ゴミ25 達人、呼ばれる
鍛冶屋に注文した部品が順番に出来上がってきた。
そして今日、ついに最後の部品が納品され、俺は組み立てを完了する。
ポンプアクション式の連射ボーガンと、一撃の威力を追い求めたコンパウンドボウだ。
「よ~し、さっそく試射するか!」
場所はもちろん、いつものキャンプ地だ。
まずは連射ボーガンから。
矢を弾倉に入れて、弾倉を本体にセットして、ポンプアクション。これで発射準備は完了だ。
木の枝に吊した的を揺らして、100m離れて狙う。
バスッ、ガシャッ、バスッ、ガシャッ、バスッ、ガシャッ。
2秒に1回ぐらい発射できる。俺の腕前が悪くて百発百中とはいかないが、的を外した矢もかなり的に近いところを通過した。
「とりあえず満足だな。」
次いこう。
コンパウンドボウだ。バネ部分に金属板を重ねた超強弓。まさに一撃の威力を追求した、究極の弓だ。
「せーのッ……! むっ……! く……!」
全然引けなかった。
ダメじゃん。
弓の性能だけ追い求めて、使い手のことを考えてなかったな。これはダメだ。人間の腕力じゃ引けないわ。威力を求めすぎて大きく分厚く重く作りすぎた、誰にも持ち上げられない剣みたいな、そういう本末転倒を感じるぜ。
死蔵決定だが、光っていないからゴミじゃないと判定されている。ゴミ袋の収納チートには入らないということだ。かといって持ち歩いても意味ないし……セキュリティに不安はあるが、部屋に置いておくしかないか。
「せめて分解して保管するか。」
盗まれたとしても、組み立て方が分からなければ意味がない。念のため、保管場所をバラバラにしておこう。全部いっぺんに盗まれないようにすれば、何とかなるだろう。
◇
そんなわけで部屋。
安い物件の狭い部屋だが、借りるのに保証人が必要ない物件の中では、一番いいものらしい。つまり、これ以上の部屋を求めるなら、一括払いで買うしかない。まあ、いずれ買ってやろう。5年ぐらい真面目に節約していれば、安い中古の戸建てが買えるぐらいの金は貯まるだろう。
とりあえずコンパウンドボウだ。分解は完了した。弦はこっちにしまって、滑車はこっちへ隠して、グリップはここへ紛れ込ませて、バネは逆に堂々と飾ってみるか。
と、ゴチャゴチャやっていると、客が来た。
「失礼します。こちら五味浩尉様のお宅で間違いないでしょうか?」
身なりのいい紳士な老人が現れた。
どっかで見たような……。
「あ。領主様の執事の人。お久しぶりです。」
「はい。五味様もお変わりないようで何よりでございます。
ところで本日は、主からの伝言を伝えに参りました。」
「領主様からの伝言? 何でしょう?」
「詳しいことは会って話すので、館へ来て欲しいそうです。
今からご足労願えませんか?」
◇
というわけで、領主の館へやってきた。相変わらずの豪邸である。
執事の人に案内されて、2度目となる領主様の執務室へ。
そして領主様から用件が告げられた。
「ああ、すまないね。
実は、国王陛下が君をお呼びでいらっしゃるのだよ。」
人間って、ビックリしすぎると声が出ないんだな。
「実は、国王陛下が君をお呼びでいらっしゃるのだよ。」
俺が何も答えないから、通じてないと思われたのか、領主様はもう1度言った。
そして聞き間違いではないと。
「……はい。」
どう答えていいのか分からず、それしか言えなかった。
市長相手に店舗なしの個人経営をやっていたら、いきなり総理大臣に呼ばれたようなものだ。
意味が分からない。
なぜ王様が俺を? 呼んでいる理由も分からないが、呼ばれる事になった経緯も分からない。なんて答えればいいんだ? 「そうですか」とかって普通に答えるのか? それとも「ええっ!? なんで俺を!?」とか驚いてみせればいいのか? それとも困惑して「意味が分かりません」とか言えばいいのか?
「陛下もお忙しい方だから、君が謁見するのは1ヶ月後だ。
この街から王都までは、徒歩で10日ほどかかる。馬車を使えば6日で行けるが。」
徒歩での長距離移動というと、高校生のときにやった事を思い出す。ある日、いつものバスを逃して、駅から家まで歩いて帰った。田舎だから1本逃すと次のバスが2時間後とかになってしまうのだ。駅前にはそれなりに商店もあるから、遊んで時間を潰してもよかったが、ふと思い立って歩いて帰ってみた。ここで無駄に散財するより、歩いたらバスの料金が浮くぞと思ったのだ。距離は15kmほど。所要時間は3時間だった。しんどかった。ぶっちゃけ途中から後悔した。
そして俺は、この世界でも隣村まで歩いたことがある。ちなみに俺の腕時計はソーラー電池の電波時計だ。電波は届いていないから、時刻はだんだん狂うかもしれないが、ソーラー電池だから電池切れになる心配はない。そして移動に要した時間は6時間ほどだった。ちなみに休憩時間を除いた数字だ。休憩時間を入れた数字だと7時間半から8時間ぐらいだ。
なお、この街では、朝6時・午前9時・正午・午後3時・午後6時・夜9時に、教会の鐘が鳴る。人々はそれで時刻を把握するわけだ。教会がどうやって正確な時刻を把握するのかは分からない。ちょうど3時間で燃え尽きるロウソクでも使っているのだろうか?
閑話休題。
移動時間が6時間ということは、2倍だから、移動距離は30kmほどだろう。徒歩10日ということは、王都まで9個の街や村を経由し、移動距離は300kmほどになる。馬車だと6日ということは、ほとんど2倍の速さで進むわけか。1日に2つの街を移動できるわけだ。そのままなら5日で行けるはずだが、6日かかるということは途中に1日で1つしか進めない、ちょっと遠い街があるのだろう。あるいは上り坂が多いという事かもしれないが。
ま、距離的にはともかく、しかしどうして王様が俺を呼ぶのだろうか?
「どうやら陛下は、君の仕事にご興味を持たれたようだよ。」