ゴミ47 達人、舟を手に入れる
ゴミ拾いLV6に目覚めたことで、ゴミ拾い道具の周囲1km以内にあるゴミを探知できるようになった。
リュート湖の南岸に漂着するゴミの出所を探すため、さっそく100組の「ゴミ拾い箸」を飛ばして200kmの捜査線を構築すると……しばらくして、ゴミの出所が分かった。
「で、ゴミの出所はどこなのだ?」
「リュート湖の西側だ。」
水面より高い位置に、ゴミが点在している。かなりの量だ。南岸に漂着したゴミよりも圧倒的に多い。
というか、かなりの量のゴミが湖底に沈んでいる。そっちも回収しておこう。
「西側の山に大量のゴミがあるようだ。」
西側に到着したゴミ拾い道具に、さっそくゴミを拾わせてみる。
探知だけでは「ゴミがある」としか分からないが、収納してみればどんなゴミか分かる。実際に手元のゴミ袋から取り出すことも可能だ。
「……紙が多いな。武具もあるが……。」
「紙?」
「というか、どうしてそんな所にゴミが? リュート湖の西側には人が住んでいないはずですぞ。」
オーレさんの言う通りだ。人間がそこで暮らしていて出たゴミだとは思えない。
処理場とも違う。
もっと小規模で乱雑に投棄されている。そして俺は、この感じをよく知っている。日曜日の清掃活動……不法投棄されたゴミの山だ。
「とりあえず、回収作業を始める。
周囲1kmは探知できるから、新しくゴミが到着すれば、到着させたやつの行方を追ってみよう。」
「という事は、西側へ行くのか?」
「道がないし、船で渡してもらうのが早いでしょうな。」
まあ、確かに軽く調べてみるのもいいが……。
「いや、直接行く必要はない。回収作業をさせている道具に追跡させればいい。
相手の全体像を把握してから、ゆっくり近づけばいいさ。」
「なるほど。」
「さっそく新しい力を使いこなしているようですな。」
というわけで、リュート湖南岸に漂着するゴミの対策は、これで一段落だ。
◇
昼には領主の家へ戻って、俺たちは領主に事の次第を報告した。
「そうですか……西から……。」
どうしたものか、と言わんばかりの顔で、領主が悩み始める。
あまり俺に頼ると、お礼に差し出すものがないからな。ハーピー討伐に失敗したり大量に使ったりして現金はあまりないという話だし、俺としては持ち運びに困るような物や、持って行けないようなものは困る。
だが、同時に複数の場所でゴミを回収するのは、今の俺には大した苦労ではない。
「すでに回収作業を始めています。今後は、リュート湖にゴミが漂着することはないでしょう。」
西側や南岸だけでなく、全周囲を網羅して、湖底でも回収作業を進めている。ゴミの量が減っていけば、リュート湖の生態系も勢いを増すだろう。いや、取り戻すというべきか。そして、それは漁獲量の拡大につながるはずだ。
「ありがとうございます。
なんとお礼を申し上げてよいか……。」
お礼の話が出たので、ちょうどいいから俺のほうから切り出すことにしよう。
「そうそう、その事ですが、船を頂きたい。
ゴミとして捨てられる予定の、使えるけれども古くなった船をお願いします。
サイズは、1人で操縦できるものを。」
「船ですか……それもゴミになる予定の……?」
意味が分からないという顔をする領主に、俺は「新品ではダメだ」「現役で使えるものはダメだ」と念を押した。
◇
港――
俺たちの前に、ぼろい小舟が用意された。
最大でも5人程度しか乗れないだろう手こぎ舟だ。もちろんオールもついている。
「本当にこんな物でよろしいのですか?」
領主と漁師たちが遠慮がちに俺を見ている。
だが、俺は満足してうなずいた。
「これがいいのですよ。」
よしよし、ちゃんと光って見える。
俺は小舟を持ち上げて、ゴミ袋に収納した。
なんとかゴミ拾い用具として判定されるようになれば、破壊不能のチート効果がついてメンテナンス不要になるんだが……まあ、それは後で考えよう。修理が必要になっても、使えそうな木材のゴミはたくさん収納している。
「ゴミでなければ収納できませんからね。持ち運ぶのに困るところでした。」
「なるほど。これでいつでも小舟を使えるわけだな。この先、水場を渡ることもあるかもしれないし、いい判断だな。いや、実にいい判断だ。さすが浩尉だな。」
「舟すら収納するとは……いやはや、なんとも……。さすがは五味殿だ。」
オーレさんが普通に驚いているのと比べて、アローがやけに盛り上がっている。実は船に乗ってみたかったのだろうか?
◇
リュート湖の南側は、湖から流出する川につながっている。領主いわく、リュート湖に流入する川はいくつもあるが、リュート湖から流出する川はこの1つだけだそうだ。
川には橋が架かっている。普通はそこを渡って湖の西側――キオートへの道を行く。
その手前4kmほどの湖岸で、俺は小舟の試運転をしてみることにした。ここなら湖を横切れば2kmで渡れる。4kmも南下してから渡るのは面倒だ。
「おお……! 気持ちいいな!」
「ははは。アロー殿は船は初めてですかな?」
「む……あ、ああ……そうなのだ。」
アローが照れながら答える。
その間も、小舟の縁から湖面へ手を伸ばすのをやめない。小舟が進むに従って、アローの手が湖面に線を引いた。
本当なら水の抵抗やらオールの重さやらを感じて、それなりに体力を使うのだろう。だから船頭という仕事がある。
だが、ゴミとして判定されているオールを使って、ゴミと同様に持ち上げられる水を掻き、ゴミとして判定されている小舟を動かす。ゴミの重量を無視できる俺にとって、この舟を漕ぐのはとても簡単で、力の要らない作業だ。小舟はスイスイ進む。決して航行速度がモーターボートみたいなチートになるわけではないが、人力でも疲れずに進み続けるというのは大きい。