ゴミ50 閑話 魔物の動向
首都が今の場所に移ったのは、今から200年ほど前だ。
その前に首都だった場所がキオート。そのキオートが作られたのは1000年ほど前で、その前に首都だったのはキオートの南にあるチョーオーカーだ。今でもその名前のまま街が残っている。
ちなみに――
それらの遷都の理由は、おおむね船に関する技術の発達である。
チョーオーカーが首都になったのは、そこに3本の川があって、水路で物資を運ぶのに便利だったからだ。そこから風水的な思想によってキオートへ遷都されたが、200年ほど前には造船技術の発達と航海技術の発達によって船が大型化し、川を通るようなサイズではなくなった。
かといってダイハーンは、すでに商業港として発達しており、政治のための連絡船などを大量に寄港させる余裕がない。そこで港として開発可能な、海岸線近くまで深くなっている海を探して、今の場所に遷都された。直接海に面することで、大型船の寄港を可能にするとともに、新しく建造することで政治のための船を大量に寄港させることを最初から運営計画に盛り込める。
閑話休題。
技術の発達は、船だけではなかった。1000年前には作れなかった様々な製品が、200年前には作れるようになっており、従って、それまでになかった新しいゴミも出るようになった。
しかし、キオートの領主は代々、この問題を無視してきた。なぜなら、キオートの領主には、エリート意識があるからだ。
最初から首都として作られ、長らく首都として栄えてきたキオートには、首都だった時代に王城への登城のために屋敷を構えていた貴族たちが多くいた。その中の1人が領主としてキオートを治めることになったが、他の貴族たちもキオートに屋敷があるというのは「その時代から代々貴族だった」ということの証明であり、一種のステータスであると考え、キオートの屋敷を維持し続けている。今では息子に家督を譲って引退してから住むとか、バカンスのための別荘とか、その使用法も変わってきているが、依然として貴族が多く集まるというのは事実だ。当然その発言力は平民より強い。
そしてエリート意識に染まった貴族たちは、平民を顧みなくなり、ゴミ問題を無視するようになった。自分たち高貴な存在は、そんな下賤の事柄に関わる必要はない、ゴミなんて汚らわしいものは自分たちの視界に入らないところへ追い出しておけばいい、というわけだ。
そうして、新しいゴミに対する「行政が指定する廃棄方法」は指定されることなく放置され、民間業者が台頭する。そして民間業者の存在も放置され、法整備がされないために、不法投棄は「不法」ではなく、北の山にゴミが捨てられるようになった。
最初の頃、民間業者は行政指定のゴミ処分場へゴミを捨てていた。どうせ分別なんてせずに、まとめて焼いて埋めるだけだから、そこへ捨てておけばついでに埋めてくれるだろう。埋めてくれなくても別に問題はないさ、というわけだ。
その場所というのは、キオートから北西に進んだ場所にある盆地だ。山を1つ越えたような場所にあるが、幸い峠道も非常に緩やかで、ゴミを満載した馬車でも問題なく登坂できる。
ところが10年ほど前から、もっと近くへ捨てて楽をしようという業者が現れた。彼らがゴミを捨てる場所に選んだのは、北の山だ。
「……コノ ニオイ ハ……?」
と、最初に気づいたのが、コボルトだった。犬の顔を持つ魔物で、犬のように鼻が利く。
犬獣人との違いは、外見と骨格だ。犬獣人は犬耳と尻尾がある以外、人間と変わらない。顔も手足も人間そのもの。耳だって人間の耳と犬の耳、両方がある。
対してコボルトは、犬そのものの顔だ。全身毛むくじゃらで、手足の骨格も犬のそれに近い。手は道具を使うことができ、足は二足歩行が可能だが、手には肉球があり、足は足首から先が長いために膝が逆側に曲がっているかのように見える。
それはともかく、コボルトは鼻が利くためにゴミの匂いに気づき、それを発見した。
「コンナ トコロニ ケンガ オチテイル……! ヨロイ モ アルゾ……!
ラ、ラッキー……! ナカマ タチ ニ オシエテ ヤロウ……!」
というわけで、コボルトは仲間を呼んで、みんなで捨てられた武具を装備した。
そして北の山には、コボルトの他に、ゴブリンもいた。体格は人間の子供ほどだが、ずる賢くて獰猛なゴブリンたちは、コボルトたちが武装しているのを見つけて、うらやましがった。
「ア、アイツラ……アンナ イイ ブキ ヤ ヨロイヲ……!」
「コッソリ イケバ ウバエル ハズダ……!」
「ナカマヲ アツメテ イッキニ ウバオウ……! オマエ アイツラ オイカケロ……!」
こうしてゴブリンたちがコボルトを襲撃。
奇襲による戦術効果は、3倍から5倍の兵力を相手にしても戦えるほどだ。武装したとはいえ、コボルトたちには勝ち目がなかった。
こうしてゴブリンたちも武装する。
すると、今度はそのゴブリンたちに目を付けたオークたちが、ゴブリンを襲った。
「アイツラ イイモノ モッテヤガル……! オイ! ソレ ヨコセ!」
豚顔の魔物として雑魚代表と思われている3種族の一角だが、体格はコボルト同様に人間サイズであり、しかも痩せ型のコボルトと違って横にも大きい。一見するとデブのようだが、実際には肥満ではなく筋肉。これは実際の豚も同様で、体脂肪率でいえば人間のほうが大きい。一般的な人間の体脂肪率は20%だが、豚は15%だ。要するにオークは怪力である。
正面から襲われたら、ゴブリンに勝ち目はない。奇襲? 何それ、おいしいの?
というわけで、オークも武装した。
そして、こうした動きを注視している者どもがいた。
キオートの北の山、そのさらに北にある山を住処とするオーガたちだ。
「アイツラ チョーシニ ノッテヤガル……!」
「イマノ ウチニ ツブシテオコウ……!」
オーガは平均的な個体でも身長2.5~3mほどもある。しかも筋骨隆々の怪力だ。ゴブリンはもちろん、コボルトやオークでも勝ち目はない。
「オーガ ドモダ……!」
「ニゲロ……! コロサレル……!」
「ドーシテ オーガガ コンナ ミナミノ ホウマデ……!?」
北からオーガの攻撃を受けたゴブリンやコボルトやオークたちは、当然、南へ逃げた。
すなわち、キオートの街がある方角へ。




