逆効果になってしまった。


「私が出ましょうぞ。五味殿のように殲滅はできませんが、追いかけて斬り伏せれば、いくらかは数を減らせますからな。せいぜい100か200かといったところですが。」


 攻撃の規模や射程距離といった事情ではなく、単純に連携ができないオーレさんは、今まで防壁の上で控えてもらっていた。

 だが、出ようとするオーレさんを、アローが止めた。


「いや、オーレ殿に今出てもらっては困る。」


 アローは北を指さした。


「そろそろゴブリンが全部、森から出てくる。

 その後ろから、オーガが500ほど来ているから、オーレ殿にはその相手を頼みたい。」

「オーガ?」


 アローが見えるというのなら、実際にそこに居るのだろう。

 だが、オーガは強い。ゴブリンやコボルトなんかとは一線を画する魔物だ。


「オーガがこの群を率いていたと?」


 そもそもこのスタンピードはどういうわけで発生したのか。

 魔物が武装したからといって、集団で調子に乗って「いっちょ人間の街でも襲ってやろうぜ」という事になるだろうか? なったとすれば、どうしてキオートを避けるのだろうか? 俺の攻撃にビビって、というのなら、正面を避けるのは分かるが、左右に分かれたなら、そのまま側背を突いて包囲してくるはずだ。


「はっ! バカな。魔物が他の種族を統率するなんて、あるわけない。

 奴らの知能はおしなべて低い。人間が家畜を飼うようなわけにはいかん。」


 領主が威勢良く言うが、その体は震えている。

 俺の発言を馬鹿にするような態度だが、実際には俺の言葉が正しくて魔物が組織的に行動してくるのが怖いのだろう。正直、俺も怖い。キオートを避けて通るのが魔物の作戦だとしたら、その先にある街を攻める意味――兵糧攻めとか経済封鎖とか、そういう概念を理解していることになる。それは、人間の指揮官でも理解していない者がいるほどの高度な知性だ。魔物が理解しているとは思えない。いや、思いたくない。


「報告! 報告ぅ!」


 と、叫びながら兵士が街の中を走ってきた。

 防壁の下にいるという事は、南の壁にいた連中か。外壁の上をぐるっと回って走ってくるよりは、街の中を駆け抜けた方が早いということだ。


「南西より援軍! 冒険者1000名ほど! 魔物の群との戦闘を開始しています!」

「東より援軍! ニアベイの騎士団です! 東側の魔物とすでに交戦中!」


 援軍? どうしてキオートの状況を知っているんだ?

 領主も首をかしげている。


「どうして……いや、とにかく助かった!

 魔術師部隊と弓兵部隊は、北の防壁へ再集合! オーガの接近に備えよ!」


 領主が新しい命令を出して、また兵士たちが慌ただしく動く。

 そうしている間に、アローがコンパウンドボウを取り出し、矢をつがえた。


「当たるのか?」

「密集しているし、こっちへ向かってきているからな。的は大きくて、正面から見た動きは小さい。少しぐらいまぐれ当たりするだろう。」


 アローが矢を放つ。

 空気を切り裂く音とともに、矢が飛んでいく。

 そしてオーガの群の一部が転倒したのが見えた。


「当たったか?」

「1体に命中した。そいつが倒れて、近くのオーガがドミノ倒しになった。」


 答えながら、アローは次の矢をつがえる。


「つまり、動きは止まっている。」


 アローの無双が始まった。

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