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ゴミ04 達人、人情に触れる

 朝になった。

 まずはパンツをはく。

 次に、昨日のうちに煮沸消毒して、今朝になるまで放置して冷ましてあった水。これを水筒に入れて……


「あーッ! こぼれた! もったいねぇ!」


 フライパンから水筒へ、だから無理もないか。

 なんとか水筒を満水にした。この水筒は2リットル入る大きなものだ。人間は1日に1.5リットルぐらい水を飲まないと、便秘になったり足がつったり肌が荒れたり色々する。運動して汗をかくなら、水はもっと必要になる。

 あとは塩だ。早急に塩が必要だ。ミネラルが不足すると判断力が鈍る。不足状態を続けると内臓の働きが悪くなり、疲労感が増す。急激に不足すると昏睡することもあるらしい。


「塩かぁ……。」


 マサイ族は塩を食べない。彼らはミルクだけで生きている。だがミルクの中には塩分も入っているので、塩分不足にはならない。水の代わりにミルクを1日2リットル飲めば、俺もマサイ族のように塩なし生活ができるわけだが……固形物を食べる文化で生きてきたから、それはつらいな。

 代用品として血液を飲む方法もある。ミルクはもともと血液からできているからな。とはいえ、味はとんでもない。血液を毎日2リットルなんて……おええええ。

 あとは草を食べるぐらいか。多少の塩分が入っていると思う。たぶん。分からないけども。……いや……でも……草かぁ……。


「ともかく、金を稼がないとダメだな。それと言葉か……。はぁ……。」


 ため息しか出ないぜ……。

 とりあえず、今日もゴミ拾いに行くか。





 朝市というやつだろうか。

 日本のお祭りで見かける、チョコバナナとかリンゴ飴とかわたがしとか売ってる箱形のテント。あんな感じの屋台がたくさん並んでいて、野菜を売っている。ヨーロッパを旅する番組とかでたまに見るやつだ。

 非武装の人々、特に女性が多く出歩いている。逆に武器を持った人はまったくといっていいほど見かけない。昨日あれだけ大勢いたのに、どこへ行ってしまったのだろうか?

 不思議に思いながらゴミ拾いを続けていくと、誰かを呼ぶような声がした。


「#$%&! #$%&#$%&!」


 何を言っているのか分からないが、果物らしきものを売っている屋台のおっさんが、俺を見ながら手招きしている。

 とりあえず言葉が通じない事をアピールしてみよう。


「俺に何か? あと言葉が分かりません。」

「#$%&? #$%&。#$%&#$%&!」


 ちょっと驚いたような顔をされたが、言葉が通じないのは伝わった様子だ。

 しかし関係ないと言わんばかりに、おっちゃんは屋台に陳列してあった果物を1つ手にとって、俺に差し出してくる。


「買っていけと? お金がないんですが。」


 ポケットに手を突っ込んでひっくり返してみせる。

 おっちゃんは大きくうなずいて、それでも果物を俺に押しつけるように差し出した。

 仕方がないので受け取ると、おっちゃんは何かをかじるような仕草をした。


「……食え、と?」


 受け取った果物とおっちゃんを交互に見る。

 おっちゃんは大きくうなずいた。

 タダでくれる、という事で合っているのだろう。

 かじってみると、リンゴと梨を混ぜたような味がした。シャリシャリした歯ごたえで、果汁もたっぷり。非常に美味しい。改めて腹が減っているのだと実感する。


「ウマーい!」


 涙が出そうだ。果物の味もいいが、人情が身にしみる。思わず叫んで、周囲の注目を浴びたが、そんな事は気にしていられない。夢中で食べた。

 全部食べてみると、中心に桃みたいな大きな種があった。硬くて食えないので、ゴミ袋に捨てる。


「ありがとう。」


 俺はおっちゃんに手を合わせた。宗教は違っても祈るために「手を合わせる」というのは万国共通だ。この世界でも同じかどうか分からないが、言葉が通じない以上、仕草の意味が通じると信じてみるしかない。

 おっちゃんは照れくさそうな顔で「しっしっ」と追い払うように手を振った。

 商売の邪魔になってはいけない。俺は念入りに頭を下げて、立ち去ることにした。

 考えてみたら、貴重なビタミン源だったな。ビタミンは熱に弱いから、焼き魚からは摂れない。生肉だとビタミンを摂れるらしく、野菜が育たない寒冷地ではビタミン源として生肉を食べるという話を聞いたことがある。ただし寄生虫に注意しないと腹を壊す。





 屋台が並ぶ市場のゴミ拾いを終えると、すっかり昼になってしまった。

 食糧はない。水だけ飲んで空腹を紛らわせ、今度は工房が並ぶ職人街へ向かった。

 鍛冶屋、革細工、縫製などなど、様々な職人がそれぞれの作品を作っている音が聞こえてくる。鍛冶屋からは金属を叩く音、靴屋からは革を叩く音、服屋からは布を叩く音……いや、布は叩いたんじゃなくて落とすようにボフッと置いたのかもしれないが。工房の中をのぞき込むような事はしない。買うわけでもないのに、忙しい職人たちを邪魔するのは失礼だろう。

 職人街の人通りは少ない。この時間はこうなのだろう。だから職人たちも作業に集中しているようだ。色んな音が聞こえてくる。

 ……と、不意に周囲を囲まれた。


「#$、%&#。」


 何言ってるのか分からない。

 だが、どうやらチンピラに絡まれたような状況らしい。

 左側にいた男が、いきなりゴミ袋を奪った。


「#$%&!」


 ヘラヘラ笑いながら走り去る男たち。

 その直後、ゴミ袋から大量のゴミが溢れた。津波のように噴き出したゴミが、男たちを押し流し、埋め立てる。


「なんだ、こりゃ……!?」


 チンピラどもも、まさかこんな事になるとは思わなかっただろうが、俺にとっても予想外の状況だ。

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