ゴミ03 達人、キャンプする
とりあえず急ぐべき課題は、飲み水の確保だ。街の中に川があったので、その川を遡上してみることにした。街の中で川の水を汲むと、上流で誰が何を垂れ流しているか分からない。生活排水ぐらいは入るだろうし、絶対に川に放尿する奴がいるはずだ。
当たり前だが川は街の外から引き込まれていた。街をぐるりと囲む壁に、川の部分だけ鉄格子がはめられている。その鉄格子にやたらと草やら木の枝やらが絡みついている。誰も掃除していないことが見て取れる。そのうち詰まって水が流れなくなるぞ、これ。
門へ回って街を出る。そして川へ。靴と靴下を脱いで川に入り、鉄格子に絡まったゴミを拾う。
「いい川だな。」
冷たくて綺麗な水が流れているし、川魚もちらほらと見える。
鉄格子に絡まったゴミを全部拾って、流れがよくなったところで、キャンプの用意を始める。今日はここで寝よう。まずは川沿いのそこそこ平らな場所で、草を踏み固めていく。寝具がないから、踏み固めた草がベッドマットの代わりだ。掛け布団はないが、段ボールがあるし、ビニール袋もある。
「ここをキャンプ地とォ~するッ!」
ゴミ袋からテントを取り出し、ポールを組み立てて、ペグを刺していく。
カセットコンロを試してみたが、ガスがないようだ。残念。
釣り竿を取り出して、川底の石を拾う。
「みっけ。」
川底の石には小さな虫が貼り付いている。この世界でも同様のようだ。中でも捕まえやすいのは、砂利のような小さい石を集めて大きい石に貼り付いている虫だ。名前は知らないが、小石を接着剤のような何か(たぶん蜘蛛の糸とか雀の唾液みたいな粘着性の体液だろう)で貼り付けて1cmぐらいの細長いドームを作る。たぶん巣なのだろう。その中に高確率で虫が居る。巣の中にこもっていて動かないので簡単に捕まえられる。
この虫を釣り針につけて、釣りを試みた。
◇
1時間ほどで、ようやく魚を1匹釣り上げることができた。
俺って釣りの才能ないのかな?
ともかく、食糧ゲットだ。
次は火をおこそう。枯れ枝を大小4つ拾う。転移前に拾ったロープをほぐして糸を取り出し、細くて長い枯れ枝に結びつけて弓のようにする。その弓もどきの糸を、もう1つの細い枝を巻き付けて、太めの枝で上下から挟む。太めの枝には、ナイフで削ってくぼみを作っておいた。あとは弓もどきを往復させれば、摩擦熱で高温が発生するというわけだ。
ポケットの隅に貯まる細かいホコリのような塊が、いい着火剤になる。
「よっしゃ! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」
ギャルルルルルルルルルル! と枝が回転する。いい感じだ!
◇
はい。あれから2時間が過ぎました。
まったく、大変な大仕事だった。まさか火をおこすのがこんなに大変だとは。
フライパンをたき火の上へかざして加熱し、そこにつり上げた魚をライドオン! ジュウジュウといい音がする。
「うへへへ……じゅるり……。」
苦労の分だけ達成感があるッ! ……誰かに見られていたら、少々キモい顔をしていても許して欲しいものだ。
ジュウジュウ……チリチリ……よし、こんなもんか。いい感じに焼けた魚を、パクッと!
……パクッといったが……。
……もしゃもしゃ……。
「……うーん……塩気がほしい。」
五味浩尉、39歳! 異世界に転移して、調味料の偉大さを知るッ!
……ダメだ。無理にテンション上げても、あんまりウマくない……。
まあ、食えなかったかもしれないメシだ。贅沢は言ってられない。
「食糧はしょうがないとして、水の確保といこう。」
地球では生水を飲める地域は希少である。日本だとその実感はないが、世界的には煮沸消毒しないと飲めない水のほうが多い。そうしないと下痢になるのだ。なぜなら細菌が多く入っているから。そして細菌は煮沸すると死ぬ。薬剤を使わない原始的な方法だが、効果は抜群だ。
魚を焼いたフライパンを、そこらへんの草をちぎってこすりつける。たわしの代わりだ。手を洗うのにも洗剤の代わりになるほど綺麗になる。この方法は祖父から教わった。もう10年も前に死んでしまったが、子供の頃からずいぶん可愛がってくれたものだ。
洗ったフライパンに川の水をくみ、たき火にかけて沸騰させる。5分間の煮沸消毒。これでおそらく安全な水になったはずだ。あとは火からおろして、冷めるのを待つ。
「よし、と……。」
湯が冷めるのを待つ間に、服を脱いで、首に巻いていたタオルを川の水で濡らして絞り、体を拭いていく。タオルを持っていてよかった。そうじゃなければ、水浴びしたまま乾くまで待つしかないところだった。清潔の維持は病気の予防になる。言葉が通じないから医者に症状の説明をすることもできない。そもそも医療費を支払えないから、診てくれないだろう。病気や怪我は最も避けるべき事態だ。
「あれ?」
タオルで体を拭いたのに、肌が濡れなかった。ぬれタオルなのに……? タオルを触ると、濡れているのが分かるが、触っても肌が濡れないようだ。体は凄くサッパリしたが……どういうことだろう?
「まあ、考えても仕方ないか。」
どうせ分からない。
凍死する危険を避けるために、服は洗わずにそのまま着る。だがパンツだけは洗って干しておこう。ちょうどテントが破れて穴が空いているので、その穴にロープを通して、ポールに結びつける。これで物干し竿の代わりになる。あとは火の始末をして、段ボールとビニール袋をかぶって寝る。
明日の朝には、湯も冷めて水になっているだろう。それを水筒に入れるとしよう。