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ゴミ49 達人、強権を発動する

ニアベイで見た看板のフラグ回収(前編)

 キオートに到着したが、領主に面会を求めたら門前で1時間待たされて、まだ返事がない。

 領主に何かあったのかもしれないので、安否確認のために突入した。すると、部屋の中から言い争う声が聞こえてきた。


「こんだけ説明してやってるのに、結局自分の首を絞めてるのがまだ分からんのにゃ!?」

「もうよい、下がれ! そなたの話は聞き飽きた!」

「呆れたにゃ! こいつは本物のバカにゃ! こんなのが領主なんて、キオートはもうおしまいにゃ!」

「下がれと言うに! ええい、こいつをつまみ出せ!」


 扉が開く。

 兵士が女を引きずるように連れ出すところだった。

 見ればその女は、猫のような耳が生えている。尻尾もある。獣人だ。


「なっ!? 侵入者だ! 衛兵! 衛兵!」


 俺たちを見て、領主が叫ぶ。

 言い争いでヒートアップしているところに知らない奴が現れて、混乱気味に興奮が加速しているといったところか。

 落ち着かせる方法は2つ……いや、3つか。諦めて絶望するしかないほど怖がらせるか、怒る必要または効果がないと理解させるか、撤退し距離を取って落ち着くのを待つか。ただし俺の都合で3番目は選べないので、実質2択だ。


「廃棄物処理特務大使、五味浩尉騎士爵である!

 国王陛下の名の下に、任務を遂行する! 全員大人しく従え!」


 強権の発動を宣言。

 これで1番目と2番目を同時に満たす。


「「陛下の……!?」」


 駆けつけた兵士たちが、一斉に跪く。

 そんな中で、1人の兵士が「あっ……やべ!」みたいな顔をした。門番のやつだ。


「ずいぶん待たされたが、ちょうどいいタイミングだったか。

 どうやら、そちらの話は終わったようだな。」


 猫の獣人と領主を交互に見ると、領主は頭の上に「?」が浮かびそうな顔をしたが、すぐにこちらを見下すような目を向けてきた。


「大使の強権は聞いているが、人の屋敷にいきなり押し入るとは、貴族になり損なった新参者は礼儀も知らぬとみえる。」


 そういう事を言うか。

 ならば、こっちもそれなりの対応といこう。


「取り次ぐから待てと言ったきり、門前に1時間も放置するとは、古参の貴族は頭の中まで古びて働きが悪くなったのかね? 任務遂行のため領主の安否確認を必要として立ち入ったが、ピンピンしているとは驚いた。陛下の名の下に動いている者を、かくも無碍に扱うとは、陛下への不忠も不敬も隠すつもりさえないという事か。よろしい。ありのまま、陛下にご報告申し上げよう。」


 領主は驚いた顔をして、門番に視線を送った。


「だから『申し上げます』と言いましたのに、『後にしろ』などとおっしゃるから……。」


 門番は俺のほうが強いとみて、領主を売りにかかった。


「ぐぬぬぬ……!」


 言い返せない領主がうなる。

 それじゃあ、本題に入るか。


「大使様に申し上げますにゃ!」


 口を開きかけたところで、猫の獣人が兵士を振り切って俺の前へ跪いた。


「あっ! 貴様……!」


 兵士が猫の獣人を取り押さえようと立ち上がるが、


「何ですか?」


 俺が話を聞く態度を示したために、それを邪魔してはいけないという権力差が発生して、兵士は立ち止まり、再び跪く。


「ウチは猫耳商会の会頭で、エコと申しますにゃ。」


 猫耳商会! 辻馬車を運営しているという、あの。

 招き猫の看板について聞いてみたいが……。


「実は、このキオートでのゴミ処理の問題について、お願いの儀がございますにゃ。」


 何らかの問題が起きているらしい。領主と言い争っていたのも、その事だろう。領主がダメだと分かって大使の俺を頼ってきたか。ゴミ問題であるなら、廃棄物処理特務大使たる俺の領分だ。分別方法が複雑すぎて面倒くさいとかなら、すぐに解決できるが、果たして……?


「聞きましょう。」

「ありがとうございますにゃ。

 実は、このキオートでは、ゴミの処分方法について領主様の命令があまりにも不完全なのにゃ。領主様の命令で回収されないゴミがあって、それは民間業者が回収しますにゃ。だけど、民間業者の中には集めたゴミを処分しないで、山の中に捨てるだけの連中がいますのにゃ。」


 なるほど。不法投棄……いや、不法かどうかは法整備の問題だから知らないが、つまりそういう事だな。毒になるようなものを、きちんと処理しないで適当に捨てるだけというのでは、周辺に様々な被害が出るだろう。


「具体的にその山の中に捨てられるゴミというのは、どんなゴミですか?」

「武具とか、あとは紙ですにゃ。」


 ……おや?


「毒になるわけでもなく、放っておけば朽ちて土に還るだけのもの。山に捨てようと、何の問題があるというのだ。」


 領主は「くだらん」と吐き捨てるように言った。

 なるほど、なるほど。そういう構造か。ならば意識改革が必要だな。そのためには実際の被害を教えるのがいいだろう。


「2つ確認したいのですが、その捨てる場所というのは、キオートから見て北の山ですか?」

「そうですにゃ。」


 やはり、だ。

 キオートの北の山。つまり、リュート湖の西の山だ。ならば捨て場所からリュート湖へ運ぶ者がいるはずだ。


「もう1つ。北の山に棲んでいる魔物の種類と、武装の状況は?」

「ゴブリンやコボルト、あとはオークもいますにゃ。

 奴らはぼろっちい剣や槍、弓矢や鎧を身につけていますのにゃ。山に捨てられたゴミは、そうやって魔物に拾われて利用されるから、魔物を強くしてしまって討伐が難しくなっていますのにゃ。

 放っておけば、いつ人里を襲うか分かりませんにゃ。幸い今は北の山の周囲に人里はありませんにゃが、将来のことは分かりませんにゃ。キオートの人口が増えて防壁の中に入りきらなくなったり、ニアベイが発展してリュート湖を囲むように拡大したりすれば、もしかするとこの先、北の山の近くに開拓村ができるかもしれませんにゃ。それに、すでにあるキオートが襲われる可能性だって、ないとは言い切れませんにゃ。」

「キオートには強固な防壁がある。魔物ごとき、恐るるに足りぬわ。」


 領主のアホが余計な横槍を入れるが、俺たちは示し合わせたように無視することにした。


「エコさんの言うことは、もっともです。

 すでに魔物に拾われたゴミは、魔物に利用されている。そして、魔物がそれを捨てる場所も問題です。それはリュート湖の西側に捨てられ、リュート湖をゴミが漂流しているのですよ。

 ニアベイではリュート湖を漂流するゴミが漁業用に設置している網に引っかかるなどして、迷惑しています。観光地として利用できるはずのビーチにも、大量のゴミが漂着していて、利用できない状況です。ニアベイが受け取るはずだった利益は、キオートからのゴミによって失われています。

 キオート領主は、この問題を取り締まることなく放置し、それによってニアベイにゴミを押しつけている。ニアベイが受けた損害を補填する義務があるでしょうね。もっとも、私はそのあたりの法律に詳しくないので、国王陛下にご報告して、そのご判断を仰がねばなりませんが。」


 漁業の損失だけでも大きな金額だ。その上、観光産業の損失までも、となれば……。

 領主は目を白黒させてうろたえた。だが、何も言えずに口をパクパクさせている。王様がこの問題を知ったらどうするか、想像できるのだろう。メイゴーヤの領主からゴミによる汚染の影響について報告を受けたら、俺を呼んで大使に任命したぐらいだ。たぶんあの王様は、俺から見ても「まとも」と思えるような判断をするはずだ。

 領主の顔を見て、エコさんは状況の好転を確信したらしい。ニヤリと笑った。そして、俺に向かって勢いよく頭を下げた。


「ありがとうございますにゃ!」

うんちく 獣人

 獣の特徴をもつ人間。外見上の特徴は、耳と尻尾だけ。顔つきやその他は人間と変わらない。

 耳は、人間の耳と獣の耳、両方がある。このため、フクロウの聴覚(左右の耳の位置が違うから音を立体的に聞き分けられる)と同じ原理で、聴覚が優れている。目を閉じたままでも、不自由なく暮らせるぐらいの聴覚である。

 実際、獣人は目が悪い。10mも離れたらハッキリ見えないのだから、人間でいえば近眼だ。遠くはボヤけてしまう。種族によって違うが、赤・緑・青などが見えず、全体的に茶色っぽい風景(つまりセピア加工した画像みたいな風景)を見ている。

 ただし、色を多く見られない代わりに明るさは敏感に感じ取ることができ、夜間など暗い場所での視認能力は人間より高い傾向がある。立体的に見える範囲は人間より狭いが、目や首を動かさずに見える範囲(視界の広さ)は人間より広い。動体視力が高いことも多く、小動物が素早く動き回る程度のスピードに対して、目で追えるように最適化されている。

 肉体的には、パワーやスピード、反応速度など全体的に人間より優れた運動能力を発揮する。ただし目が悪いので、弓矢や投擲など遠くを狙うことは苦手である。

 あとは種族ごとに異なる能力を持っている。たとえば猫獣人なら、柔軟性や瞬発力、バランス感覚に優れ、明るさの急激な変化にも素早く対応できる。真夏の屋外から急に部屋の中に入っても、暗くて何も見えないという人間のような「目が慣れるまで」という時間が、ほとんどゼロだ。

 エコの商人としての才覚は種族の特徴ではなく、個人または一族の才能である。

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