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ゴミ41 達人、山に登る

 3日目、朝。

 街を出て、俺たちは西へ進む。地図上ではまっすぐ西へ向かうのが近いのだが、そこには山があって、高さもそれなりだが広さが大きい。全体を迂回するには遠回りになりすぎるため、比較的低い場所を狙って峠道が出来上がっており、俺たちもそこを通ることになる。

 この山は、複数の山頂をもつ山脈だが、どの山も山頂がテーブルみたいに平たい形状で、全体が1つの山のように見えることから、山脈全体を指して「池山」と呼ばれている。


「池山? 山なのに池とは?」

「ああ、それは……。

 この山のあちこちに、年に数回しか姿を見せない幻の池があるのです。」

「ほう? 湧水の量が変化するとかでしょうか?」

「いえいえ……山頂を越えれば分かるでしょうが、山の向こうに大きな湖があるのです。リュート湖というのですが、それはもう大きな湖です。港町が出来上がっていて、海と見まがうほどの大きさですよ。今夜泊まるのもその港町ですが……そこから湿った空気が流れ込むために、この池山の各地で結露して水がたまり、池になるのです。」

「ははぁ……なるほど。

 湿った気候のときには池が現れるが、いくらか乾燥すれば池は消えてしまうと。

 しかし、オーレさんは物知りですね。」

「ははは。これでも各地を旅してきましたからな。」


 などと話しながら歩けたのは、最初だけだった。

 午前8時に出発し、午前9時には山の麓に到着。そこから登山開始となるが、傾斜を緩くするために何度も折り返して蛇行している道をひたすら上らなくてはならない。たまに木々の切れ目から見晴らしがいい場所もあるが、大半は木々に囲まれて森の中。行けども行けども同じような風景をひたすら上り続けるのは苦行以外の何物でもない。1時間も上り坂をひたすら歩き続けると、さすがに無言になってしまう。


「だいぶ高いところまで来たようですが、これでどのぐらい進んだのでしょう?」


 退屈でもあり、俺は試しに尋ねてみた。聞いても聞かなくても同じ距離を歩かなければならない事には変わりないのだが、終わりが見えない中を進み続けるのはしんどいものがある。遠くても終わりが明確であるほうが、いくらか気持ちが楽になるだろう。

 ……と、思っていたのだが……。


「まだ3分の1といったところですな。」


 逆に絶望しただけだった。


「……あと2時間も上ると……。」

「喋ると余計に体力を使ってしんどいぞ。」

「それはそうだが……あ。」


 ふと大工を助けたときのことを思い出し、ゴミを取り出して、その上に乗り、ゴミを持ち上げることで空を飛べないかと……試してみたが、これは失敗した。ゴミだけなら持ち上がるが、俺が乗ると、俺はゴミではないので……五味ではあるが、ゴミではないので……ぷぷっ……いかん、おっさんがはかどってしまう。とにかく、まあ、そんなわけでパワー不足で持ち上がらなかった。LV5でサイコキネシスみたいに動かせるようになったものの、そのパワーは本体の俺より劣るらしい。相手がゴミなら重さを無視できるので結果は同じだが。

 とはいえ、ゴミ以外に対して全く力が作用しないという事でもないので、背中を押すようにして補助動力として使うと、少しは山登りも楽になった。





 あれから2時間後、ひたすら黙々と上り続けた。


「……ちらほらと休憩する人たちの姿が見えてきましたね。」


 俺は久しぶりに口を開く。

 山頂付近に至り、時間も正午近く。通行人も少なくないが、道端で休憩する人も見かけるようになった。食事を広げている人が大半だ。


「我々もそろそろ昼食に致しますかな。」

「そうですね。」

「この先は下っていくだけだろ? 頂上までは進んでしまわないか?」


 アローの提案にうなずき合って、俺たちは頂上まで進んでいった。

 多くの通行人が同じ事を考えているようで、頂上に近づくにつれて道端で休憩する人が増えてくる。

 休憩している人同士の会話が賑わしくなってきた頃、それに混じって別の声が聞こえてきた。


「……あれは……?」


 耳を澄ませると、遠くからギャアギャアとカラスみたいな鳴き声が。それも1羽や2羽ではない。それに、カラスよりはよほど大きな鳥だと分かる声だった。

 しかし森の木々に反響しているのか、方向がよく分からない。どうやら斜め上のようだと分かるが、前後左右が掴めないまま、俺とオーレさんはキョロキョロするしかなかった。他の人たちも同様だ。

 そんな中、アローだけは落ち着いた様子で一定の方向を見上げていた。


「……ハーピーか。」


 つぶやくと、アローは弓を構えた。コンパウンドボウのほうだ。すでに狙いを定めているようで、何かを追いかけるように弓矢をゆっくり動かしていく。相手が動いているらしく、アローはなかなか矢を放てない。


「ハーピー? あの胴体と頭が人間の女になっている鳥の怪物か?」

「そのハーピーでしょうな。他にそう呼ばれる生物はおりません。」


 俺の質問に、オーレさんが答えた。

 アローは黙って狙いを定めようとしている。


「話には聞きますが、初めて見ます。……まだ見えませんが。」


 動かない標的を仕留めることにかけては天才的なアローだが、相手が動いていると命中精度はゼロになる。ハーピーがどこかに着地するか、空中でホバリングしてくれるのでなければ、アローには当てられないだろう。

 かといって剣が届く距離でもあるまい。剣が届かなければオーレさんも戦力にならない。

 ゴミ拾いスキルしかない俺では最初から戦力外だし……。


「騎士団、前へ!」


 道が曲がったその先で、ガシャッ、と大量の金属音が響いた。

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