ゴミ48 達人、キオートに到着する
ニアベイを出発して、キオートへ。
実は、この行程だけは半日で済む。地理的に近く、移動時間は4時間ほど。20kmを少し越えるぐらいの距離しかない。
「ここがキオートか。」
「ずいぶん整然とした町並みだな。」
「古くはここが王都でしたからな。都市開発も進んでいるのです。」
完全に格子状に走る直線の道ばかりだ。
今の王都でさえ、人々が勝手に通った場所が道になり、その道を利用する形で発展してきた。当然道という道がすべて曲がりくねっている。それが普通だ。どんな大都市だろうと、そうなるのが当然なのだ。だというのに、このキオートは、まるで定規で線を引いたように碁盤目状の道ばかり。何も無い場所に最初から都市開発計画を立てて、計画通りに街を作ったのでなければ、こうはならないだろう。
「よほど特殊な成り立ちをしているのですね。」
「都市の霊的防衛……という、まあ、大昔の思想ですな。魔術がまだ今ほど体系化されていない時代の、魔法というには効果が不確かな代物です。
山には土の魔力があって防御の効果があり、川には水の魔力があって回復や浄化の効果がある。そして、これらは自然の魔力である故に、特に何もしなくても常にその効果を発揮し続けると考えられていたのです。そして、それらの効果を都合良く受け取れる場所に街を作るべし、という事です。
ちなみに、その魔法効果を都合良く受け取るためには、風通しが重要らしいので――」
「なるほど。それで、風通しが良くなるように、道をまっすぐに?」
「という事ですな。」
まるで平安京だな。風水を頼りに作られたとか何とか、そんな説があるんだったか。
でも中国の都市を参考にして完コピを目指したとかいう話もあったっけ。まあ、風水が中国から来た思想なんだから、どっちでも同じか。
◇
俺たちはしばらくキオートの街を観光した。
到着したのが午後5時近くだったから、1~2時間観光して食事を済ませ、それから宿屋に部屋を取るというのがちょうどいい時間だった。
「道に迷っても大丈夫そうなのはいいけど、ゴミ処理場はどこにあるのだ?」
「領主に聞きに行こう。」
廃棄物処理特務大使としての俺の立場は、近衛騎士と同格だ。すなわち、廃棄物処理特務大使としての行動にはすべて「国王陛下の名において」という看板がつく。下手なことをすれば王様の顔に泥を塗ることになるが、一方で貴族相手でも強権を発動できる。面会を拒否される事はないだろう。
ゴミ処理場の場所ぐらい、そこらの人に聞けば分かるかもしれないが、処理方法を変えるのだから領主に断りを入れておく必要がある。それに、キオートのゴミの処理方法がメイゴーヤと同じとは限らない。リュート湖の西から南へ流れたゴミは、明らかに人工物だ。大量のゴミをわざわざ遠方から運んでくるとは考えにくいから、一番近いという理由で怪しいのはキオートである。この街でゴミの処理はどうやっているのか尋ねておく必要はあるだろう。
◇
翌日、俺はさっそく領主に面会を求めた。
キオートの中心にある城が、領主の住居だ。王都のそれよりはいくらか小ぶりで、デザインの印象も異なる。最初にここを王都にした時代と、今の王都へ移した時代との間で、建築技術が発達し、実現可能なデザインの幅が広がったのだろう。
城門の前には門番が立っていた。
「廃棄物処理特務大使の五味浩尉です。
領主様にお目通り願います。」
「廃棄物処理特務大使……ああ、あの、新しく任命された……。
取り次ぐゆえ、しばし待たれよ。」
そう言うと、門番は城の中に入っていった。
俺たちは門前に放置された格好になる。
「廃棄物処理特務大使を知っている様子でしたな。
それにしては、扱いが悪いというか、まるで軽く見られているようですが。」
「そうなのか?」
アローが尋ねる。
俺も首をかしげた。
なにしろ、こういう場合の「普通」が分からない。
「国王の名において行動するという事は、すなわち国王の代理ということです。
その扱いは国王に準じたものにするべきですから、門前で立たせたまま待たせるというのは、あり得ぬ対応でしょう。待たせるにしても、中に通して部屋に案内した上で、というのが本来ですぞ。」
ふと、王城でやらかした男を思い出した。
あのときは俺がやり込めてやったが、もしかしてその意趣返しか?
◇
「さすがに、おかしい。」
門前で待つこと1時間。
取り次いで、会えるか会えないか聞いてくるだけなのに、なぜこんなに待たされるのか。
取り次ぐ気もないという事で立ち去っていいのか、まだ待たないといけないのか……。
「五味殿でもそう思いますか。」
「浩尉は気が長いな。」
アローとオーレさんが、ちょっと呆れた顔で俺を見る。……解せぬ。
「このサイズの城で、取り次ぐだけに15分も待たされたら長い方ですぞ。」
「10分で往復できるはずだ。」
2人はとっくに待ちくたびれていたという事か。
そういえば、転移前に日本で勤めていた会社は、敷地内に建物が2つあった。すぐ隣にあるのだが、それぞれの建物にそれぞれ固定電話があって、同じ会社なのに社外からかかってきた電話を隣の建物の電話へ回すことができなかった。
内線はかかるが、外線を別の電話に回せない。よく分からないが、それをやるには専用の設定なり工事なりが必要なのだろう。おかげで、事務所宛の電話が工場側へかかってきたときは、事務所から工場へ来てもらって電話に出てもらう必要があった。
『山田さんはいらっしゃいますか。』
「少々お待ち下さい。」
で、内線かけて、
「山田さんにお電話です。」
『すぐ行きます。』
と山田さんが事務所から工場へ走ってくる。
で、工場の電話をとって、
「お待たせしました、山田です。ぜぇぜぇ。」
という具合だった。
これで電話の相手を待たせる時間が1分から1分30秒といったところだ。
この城の中がどういう間取りになっていて、どれぐらい広いのか、よく分からない。それに、取り次ぐだけといっても、領主の安全確保のために何度もチェックを受けるような警備体制が敷かれているかもしれない。
だから、片道15分ぐらいかかる可能性はあるかもしれないと思う。往復30分。領主が多忙で、自分のスケジュールも把握できないほどだとして、執事とかがその管理をしているのなら、その執事を探すのにさらに30分なんて事もあるかもしれない。
そんなふうに思っていたのだが。
「ないない。」
「執事を探すって意味が分からんですぞ。
呼んだらすぐ来られるところに控えているのが執事ですからな。たとえ少々離れた場所にいても、所在確認はされているはず。メイドを走らせて呼びつければ5分もせずに現れるのが普通ですぞ。」
じゃあ、どうするか。
こういう場合、待たせすぎは無礼だと怒って帰るのが普通らしい。
だが、それはちょっと気に入らない。なんか負けたみたいだ。追い返されたというか、文字通り門前払いというか。
なので、強権を発動することにした。
「よし、突入しよう。」
「え?」
「一応騎士だからな。
何らかの異常事態が発生した可能性を考えて、領主の安否確認をしておくべきだ。」
というわけで城内へ突入。
王都の王城の間取りを参考にして、謁見の間を探してみると、言い争う声が聞こえてきた。