ゴミ228 達人、動き出す
10月27日、ニーゲッタ。
到着してすぐ、都市の規模に対して人口が少なすぎることに気づいた。しかも人々に元気がない。
ここニーゲッタにいるのは「植える者」――寄生虫を操り、それを植え付けた相手を操る魔族だ。
その「植える者」が、このニーゲッタで何をしているのか? 俺の予想では、治安を悪化させて、住人を存在進化させようとしている。
「治安の悪化……なるほど。警備兵団を解体でもすれば、犯罪者は自由に動くだろうな。」
アローが納得する。
「人の本質は悪、という話もありますな。
他人を無視して利己的に行動するのが本来の姿で、しかしそうすると結果的に自分が奪われる側になって損をするので、ルールを決めて治安を守る……と、そんな話でしたぞ。」
オーレさんが言う。
それは俺も聞いたことがある。
「厄介なのは、『結果的に自分が奪われる側になる』という部分に目をつぶってしまう、あるいは気づかない愚か者が少なくない事ですが。」
前者は「バレなければいい」と考え、後者は衝動的にやってしまって後先考えていない。
罰則を厳しくすれば一定の抑止効果はあるが、それにも限界があるのだ。
「なるほど。
それで自己防衛から感覚がマヒしてエスカレートすれば、やられる前にやってしまえ、となるわけだ。」
アローの言う通り、かくして治安は悪化し、人々は悪事に手を染める。
そして時間とともに「悪人」へ存在進化する者が増えるだろう。
「治安の回復は領主の仕事だが……その領主は『植える者』に支配されているだろう、という話だったな」
アローがついさっきの話を確認する。
「領主を頼れないとなると、あとは自治会でも支援して治安回復に努めますかな?」
オーレさんが言う。
それも1つの手ではあるが――
「それより、さっさと敵を叩いてしまいましょう。
まずは領主の様子を確認して、必要ならぶちのめしてでも制圧し、寄生虫駆除の魔法を……って、俺もアローも魔法は使えないんだった。オーレさんは使えませんか?」
「魔法はまったく。魔道具に頼っておりますが、寄生虫駆除の魔道具は持っておりませんな。」
確認のため聞いたが、オーレさんは首を横に振った。
「ダイハーンのときは教会から神父に来てもらったな。今回もそうするか?」
「そうだったな。そうしよう。」
冒険者を雇う手もあるが、寄生虫駆除の魔法は冒険の中で使うような魔法ではない。教会の神父のほうが使える可能性が高いだろう。
◇
というわけで領主の館に突入した。
必要ならぶちのめしてでも……なんて言ったが、実際にはそんな必要はない。
「破壊不能」のロープで縛り上げて終わりだ。捕縄術である。
「では、お願いします。」
「は、はい。」
教会から連れて来た神父に頼むと、彼は少し気圧された様子ながらも、寄生虫駆除の魔法を唱えてくれた。
「ぐああああああっ!」
領主が悲鳴を上げ、縛られたまま身もだえる。
だが事前に「こうなる」と説明しておいたので、神父はビビッて魔法を中断したりしない。
ひとしきり苦しむ様子を見せた領主が、不意に力を抜いてぐったりする。
「……こ、これはいったい……? 何かが私の中から消えた……。
体が思い通りに……とまではいかないか。だが、自分の意思で動く……。」
どうやら正気に戻ったらしい。
そこで俺たちは自己紹介と状況説明をした。
「……委細承知した。
まずは取り急ぎ、『植える者』の拠点まで案内しよう。」
◇
寄生虫が領主の体内でどのように生存していたのか分からない。少なくとも領主の体内にある何かを栄養素として取り込んでいたはずだ。行動を思い通りに操るような寄生虫だから、もしかすると脳神経系に重大なダメージを受けているのかもしれない。
まだ体が自由に動かない様子の領主には療養してもらって、代わりに兵士が呼ばれた。その兵士の案内で連れていかれたのは、警備兵団の本部だった。都市のあちこちにある詰所をまとめ、犯罪捜査や特定の免許の管理などをおこなう部署である。
「申し訳ありませんが、ご案内できるのはここまでです。」
と、案内してくれた兵士が足を止めたのは、正面玄関の前だった。
「この先――中にいるのは、すでに支配されて悪事を繰り返し、『悪人』に存在進化してしまった同僚たちです。
自分はまだ『人間』なので、足手まといになります。」
兵士は悔しそうにうつむいた。
住人を守る兵士でありながら、悪事を働いて存在進化までしてしまうとは。それを止めることもできずに1人「植える者」の支配から逃れて、なすすべもないというのは歯がゆい思いがあることだろう。
「あとは任せろ。」
「お願いします。
『植える者』は所長室にいるはずです。」




