ゴミ224 達人、達人に会いに行く
10月16日、チョーオーカー。
俺たちは戻ってきた。もちろん2000年前の達人・七味唐子さんに会うためだ。
トボルのイリマイオトグ遺跡で「置く者」の召喚魔法を利用して、アローとオーレさんにそれぞれ1回存在進化するまで特訓してもらった。これに4日かかっている。
「二度とやりたくない……。」
「五味殿は鬼ですな……。」
と、2人からは大変に不評だった。
短期間で結果を出すため、「人間」の4倍のステータスに任せて、4日間不眠不休で戦わせたのは、ちょっとしんどい事だったかもしれない。「置く者」も魔力切れを起こして「もう無理ポ……」とかうつろな目でぶつぶつ言っていたし……。
それから「置く者」を始末して、15日は休養することに。
16日は、存在進化した2人のステータスを確かめる目的もあって、徒歩でチョーオーカーまで移動した。「人間」の足では2週間ぐらいかかる距離だが、エンシェントエルフと灰人になった2人は、「人間」の16倍のステータス。歩く速さも16倍で、64㎞/h――ほとんど自動車並の速度である。6時間半で踏破した。
そんなわけで、現在時刻は夕方4時ちょっと前ぐらいである。
「存在進化を促す植物ですか。」
食べるだけで存在進化する果実とか、そういう薬の原料になる薬草とか、そういうのを作れないか? と七味唐子さんに相談してみた。
望み通りの植物を作り出す能力をもつ七味唐子さんなら、それが可能かもしれない。
「ええ、まあ、作れます。五味さんだから教えますけど。
他の人には、それは秘密にしている事です。聞かれても『できない』と答えてきました。」
理由はわかりますね? と七味唐子さんは真剣な表情で俺を見た。
「作れると知られたら強要される――達人といっても強要するのは不可能じゃない。人質を取るとか、周囲に圧力をかけるとか……直接的な拘束以外にも方法はありますからね。
それに、もしかすると、そういう強要するスキルを持った人物がいるかもしれない。」
感情攻撃の4人や「遊ぶ者」のように。
彼らの能力による効果は、ステータスの格差を無視して俺にも有効だった。
「身の危険……それに、世界に混乱を招く情報です。
それ以外にも、存在進化で寿命がのびると、親しい人物との別れを繰り返すことになる。かといって誰も彼もを進化させて寿命をのばしまくったら、いずれ世界的な食糧その他の資源不足を招くことになる。」
死ぬ人が劇的に減るわけだから、人口爆発は地球のそれより凄いことになるだろう。
「その通りです。
魔族を放置する以上に、ろくな事にならない。
だから2000年前も、他の誰かを存在進化させることは考えませんでした。」
結果として大勢の兵士が「汚す者」との戦いで命を落としたが、そのおかげで2000年後の現在もこの世界は資源不足を起こさずに済んでいる。
「けれども、それを承知で助けてもらいたい理由があります。」
俺は「置く者」から聞き出した情報を伝えた。
いわく――
魔族勢力は残り3人。
その3人は、ちょうど残り3か所になった全国20都市にいる。
奴らはもう俺を明確に敵として認識している状態で、準備万端で待ち構えている。
残り3人の種族は「魔族」「魔王」「邪神」という顔ぶれ。存在進化4~6回の連中である。
――などの情報を得た。
相手の残り人数が知れたのは大きい。しかも、もう終わりが見える人数だ。しかし、このままでは勝てない。とりわけ「魔王」と「邪神」の能力が凶悪で、存在進化の回数が同じ6回でも、戦えば俺のほうが負けるだろう。
せめて、あと1人は「達人」かそれに準じる種族の仲間がほしい。だからアローやオーレさんに存在進化してもらうか、さもなければ七味唐子さんに参戦してもらいたい。
「それに、七味唐子さんの能力で存在進化を起こせるなんて情報は、世界には隠しておくべきだという事には同意します。
なので、存在進化の逆――より低位の種族に戻す植物を用意してほしいのです。」
「なるほど……強くてニューゲームというやつですね。」
そう。存在進化1回ごとにステータスが4倍になるのなら、何も上位種族に進化し続ける必要はない。ステータスをそのままに種族だけ元に戻すことができれば、強くてニューゲーム状態になる。ただし、上位種族であることのメリットは、いくつか捨てることになる。
たとえば、下位種族についての理解。アローの魔力視認や、オーレさんの剣術の冴えは、元の種族について理解を深めたことで、魔力の感じ方や、体の動かし方について、より高度な技能・感覚を身につけた結果の能力だ。
「ですが、その方法は、もしかするとエラーを起こすかもしれません。」
ステータスやスキルが存在する世界。この世界の住人なら、それは普通のことだと思っているだろうが、地球人の俺や七味唐子さんにとって、そんなゲームシステムみたいなものは不自然極まりない。だからこそ、元の種族に戻るなんてことは、この世界のシステムが想定していない可能性があるという予想が成り立つ。
とすると、狙い通りの結果になるかもしれないし、種族が戻ると同時にステータスも戻るかもしれない。そして、もっと深刻な影響をもたらす可能性もある。エラーを処理しきれず、システム全体がフリーズする可能性だ。
「エラー……。」
システム自体は動いているというのなら、少々のエラーが出ても、七味唐子さんはそれを打ち消す効果の植物を作り出して解決できるだろう。ただ、フリーズしてしまうと、望み通りの植物を作り出すという能力そのものが使えなくなる可能性がある。そうしたら、もう元には戻せない。
あらゆる種族のステータスとスキルがすべて効力を失うというのなら、「邪神」も「人間」並みのステータスになるだけで討伐やすくなるだろう。だが、こちらの戦力だけが失われて、魔族勢力の戦力はそのまま、という可能性だってある。
「まずは実験する必要がありますね。……危険な実験ですが。」




