ゴミ51 達人、急報を聞く
キオートのゴミが北の山に捨てられ、それが魔物に運ばれてリュート湖に捨てられている。ニアベイが受けた損失は大きい。王様に報告すれば、キオートはニアベイに対して何らかの損害賠償的なものを命じられるだろう。
「まずはきちんと法整備をすること。
魔物に利用されたり、他の都市に迷惑をかけたりしないように、全てのゴミを集めて処理するように改善して下さい。
そこまで整ってから、ようやく廃棄物処理特務大使としての本来の仕事に入れます。」
「…………。」
領主はなぜだか打ちひしがれたような顔をしていた。
まるで大事な試合に負けた選手や、人生を左右する試験に落ちた受験生のようだ。
反対にエコさんが満足そうな顔をしている。
「別に、これは単にルールが厳しくなるだけではありません。
ゴミから出る毒素によって、周辺住民が健康被害を受けている可能性があるのです。現にゴミの処理方法を改善しただけで健康被害が解消した例があり、明らかに生産性が上がっています。
領主ではないので税収がどのぐらい増えたのかは知りませんが、毒素の問題が解消する前と後を見比べると、少なくない影響が出たはずです。」
最終的には領主のためになる。
そう聞いて、領主は顔を上げた。下々の者には興味がない、なんて思っているから、メイゴーヤの隣村で起きた田舎の小さな変化に気づかないのだ。王様はそれを重く見たというのに、思想の違いはこうまで目を曇らせるのだろうか。
雑巾を濡らすこともせずに、絞ればいいだけだと思っているなら、エリート意識がどうとかいう以前に、ただのアホである。平民なんて放っておいても勝手に増えるとか、絞れば絞るだけ金が出るとか思っているのなら、市長になって街を運営する系のゲームでもやって、ちょっと認識を改めたほうがいい。まあ、この世界にテレビゲームなんかないけども。
「た、た、た、大変です!」
と、そこへ兵士が飛び込んできた。
「どうした?」
覇気のない様子で、領主が尋ねる。
「北から魔物の大群が迫っています!」
それは、スタンピードのお知らせだった。
◇
危機的状況に、領主は緊張感によって精神力を取り戻した。
「数は?」
「最低でも、およそ3000ほど……! 敵の後方はまだ森の中にあり、全体の数は不明です!」
「進路。」
「北からこちらへまっすぐです!」
「側背へ回り込む動きは?」
「確認できません!」
「よろしい。
魔術師部隊と弓兵部隊は防壁の上へ待機。
歩兵部隊は北門の中へ、騎兵部隊は東門と西門へ部隊を分けて待機せよ。
僧侶部隊は各所へ均等配分。
南門の見張りの兵を総動員し、南門とともに南西と南東にも見張り要員を配置。敵が回り込んでこないか警戒せよ。
以上だ。行け。」
「はっ!」
兵士が急いで出て行く。
「さて、大使殿は騎士爵とのことだが、戦闘能力には期待してよいのかな?」
領主が俺を見る。
その態度は、こちらを見下しているものではなく、期待できるかどうか確認しようというものだった。騎士爵といっても、何の功績で与えられたのか事情はそれぞれ異なる。何しろ騎士爵を与える基準は「国家に貢献した度合いが王に認められる程度」だ。大きな戦いで活躍したとは限らず、たとえば商売によって国民生活を劇的に豊かにしたという事でも騎士爵を与えられる可能性がある。俺の場合はゴミ拾いだが。
「他人と共闘するのは難しいですね。
私たちは3人とも、個人としての戦力に特化しています。」
俺はアローとオーレさんを見た。
「まあ、撃てば当たるというのなら、あとは時間次第だな。相手次第では貫通して後ろの敵にも当たるだろうし……防壁もあるし、矢がある限りは戦えるだろう。」
「剣さえ届けば100でも200でも。……とはいえ、3000はちと厳しいですな。」
2人が答え、お前はどうだという視線を向けてきた。
「一撃で数百。ただし、周辺被害も大きくなる。」
方法は2つある。
1つはチンピラにやったのと同じ方法だ。今までに回収したゴミを、上空から解放して敵の頭上に落とす。メイゴーヤとニアベイで回収し続けているから、大量のゴミがある。しかもLV5の効果で「上空から」というのが可能になった。ただし、落としたゴミを回収するのに時間がかかる。連発はできないし、通れなくなるし、毒素も流れ出る。
もう1つは、オーレさんと出会ったときにやった方法だ。つまり川の水を持ってきて、落とす。キオートは東西に川があるから、北から来る魔物に水攻めをやるのは簡単だ。これの欠点は、落とした水がどこへ流れるかという問題である。一部はキオートを襲うだろう。防壁と門がどれだけ持ちこたえるか不明だが、少なくとも門は防水仕様ではないだろうから、街の中に水が入り込むのは必至だ。しかも北の山に捨てられたゴミも一緒に流れてくる。土砂崩れだって起きるだろう。ただ水が流れてくるだけでは済まないのだ。
流れてきた水を再び持ち上げることもできるだろうが、その場合、水に押し流されている魔物がどうなるか分からない。水と一緒に持ち上がるのか、魔物だけ地面に残るのか。悪くすると、魔物を一気に街の近くへ移動させるだけの結果になってしまう。効果を最大化するには、落とした水をそのまま放っておき、次々と川の水を落とし続けるのがいい。そうすれば押し流された魔物はより多くのダメージを受ける。戦闘不能になる個体も多いだろう。
「それか、連射式ボウガンでチマチマ攻撃するか、だな。
それなら、成果は小さいが、被害も少ないだろう。」
あるとしたら、発射した矢が味方に当たってしまうぐらいだ。
「了解した。では魔術師部隊に空堀を作らせよう。
街の北から東西の川まで続くように空堀を作れば、全部は無理でも、かなりまで街への被害を軽減できるはずだ。」
画期的なアイデアだ。
ただ……
「今からやって間に合うのですか?」
「無理をするのが軍人の仕事だ。まして、それで被害を大きく抑えられるとあらば。」
領主はすぐに指示を飛ばした。
五味「ただのポンコツ領主じゃなかったのか。」
エコ「ただのアホ領主だと思ってたにゃ。あと今回ウチのセリフがないにゃ。しょぼーんにゃ。」
オーレ「ただの無能では、こんな歴史的な街の領主にはなれませんぞ。」
アロー「先祖代々のアレを受け継いだだけのアレなアレかと……。」
領主「ひどい言われようだ……。」




