表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/245

ゴミ32 達人、装備を調達する

 アローの実力が思ったより凄かった。狙撃手としては超規格外だ。目が良すぎて、高速でランダムに動き回る相手さえも止まって見える。だから逆に命中精度が悪いのだが。動き回る目標を正確に狙っていたら、矢が届くまでに相手が移動する。当たらなくて当然である。

 狙撃手として動けばアローの評価は全然違っていたはずだが、今までのアローは狙撃手として動いていなかった。中距離や近距離で、アローには適性のない連射・乱射をやっていた。

 弓矢で連射をやるには、弓を左手で持つなら矢を弓の右側へつがえた方がいい。弓道では連射しなくても右側にするが、アーチェリーでは(ひだり)なのだ。右につがえれば、次の矢をつがえる時に、弓を迂回する手間がなくなるので、急げば1秒に1本ずつ撃てる。矢を持つ手で、指の間に矢を挟むようにして持てば、矢筒から取り出す時間をも省くことができ、1秒間に3連射できる。これはファンタジーではない。この技は実在する。現代の地球で実際にその技を身につけている人がいるのだ。彼は0.6秒で3連射できる。

 当然この連射速度なら、引き絞っている間にしっかり狙うという手順は省略される。狙うと決めた角度に、弓矢が自動的に向けられる技量がなければならない。拳銃の早撃ちでは、照準器で狙うまでもなく腰だめに構えて撃つが、それでも正確に狙った場所に当たる。それと同じことだ。そもそも自分も相手も動き回るから連射が必要なのであって、じっくりしっかり狙う暇などない。

 だがアローは左側へつがえる。その方が狙いやすいから。矢を持つ右手を頬につけるように引き絞ると、右目で矢が向いている方向を正確に見ることができる。銃の照準器を使うような感覚だ。このため弓の左側に矢をつがえる必要がある。右につがえると、弓が邪魔で矢の先端が見えなくなってしまい、照準器として使えない。

 実際、地球人でもアーチェリー競技者や、ハリウッド映画の俳優などは左側に矢をつがえる。遠くの動かない的を狙うために、こういう技法になったのだ。つまり、左側に矢をつがえることは精密射撃に向いている。狙撃のための技法だ。その代わり、次の矢をつがえるために弓を迂回して矢を左側へ運ばなくてはならないので、連射速度は5秒に1本が限界である。狙わず適当に撃っても3秒に1本が限度だ。


「というわけで、視力検査も終わった結果、アローはやっぱり狙撃手に向いている事が分かったわけだ。

 ロングボウを買いに行こう。

 それと狙撃手としての動きを覚えてもらわないとな。」

「狙撃手としての動き、とは……?」

「遠くても動かない的なら当たるんだろ? まず、その点はすでにクリアしているわけだ。

 だったら次に、見つからないように、反撃を受けないように動くことだな。掩蔽、偽装、それに同じ場所にとどまらない事だ。使いやすい地形を選ぶ選定眼、現地の植生に反するとかの不自然にならない偽装の知識と技術、常に動き回れるように逃走経路を確保する土地勘と身体能力。」

「え? 弓矢の技術と関係ない分野なのか?」


 アローがきょとんとする。

 なるほど。今までは隠れるとか考えずに撃ちまくっていたからな。


「弓矢を使うために、環境を整えるという事だ。関係ないわけじゃない。」

「それは分かるが……考えた事もない領域だ。」

「大丈夫だ。アローならできる。」

「何を根拠に……。」

「できなければ、今の評価のまま――」

「やってみせる。」

「その意気だ。」


 というわけで移動開始。まずは街を目指す。





 街に到着した。

 その足で弓具店へ向かう。剣とか槍とかを売っている武器屋とは別で、弓矢は弓矢の専門店がある。弓矢にはほとんど金属を使わないから、製造元が剣や槍とは違うのだ。手入れの方法も違うし、保管方法も違う。だから武器屋としても独立していて、全く別の店になっている。

 そこで面白いものを見つけた。「C」みたいな形になっている棒だ。素材は動物だろう。


「逆反りの弓か。」


 ショートボウの大半は単弓だ。単一素材から作られた弓で、木製が多い。「)」みたいな形の棒に弦をつけて弓にするわけだ。

 単弓の表面に動物の革を巻くなどして弾力を高めたものを、強化弓という。表面に何かを巻いただけという強化法なので、英語では「ラップドボウ」という。つまり「包んだ弓」という意味で、直訳すれば「梱包弓」か。構造を分かりやすく言い表すという意味では、強化弓という名称より適切かもしれない。

 この強化弓に対して、表面に何かを巻くだけでなく、そもそも中身を複数の素材で作ってしまおうと考えたのが、合成弓だ。その結果、弾力が非常に強くなり、大きく曲げても折れない弓になった。ならば大きく曲げて使おう、と誕生したのが、逆反りの弓だ。弦をつければ「)」になるのに、外すと裏返って(逆側に反って)「C」になる。当たり前だが、強いし、射程距離も長い。そして逆反りの程度が大きいほど弾力も強いので、弓全体を小型化できるメリットがある。

 逆反りの程度をあまり強くできない場合は、弓を大型化するしかない。日本の弓はそういう理由で大型化したのだろう。ロングボウでも150~180cmなのに、和弓は2.2m以上ある。


「アロー、引けるか?」


 展示用に弦が張ってある弓を手に取ると、アローは引き絞ってみせた。

 かなり力が必要なはずだが、細身なのに凄いパワーだ。そういえば、野球部だったときに弓道部のやつと腕相撲したら負けたっけ。俺は男で、相手は女だったけども。


「とりあえず、そいつでどうだ?」

「問題ない。」


 購入決定。

 ついでに矢も補充して、今日はこの街に泊まることにした。

 ところが、せっかく買った弓矢は、その後しばらく出番がなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくれてありがとうございます。
楽しんでいただけたら、幸いです。

「楽しめた」と思っていただけたら、上の☆☆☆☆☆をポチっと押していただきますと、作者が気も狂わんばかりに喜びます。
バンザ━━━┌(。A。┌ )┐━━━イ!!

「続きが気になる」と思っていただけたら、ブクマして追いかけていただけると、作者が喜びのあまり踊りだします。
ヽ(▽`)ノワーイ♪ヽ(´▽`)ノワーイ♪ヽ( ´▽)ノ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ