ゴミ35 達人、任命される
王様に呼ばれて王城にやってきた。
少々悶着もありながら、いよいよ本題に入る。
「メイゴーヤの領主から、同都市および周辺の村落において、そなたのゴミ処理が住民の健康状態を改善する効果が認められるとの報告があった。
ゆえに、そなたにはメイゴーヤを含む全国20都市で、同様のゴミ処理をおこなってもらうべく騎士爵に任命するとともに、廃棄物処理において特段の権限をもつ『廃棄物処理特務大使』に任命し、その扱いを近衛騎士と同格とする。
この任命によって、そなたは関所等において荷物の検査や通行税の支払いを免除され、貴族用の通用口から速やかに通行することが可能となる。と同時に、禁制品等の『法的に問題のある廃棄物』を発見した場合、これを速やかに報告する義務を負い、たとえ貴族に対してでも当該廃棄物に関する捜査権を有することとなる。
貴族は、彼が要請した場合は、捜査に協力せねばならない。」
要するに、ゴミ処理のために全国20カ所を巡って歩けという事だ。
そのために関所で足止めを喰らわないように便宜を図る代わり、何かヤバいゴミを見つけたら報告と調査をしてこいと。
そして貴族は俺に協力しなさい、というわけだ。邪魔をするな、という意味でもあるが、貴族自身がヤバいゴミを出していたら、協力するふりをして証拠隠滅を図るぐらいはしてくるだろう。
法的に問題のある廃棄物については、この国が廃棄物についてどんな法律を用意しているのか調べる必要があるな。日本は自治体ごとにゴミの出し方が違っているが、この国でもそうなら、けっこう面倒な事だな。まあ、貴族だけが一方的に義務を負う話ではないというわけだ。
とはいえ、メイゴーヤであんな大雑把な処分方法を採用しているぐらいだから、あまり細かい分別とか複雑な手続きとかは制定されていないと思うが……。
「謹んで拝命致します。」
というわけで、特務大使の騎士になった。
騎士爵というのは、領地をもたない貴族みたいなものだ。貴族として名を連ねるが、本当の意味で貴族だとは認められない。平民に毛が生えた程度の、単なる名誉称号である。平民としては一目置かれる存在になるが、貴族としては「なり損ない」程度の格下の存在だ。
しかし近衛騎士と同格の扱いという事は、国王直属という意味である。その役目を果たすために動いている場面では、全ての行動に「国王の名の下に」というのが接頭語みたいにまとわりつく。下手なことをして王様の顔に泥を塗ることはできないが、反面、王様の名を借りてかなり強い権力を振るえる。それこそ、貴族といえども俺の行動を邪魔できないほどの強権だ。まあ、行動といってもゴミ処理なんだが。
とはいえ、ありがたい権力ではある。たとえば、立ち寄ったついでに「20都市」には含まれないけど隣の街のゴミもついでに処理してくれ、みたいな事は、頼まれても断れるわけだ。俺のゴミ処理で領民の健康状態が回復し、それで税収がアップするようなら、俺を領地に引き留めて全部の都市・街・村のゴミを処理させようと考える貴族が出てきてもおかしくない。そして、そんなのを引き受けていたら、忙殺されて他の20都市に移動できなくなる。
「では、これを受け取るがよい。」
王様が言うと、文官が2人で俺の前へやってきた。1人がトレーの上に何やら載せて持ってきている。もう1人が、そのトレーから1つずつ手にとって、俺の左胸に取り付けた。
騎士爵を証明するバッジと、特務大使を証明する身分証を渡された。
それと地図だ。国全体の略図に、20カ所の注釈が書き込まれている。巡るべき20都市の位置と名前だ。縮尺率が大きすぎて正確な位置は分からないが、近くまで行けば、細かい道順は人に聞いたら分かるだろう。
地図が雑なのは仕方がない。地形情報は軍事機密なのだ。もしも地球の地図サイトみたいなレベルで地形情報が漏れてしまったら、他国の攻撃部隊が警備隊の駐屯地を迂回して国境からずっと発見されずに王城へ忍び寄ることさえ可能になる。人工衛星みたいな観測魔法は存在しないし、人を乗せて飛べるような大型飛行生物の調教には成功例がない。
さて、この地図を見るに、この国は北東から南西までのびた細長い国土だ。東側は海に面し、西側は大陸の内陸部へ続いているが、山脈によって隣国と隔てられている。現在地(王都)は東側の海岸近くで、南北でいえば中央に位置する。日本でいえば東京ぐらいの位置だ。王城から海岸は見えないが、地図を見る限り、南東へ進めばそう遠くない距離に海岸があるようだ。
メイゴーヤは西へ300kmの位置。南に海岸がある。俺はどうやら、ほとんど海岸沿いを進んで王都まで来たらしい。海岸が見える距離じゃなかったから知らなかった。
巡るべき20都市のうち、かなりの割合が王都周辺に集まっている。その一方で、メイゴーヤよりもさらに西にある都市や、はるか北東にある都市も記されている。
「さて、特務大使よ。まずはどこから巡るかね?」
「一旦メイゴーヤに戻ります。
道中の護衛が必要で、すでにそのアテはありますので。
しかる後、まずは南側から順に進めていこうかと。」
転移したのが5月30日、それから言葉を覚えたりコンパウンドボウを作ったりしている間にどんどん時間は過ぎていて、腕時計の表示によると今日は12月30日だ。ずいぶん寒くなっている。これだけ日数がたっても時計の時刻が狂う様子がないことから、この世界でも1日は24時間だ。そして8月頃に暑くなり、10月頃に涼しくなって、11月から寒くなり始めたから、おそらく1年は365日ぐらいだと思われる。
とすると、今から北へ行くのは危険だ。雪に行く手を阻まれるだろう。逆に南は今のうちに済ませておかないと、暑くなったら地獄じゃないだろうか。そういうわけで南からだ。
「うむ。
そなたの働きに期待しておるぞ。
しかと励むがよい。」
そのあと報酬や労働条件の詳細を確認して、王城を出た。
仕事量が20倍になるので、報酬額も20倍にしてもらった。やったね。一気に大金持ち……とまではいかないが、ちょっとした金持ち、小金持ちだ。
◇
宿屋でアローと合流し、今後の予定を確認すると、アローはちょっと嫌そうな顔をした。
「20カ所も? それに、1周したら終わりってわけじゃないよな?」
「そうだな。
スキルレベルが上がって、複数箇所で同時にゴミ処理ができるようになればいいが……。」
そんな都合よくいかないよなー……とか思いながら、一応ステータス画面を開いてみる。
名前:五味浩尉
種族:達人
年齢:39
性別:男
技能:ゴミ拾いLV5
スキルレベルが上がっていた。
第1章・完!
そして今更、日付と季節を設定。
明日の更新分ではキャラクター紹介をおこない、明後日から第2章を始めます。