ゴミ222 達人、特訓を考える
10月10日、トボル。
イリマイオトグ遺跡のボス部屋らしき場所を攻略した俺たちは、直後に現れた魔族「置く者」と対峙した。
そして鎧から大量にアンデッドを召喚され、俺たちはやや押された。なので、とりあえず殴ってひるませた。召喚は止まったが……爆発反応装甲で、吹っ飛ばされてしまった。
いいなぁ! 爆発反応装甲! ロマンだ!
とはいえ、殴ったら爆発するというのなら、対処法は簡単だ。
「投擲で倒すだけだ。」
俺は投げた。むちゃくちゃ投げた。
あっという間に「置く者」がズタボロになっていく。格闘技術の高さで少しばかりよけたり防いだりしているが、そんなもの砂利でも投げれば対処しきれなくなる。散弾銃で大型の猛獣は仕留められないのと同じように、砂利を投げていたのでは「置く者」に与えるダメージも軽微だが、そんなのは倒すまで投げ続ければいいだけだ。
このまま押し切る――けど、それでいいのか?
これってチャンスなんじゃないのか?
俺はちょっと考えた。
「なあ……あいつ、存在進化に使えるんじゃないか?」
「え? あ……えー? そういう……? 浩尉の世界はデンジャラスだと思っていたが、その発想はちょっと鬼畜すぎないか?」
アローがすぐに理解して、ちょっと引いている。
……いや、すぐ理解できる時点で、お前もかなりこっち側だからな?
存在進化するには長年の経験を積む必要がある。でも、それはゲーム的に言って「経験値を稼げばいい」というだけのこと。そして「置く者」は、適度な強さの敵を、大量に召喚してくれる。それって、ゲーム的にいえば「経験値効率のいい狩場」あるいは「ボーナスステージ」と言えるのでは?
「オーレさん、どう思います?」
「あー……つまり、奴が召喚するアンデッドを倒し続けて、存在進化を促そうという事ですかな?」
「そう、つまり……おい、逃げるな。」
投擲。
こっそり逃げようとした「置く者」の足に当たる。鉄塊が貫通し、「置く者」は片足を失った。もう武術的な動きで対応するだけの余力もないらしい。
爆発反応装甲は働いたが、それで防げるような威力ではない。俺の方が16倍強いんだから、全力でなくても、そこそこの強さで投げればこうなるのは当然だ。
「くっ……! これほどとは……! やはり『達人』……! 存在進化6回の種族は、伊達ではありませんね。」
「ああ、そーゆーのいいから。
さっきのアンデッド召喚やってくれ。」
俺はロープを取り出し、「置く者」の首に巻いた。その反対側の端を、手に巻いてしっかり握る。もう逃げられないぞ。
「何を……ぷげらっ!?」
殴る。
爆発は起きない。防具のない場所を殴ったからな。
防具のない場所。つまり顔面だ。視界を確保するために、最低でも目の周りは防具がない。「置く者」の鎧の場合は、ジェットヘルメットみたいに顔全体が出ている。シールド代わりに防御結界でも展開しているかもしれないと思ったが、そうでもなかったので、俺の拳は「置く者」の顔に直撃した。
「はよ。召喚。」
要求し、ぺちぺち叩く。攻撃にもならない平手打ち。びんたにも満たない、つつく程度の仕草だ。
しかし、戦う者にとって、こういう「優しい攻撃」というのはプライドをすごく傷つける。たとえば甲子園出場をかけた試合中に、相手のピッチャーが「そっと投げ渡す」ようなボールを投げてきたら、バッターとしては「嘗めてんじゃねえ! 真剣にやれ!」と怒り心頭に発するだろう。そういうことだ。
「くっ……! ほえ面かきなさい!」
やってやろうじゃないか、とばかりに「置く者」が大量のアンデッドを召喚する。
狙い通り。あとはアローとオーレさんに特訓してもらう。
そして予想通りだ。プライドを傷つけられても、他の攻撃手段が出てこないところを見ると、「置く者」は本当に「魔法を置く」だけの能力らしい。姿を見せずにコソコソ動かれたら面倒だった。準備万端にしたから勝てるとか思って姿を見せたのが悪手だったな。
「そうだ、それでいい。
よし、とりあえず1回進化するまで頑張ろうか。」
あとはアローとオーレさんに頑張ってもらうだけだ。
普通なら何十年もかけて積み重ねる経験を、一気に凝縮して獲得してもらう。爆速レベルアップだ。
強くなってくれれば今後のためになるだろう。強くなって困ることもないはずだ。第一、魔族勢力の首魁は「邪神」らしい。存在進化6回だというから、できればアローとオーレさんにも5~6回、最低4回は存在進化してもらいたい。でなければ、「邪神」と戦う時には足手まといになってしまうだろう。その事が、今回の「置く者」との戦いでよくわかった。今回は俺が単独で「置く者」を圧倒できるからよかったが、「邪神」が相手では、そうもいかないだろうから、備えておきたい。
「……さて、2人に頑張ってもらっている間に、少しお話をしようか。」
今までも、もし捕縛できたら尋問しようとは思っていたが、そのチャンスがなかった。
ここらでひとつ、積極的な情報収集といこう。
「知っている事をすべて話してもらうぞ。
お前はこれまでの相手より頑丈そうだし、うっかり殺す心配も少ないだろう。時間はたっぷりある。」
何事にも緩急をつけるのは効果的だ。尋問でもそれは同じ。不安感や恐怖感をあおって追い詰めるのと、ちょっと優しくして「許される感」を演出してやるのとを交互に繰り返すのがいい。ちなみに、さっき優しく叩いてプライドを傷つけたのは「緩急」の「緩」のほうだ。だから今度は「急」のほうをやる。
この国から何もかも奪いつくすつもり、というのは「食べる者」から聞いたことだ。トボルの遺跡をダンジョンみたいに改造しているのは、その計画の一環なのだろう。要するに、トボルの住人に迷惑をかける事しか考えてない、ろくでもない計画という事だ。遠慮は無用。
とはいえ、俺以外に「置く者」を拘束しておける人物といったら、2000年前の達人・七味唐子さんぐらいしか思いつかない。あとは「破壊不能」のロープとかゴミ袋とかでガチガチに固めておくか。でも、それはどちらも現実的ではない。七味唐子さんは農民として生きているのだから、看守みたいな役目を頼むのは筋が違う。頼むなら国に頼むべきだが、国には「魔族」相手にそんな事ができる人材がいない。ガチガチに固めても、何が原因で緩んでしまうか分からない。何も起きなくても、「置く者」より俺のほうが寿命が短いという事だって考えられる。となると、非情なようだが、情報だけ聞き出したら始末するしかないだろう。
17章 完結。
明日はキャラクター紹介、明後日から18章を始めます。




