ゴミ39 達人、剣豪に出会う
検証の結果、ゴミ拾いLV5の効果は、ゴミ拾いの道具をサイコキネシス的な感じで動かせると分かった。さらなる検証を重ねた末に、どうやら射程距離とか持続時間とか同時操作できる数とかには制限がなさそうだと分かった。しかも、人を雇ったかのように複雑な命令を自動で実行できる。すッげーチートだ。
俺は、今までに拾った容器系のゴミと、捨てられた手袋を操り、メイゴーヤ西の平原にあるゴミをすべて収納するように命じた。あとは放置するだけで西の平原にすでにあるゴミと、これから来るゴミを、自動的に収納していってくれる。全国20都市、順に巡ってこれと同じものを設置していくだけで、俺の不労所得が完成する。
ゴミとして捨てられた雑巾をタオル同様にチート化して「絶対に拭き取る」効果をつければ、どんなボロボロの雑巾でも新品以上の機能を発揮する。これを使って紙袋とかの容器系のゴミを磨いて、大量のチートゴミ箱・チートゴミ袋を作り、街の住人に配れば、ポイ捨ては劇的に減るだろうし、街は綺麗になるだろう。しかも元手はゼロだ。
だが、ゴミを集めて西の平原まで運んでくる業者は必要なくなるだろうし、冒険者ギルドでスラムの子供向けに出されているゴミ拾いの依頼も不要になる。それらの仕事を奪ってしまうのは問題だ。だからチートゴミ袋の配布はやらない。
そんなわけで、準備も完了して、キオートに向けて出発した。
「最初は隣村だな。
なんか久しぶりだ。」
「西の村に行ったことがあるのか?」
「前に1度な。」
とか何とか言いながら、アローに魔物を狙撃してもらいながら安全に西の平原を抜けて、毒素が流れ込んでいた病人だらけの村へ。今やそこは健康な村人であふれ、作物も元気に育っている。教会に立ち寄り、久しぶりに神父様に会って近況報告。ついでに、そのまま宿代わりにさせてもらう。
「五味様、ようこそのお越しをいただきまして、光栄の至りでございます。」
なんて、村人たちや神父様にやたら歓迎されて、アローと一緒にちょっと戸惑いながら。
教会には巡礼者のために部屋を貸す用意があるのだ。まあ、実際には巡礼者よりも病人とか怪我人とかが運ばれてきて、病院代わりにされている事が多いのだが。
夕方から雲が広がり始めていたが、夜には土砂降りになった。降られる前に村に到着できてラッキーだった。
◇
明けて翌日、昨夜の雨は嘘のように晴れ上がり、俺たちは村を出てさらに西へ。
午前10時頃、俺たちは大きな川にさしかかった。川幅が広く、橋が架かっていない。今の技術では、そこまで長い橋は造れないのだろうか? あるいは、この濁流が原因かもしれない。昨夜の土砂降りで川は大増水。茶色く濁った水が勢いよく流れている。
「「やれやれ……参ったな。」」
思わずつぶやいた声が、誰かと重なった。
振り向いてみれば、そこに冒険者風の男が1人。立派な装備に身を包み、腰には剣を帯びている。
相手も俺のほうを振り向いており、目が合った。
「いやはや、参りましたな。」
剣士が肩をすくめて苦笑する。
「ええ。これでは渡し船も出せないでしょうね。」
「渡し船……?
いや、ここには橋が架かっているのですよ。増水したせいで水没しておりますが、頑丈な石橋です。水が引いてくれれば渡れると思うのですが。」
「ほう? そうでしたか。
それなら、お任せ下さい。」
「うん? 何か手があると?」
「ええ。まあ、見ていてください。」
腰のカラビナから外して火ばさみを手に取り、川の濁流へ……ひょいっと。
「おお! なんとなんと……! 川の水を持ち上げるとは!」
キャンプ地で何度かやった事だ。川のサイズが大きくなろうとも、問題はない。
そして、持ち上げた濁流の下から、石橋が姿を表した。
「今のうちに渡ってください。俺たちも渡ります。
アロー、行くぞ。」
「……デタラメだな。こんな事ができたのか……。」
アローが面食らっている。
そういえば、アローに見せたのは初めてか?
◇
俺たちは無事に石橋を渡った。
足止めを喰らっていた人は他にもいて、彼らも一緒に渡った。
そして、俺たちが渡ってきたのを見て、対岸にいた人たちも俺たちと入れ違いに橋を渡っていった。
ずっとそうしているわけにはいかないので、人が途切れたところで撤収する。後から来る人たちには、自分で何とかしてもらおう。最悪、数日待てば水も引くはずだ。
「いやはや、誠に助かりました。
私はAランク冒険者、オーレ・ツエー・ブーンと申します。本当はもっと長い名前なのですが、自分でも覚えておらんのですわ。」
「分かります。この国の人たちは名前が長すぎますね。特に王様の名前が長い。」
「まったくです。」
「俺は五味浩尉です。こっちは俺の護衛に雇った冒険者のアロー。」
「うん? アロー? ……では、あなたが噂の壊れた……いや、失礼。
しかし……?」
オーレが戸惑っている。
アローの悪評を知っているのだろう。魔法が使えず、矢も当たらないと。護衛に雇っても役に立たないと思っているはずだ。
いっちょ宣伝してやるか。
「オーレさん。彼女はね、近距離で動く相手を狙うのは下手ですが、遠距離から動かない相手を狙うのは得意なのですよ。だから特別に射程距離の長ァ~い弓を差し上げました。彼女の能力に誰も気づかないのが不思議ですが、冒険者で弓矢を使う方々というのは、遠距離から狙うことをしないのでしょうか? 実際の腕前は『凄まじい』の一言ですよ。」
「ほう?」
「いや、もう、凄いものです。なにしろ彼女は目がいい。俺の目ではまだ敵の姿も見えないうちに、遙か遠くの砂粒ほどにしか見えない小ィ~さな魔物を1発で射止めてしまいます。それだけ遠いと魔物もこちらの気配に気づかないのでしょうね。まるきり動かないまま、一方的に死んでいくようで。おかげで道中は生きている魔物を見かけないのですよ。」
「それほどですか。」
「それほどです。彼女はもっと評価されていい。
同じ冒険者のオーレさんには失礼ですが、彼女の真の能力を知れば、悪評を立てる冒険者たちの目は腐った節穴だと言わざるを得ませんね。」
「ひ、浩尉……もう、そのへんで……。」
アローが照れて止めてきた。
嘘ではないが、実際にはまだそれほど多くの魔物を倒したわけではない。なにしろメイゴーヤ西の平原では植物が少なく、従って餌が少ないために動物も魔物も少ないのだ。
「私のことよりも、『剣豪』と名高いオーレ殿に出会えたことは幸運だ。
なにしろ、強すぎてパーティーメンバーが置き去りになるからパーティーを組めないという人だ。Aランクの中でも、最もSランクに近い冒険者と言われている。」
「へぇ? それほどの人物なのか。確かに立派な格好だが。」
「いやいや、お恥ずかしい。
私など周りに足並みをそろえる事もできない未熟者ですよ。それに、剣以外はからっきしで。対応できない局面も多く、それゆえSランクにはなれないのです。」
「尖った実力をもつ、はぐれ者同士、というわけですか。
……どうでしょう? オーレさんも、この先へ進むのなら、道中ご一緒して噂に名高いというその剣の冴えを披露して頂くわけには?」
「構いませんとも。
私もアロー殿の真の実力には興味があります。」
というわけで旅の連れが増えた。
ちなみにオーレさんの目的地は、キオートのさらに西にあるダイハーンらしい。俺が巡る予定の全国20都市の1つでもある。




