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ゴミ216 達人、武を学ぶ

 10月10日、トボル。

 イリマイオトグ遺跡に突入した俺たちは、「素人」に存在進化したオーレさんに先導されて、遺跡内を進んでいく。

 最後にオーレさんの剣の腕前を見たのは、アイルで水害の魔物こと「変わる者」を倒した時だったか。あれが4月下旬の事だったから、およそ半年ぶりになる。当時はオーレさんの大技が見えなかったが、あれから時間がたって俺も「達人」のステータスになじんできたし、オーレさんも今は本気を出していないから、アンデッドを次々と切り伏せていくオーレさんの剣が見える。

 なるほど、剣というのはああやって使うものか。よく「無駄のない動き」なんて表現をするが、それがどういう意味なのか、オーレさんを見ているとよくわかる。体の動きにブレがないのだ。素早く振り回す動作というのは、たとえ素手でやっていても遠心力やら重心の変化やら様々な力が加わって、体がブレる。だがオーレさんの動きには、少しもブレがない。機械的な精密さを思わせる、完全に静止した動きだ。精密に作られたコマを回すと、まるで止まっているように見えるが、そういう感じである。


「まるで踊っているような動きだな。」


 一流ダンサーの動きも、ブレがないので人間離れしているように見える。

 オーレさんの動きもその点は同じなので、一流ダンサーが剣の舞みたいなのをやると、たぶんオーレさんの動きと似たものになるのだろう。


「そういう五味殿も、半年前に比べるとまるで別人ですぞ? そうやってただ歩いているだけの姿がすでに半端ないですからな。」

「そうですか?」

「気づいていなかったのですかな?

 まあ、自分の動きほどいつもかも見るものはありませんからな。日々少しずつ変化すれば、気づかないのも無理はありませんが……しかし、髪や爪が伸びたことに気づくように、そろそろ気づいてもよさそうなものですぞ?」

「ふむ……?

 アローは気づいてたか?」

「まあ、少しは……。

 一応これでも元冒険者だしな。」


 そうなのか。

 しかし、言われて改めて自分の歩き方を自覚してみても、別に何がどうという事は分からない。


「……どう違う?」

「人が歩くときは、左右の足に交互に体重をかけるから、左右に体が揺れる。

 それに、足を後ろへ送る動作は円の動きだから、頭の位置が上下するものだ。

 そうした上下左右の動きがない、まるで穏やかな水面を流れていくような歩き方をしているぞ。」

「すり足、浮き身、ヒザ抜き……呼び方は様々ですが、やる事は同じですな。

 武術をやれば最初から教わる歩き方ですが、教わったからといって、すぐにできるわけもなく……身につけるには長い訓練が必要ですぞ。1年やればだいぶ変わるものですが、半年でこれほど変わっているのは目覚ましい進歩ですな。」


 ちょっと試してみよう。

 アローが言う「普通の歩き方」をしてみる。要するに、「気を付け! 休め!」の「休め」の姿勢を繰り返しながら歩くわけだ。

 1歩踏み出すごとに、地面からの反発や、軸足に乗る体重をズシッと感じる。膝に負担がかかる歩き方だな。ていうか、地面ってこんなに硬かったっけ?

 いつもの歩き方に戻すと……うん、地面からの反発は消えたし、軸足に体重が乗る重さを感じなくなった。腰から上に浮遊の魔法でもかけて空を飛び、そうとバレないように足だけ動かしている――そんな感じだ。地面からの反発は斜めに受け流し、体重は軸足から転がり落ちるように移動する。


「……なるほど。俺ってこんな歩き方だったのか。」

「その歩き方は、武術的に有利な動きですな。

 動き出しを察知されにくく、連続した動作でもバランスが安定しやすいので、隙をついたり、押し込まれるのを防いだりできますぞ。むろん、自分から連続攻撃を仕掛けるときにも、バランスが安定しているというのは重要なことですな。たとえば――」


 オーレさんが動く。

 右のアンデッドに斬りつけ、素早く方向転換して左のアンデッドに斬りつける。


「……と、このような動作ができますぞ。

 バランスが安定していなければ、同じことをしようとしても、ですな――」


 再びオーレさんが動く。

 右のアンデッドに斬りつけ、左のアンデッドに振り向こうとしてバランスを崩し、右へつんのめる。惰性を消しきれなかったのだ。

 その隙に左のアンデッドが攻撃してくるのを、何とか振り向いて防ぐが、すでにバランスを崩しているので、そのまま押し込まれてしまう。

 だがオーレさんは、存在進化して上昇したステータスに任せ、力任せにスケルトンを薙ぎ払った。


「……と、このような事になりますぞ。」

「なるほど。勉強になります。」


 俺は腰のゴミ袋から、ゴミとして捨てられた剣を取り出した。

 取り出すときに「ゴミ修復」で新品状態にするのを忘れない。

 そして、まずは右のアンデッドに斬りつける。


「こうして――」


 バランスを保つことを意識しつつ、左に振り向いて、


「――こう――」


 左のアンデッドに斬りつける。


「――っと。」


 うまくできた。

 しかし剣は壊れてしまった。

 全力の動作ではなかったが、それでも「達人」のステータスに普通の剣では耐えられなかったようだ。


「ははは! さすがですな。

 すでにひとかどの剣士の動きですぞ。」

「そうですか?」


 見よう見まねでやっただけで、ひとかどの剣士などと言われるほどの動作かどうか実感はないが。

 それでも褒められて悪い気はしない。

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