ゴミ24 達人、魔改造を計画する
弓の訓練をしてみたが、的を揺らすだけで、とたんに矢が当たらなくなった。
ならばどうするか? 方法は3つだろう。
第1に、散弾銃みたいに範囲攻撃をする。つまり矢が分裂するように改造するか、矢を同時にたくさん発射するか。
第2に、突撃銃みたいに連射する。これをやるなら弓のままでは不可能だから、ボウガンにする必要があるだろう。
第3に、矢の速度を上げる。発射と同時に到達すれば、予測射撃は必要ない。
「とりあえず散弾銃から試すか。」
命中精度よりも命中率。この方法は、発射にさえ成功すれば、劇的な効果が期待できる。
とりあえず3本の矢を同時につがえて発射してみるが、3本ともまともに飛ばなかった。弓の力が矢にちゃんと伝わらなかったようだ。両サイドの矢はペン回しみたいにクルクル回って近くに落ちたし、真ん中の矢は1本ずつ発射するよりも明らかに威力がなかった。そもそも的に届かない。何回か練習すると、偶然それなりの形になる事はあったが、再現性が低くて諦めた。
ならば、矢を改造しよう。発射後に分裂するように。クラスター爆弾みたいなものだ。風の抵抗を受けてバラバラになればいいので、矢の形状を……待て。空気抵抗が大きくなる形状ということは、当たっても刺さりにくいし、発射後の減速率が大きい。ダメじゃん。試すまでもなくダメじゃん。もういっそ、弓矢じゃなくてスリングショットで複数の小石を同時発射したほうが簡単じゃないか。
「ふむ……?」
よし、その線で考えてみるか。しかし、この世界には……いや、この国では、というべきか? ゴムがない。たしかゴムの歴史は、15世紀にコロンブスがよそで見つけるまで、ヨーロッパでは誰も知らない物質だった。しかしコロンブスが見つけたときには、もう現地人はゴムボールで遊んでいた。つまりこの世界でも、まだこの国には見つかっていないだけで、世界のどこかにはゴムがあるかもしれない。まあ、手に入らないという意味では「この世界には存在しない」と考えても同じことだ。
ともかく、スリングショットといっても、ゴムではなく弓にする必要があるわけだ。弓の中央を大きく曲げて射線を確保すれば、スリングショットそのままの形状でなくても、弓に寄せた形状で何とかなるだろう。というか、そうやって作ったほうが簡単そうだ。
自分では作れないから、武器屋に頼んで作ってもらうことになるが。
「とりあえず保留だな。」
次に連射を考えてみる。
連射と言えば銃だ。基本構造は動画サイトで見たことがある(中二病的な興味からだ)ものの、銃が連射できる仕組みは発射ガスや発射の反動を利用したものだった。つまり火薬を使うということが前提になる。
弓に連射機構を加えたい場合は、ボウガンをベースに考えるしかない。つまり、いかに素早く弦を引くか、それを機械的に連続させる機構が必要だ。これまた動画サイトで見たことがあるのだが、歯車を電動モーターで回して高速連射を可能にしていた。ボウガンの長所は、手では引けないような威力の弓を使えることと、素人でも命中しやすいことだ。電動モーターはこの世界にはないから、手動で同じ速度を実現しようとすると、弓の強さをだいぶ落とさなくてはならないし、手ぶれが大きくなってまともに当たらないだろう事が容易に想像できる。
そこで、より現実的に連射機構を考えるなら、ショットガンで知られるポンプアクションの構造を採用するべきだろう。引き金に触れていないほうの手で、銃身下部の可動部をガシャッと引いて次弾を装填するアレだ。ポンプアクションのレバーはフォアグリップの役割も果たすから、発射の際の安定性も増す。このレバーを引くことで、レバー上部が弦を引っ張って発射準備を整える構造だ。連射速度は電動モーターに劣るだろうが、セミオート射撃に迫る連射速度を実現するはずである。
ただ、その構造上、強い弓は使えない。ボウガンの長所を1つ失うわけだ。この問題を解決するには、てこの原理を使うのがいいだろう。つまり、コンパウンドボウだ。両端に滑車がついていて、弦が3本あるように見えるあの弓だ。てこの原理と滑車の効果によって、引くのに必要な力が同じでも矢の速度は2倍近くになる。威力(運動エネルギー)でいえば3倍以上だ。これなら威力を落として引く力を弱く設定できる。
「コンパウンドボウか……。」
第3の方法――矢の速度を上げるための方法も、まさにコンパウンドボウだ。
俺の腕前では使い物にならないが、コンパウンドボウをできるだけ強力に作ったらどうなるか、というのも試してみたいところではある。ゴミ処理の途中で襲われたときに撃退するため、という趣旨からは外れるが、一撃の威力に特化した弓というのも興味深い。技術の限界を見てみたいという興味が湧いてくるのは、俺だけじゃないだろう。最新科学と聞いてちょっとでも興味が湧く人は、きっとみんな俺と同じ側の人間だ。
「ん~……よし、全部作ってみるか。」
というか、特注して作ってもらうか。
自分じゃ作れないからね。
しかし、1つ懸念もある。地球でコンパウンドボウが発明されたのは20世紀だから、この世界にとっては完全にオーバーテクノロジーだろう。そんなものを世の中に放出したら、何が起きるか分からない。予防策として、複数の鍛冶屋に部品単位で注文して、俺の手で組み立てるか。




