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ゴミ31 達人、視力検査をする

 アローには、狙撃手として高い能力がある。

 それがどれほどなのか、調べてみよう。


「というわけで、アローの実力がどんなものかテストしてみよう。」

「で、どんな事をやるのだ?」

「まずは検査器具を作ろう。」


 ゴミ袋からゴミを取り出し、的を作る。スラム街で回収した謎の黒い汚れをインク代わりにして、的に「C」と書いて地面に立てる。

 そして「C」の切れ目が見えなくなるギリギリの距離を探して、マークする。

 俺の視力は1.0だ。会社の健康診断でやったから、過去1年以内の話である。俺の目でギリギリ「C」の切れ目が見える距離。これが視力1.0の距離だ。


「アロー、ここからあの看板の円の切れ目が見えるか?」

「もちろん。」

「じゃあ、2倍の距離をとったら?」


 2倍の距離から見えれば視力2.0、3倍の距離で見えたら3.0、2.5倍の距離で見えたら2.5といった具合だ。

 結果、アローの視力は10.0だった。30m以上離れても、俺の腕時計の秒針(幅1mm)が見える。実際には計測不能だが、計算上は5km以上離れても人間の頭が見えるということだ。まさに双眼鏡いらず。射程2kmの狙撃銃を、スコープなしで撃てるほどだ。


「じゃあ、動体視力はどうだ?」


 棒きれの先にマークを書いて、それを思い切り振る。

 棒の先端はすごい速度になるから、これが見えたら、動体視力もすごい。


「星形のマークだったな。」


 バッチリ見えていた。

 剣士が剣士と戦うときは、相手の剣の先端など見ない。相手の体全体をぼんやりと見ることで、動き出す瞬間やフェイントを見切る。剣は体の延長線上にあるから、体の動きを見れば剣の位置も軌道も分かる。剣の先端なんて見ていないし、見えていない。

 達人の種族特性で理解できるということを理解したせいか、理解しようと思ったことが理解できる。剣士のことなんて知らないはずなのに。それはともかく――

 ところがアローは、剣の先端が見える。見えるからといって対処できるほど素早く動けるかどうかは別問題だが、いきなり素早く動かれても目で追うことができるという事だ。事実、アローの矢は放たれる瞬間まで正確に狙いをつけていたし、狙った通りの場所に命中していた。ただ、命中したときには相手がもうそこに居ないだけだ。


「深視力を測ってみよう。」


 狙撃手に向いているのなら、距離感をつかむ能力も大事だ。

 距離を取って、棒を数本並べる。

 同じ距離にある棒はどれか、という問題である。


「右から2番目と、一番左。

 右から3番目と、左から3番目。

 あとはバラバラだな。一番近いのは真ん中のやつで、一番右のやつが一番遠い。」

「正解だ。」


 遠近感も素晴らしい正確性だ。

 これなら距離の目測を誤ることもないだろう。


「動く相手を視認する能力、もっと厳しいやつをやってみようか。」


 竹とんぼのような物をつくる。

 原始時代の火起こしのように、これを両手で挟んで擦るようにすると、錐揉み回転して、棒を振り回すのとは比べものにならない速さでプロペラが回転する。泡立て器のグリップが綺麗な円柱状に近ければ、やってみるといい。普通に使うより遙かに簡単かつ高速に撹拌できる。多少楕円形でもやればできる。電動泡立て器には回転数で劣るかもしれないが、片手で握ってガシャガシャかき回すよりは絶対に早い。メレンゲを作るときなんかは非常に楽だ。当然だが回転数だって無段階で調整できる。押すだけで回転する泡立て器はバネが強いものもあるし、斜めにすると使えないが、手動で錐揉み回転する方法なら力は要らないし、斜めにしても使える。

 ブーンと回してやると――


「五角形だな。」


 アローはしっかりマークが見えていた。

 俺の目には半透明の円盤にしか見えないが。


「マークが見えるってことは、プロペ……この回転する横棒がハッキリ見えているって事か?」

「もちろん。」


 右から左へとか、上から下へとか、そういう動きなら動体視力だ。動体視力とは、目標物の動きを追って眼球を素早く動かし、ピントを素早く合わせる、眼筋の敏捷性なのである。

 ところが竹とんぼサイズの回転するプロペラがハッキリ見えるということは、そこに眼筋は関係ない。なにしろプロペラ全体が視界に収まっているから、眼筋を動かさなくてもプロペラが見えているのだ。

 そのプロペラがハッキリ見えているということは、これは時間分解能だ。1つの静止画として認識できる「一瞬」の長さが短い。たとえばテレビの映像は、少しずつ異なる静止画を連続で入れ替えて動画に見せているが、入れ替えるペースが早いために1枚1枚の静止画を認識できず、従ってコマ送りには見えないで動画に見える。蛍光灯も本当はごく短い時間に点滅を繰り返しているが、人間には認識できない短さなので、ずっと点灯しているように見える。


「なるほど、なるほど。」

「今のは何だ?」

「今のが見えるなら、アローは目が良すぎるという事だ。

 動く標的に矢が当たらないのは、標的が動いていると認識できないからだよ。平たく言えば、止まって見えるということさ。これは治しようがない。能力が高すぎるのが問題なんだ。近距離での弓矢の戦闘は諦めるしかない。短剣でも使った方が強いだろう。

 その代わり、狙撃手としては凄まじい才能だ。矢が届く限り、5km先の人間にだって命中する。」


 自分の呼吸や手ぶれさえも、コマ送りのように見えるということ。発射するべき一瞬を確実に捉えることができるという事だ。


「5kmって……矢は300mぐらいしか飛ばないぞ。」


 ショートボウなら200m、ロングボウなら400m。

 ただし、これは斜め上に発射して、矢が届くだけの距離だ。これを最大射程という。

 殺傷できる距離――有効射程となると、その半分ほどになる。

 有効射程を超えて飛ぶ矢は、実際には落下しているだけだ。20~30gの物体が落下してくるだけ。命中しても大したダメージにならない。


「普通の弓ならな。

 俺の弓なら1kmは飛ぶはずだ。」


 有効射程はその半分ぐらいだろうが、それでも圧倒的な長射程だ。相手の矢が絶対に届かない距離から、一方的に殺傷力を叩き込める。何なら爆発する矢でも使えば、最大射程がそのまま有効射程になるのだから、ますます圧倒的である。

 問題は風に流されたり標的が動いたりする可能性だ。さすがに着弾するまでそれなりの時間がかかるだろう。アローの性質からしても当然止まっているところを狙うことになるが、風に流されるのはどうしようもない。実際の運用はもう少し近い距離からという事になるか。

 いずれにせよ、そこまでの距離を取れば、潜伏の技能すら不要かもしれない。

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