ゴミ208 達人、嫌われる
9月30日、ザンドリフ。
俺たちは、「染める者」と名乗る魔族勢力の1人を発見した。
その「染める者」は、静かな怒りを抱えていた。
「俺はお前が嫌いだ。大嫌いだ。」
27日に研究所を捜索した俺たちは、そこで生物兵器を作っていた証拠を見つけた。
なんと生物兵器はすでに大量生産の段階に入っていたのだ。そりゃゴミに付着して捨てられる事もあるだろう。量産中に身に着けていた防護服とか手袋とかは、使用後には捨てるしかない。ああいうのは基本、使い捨てだからな。
すでに在庫はかなりの量になっていて、出荷も間近に迫っていた。ギリギリ間に合ったというところだ。
しかし研究所には洗脳された人間しかいなかった。
ヒルテンの校長のときを思い出して、俺は首謀者がまた逃げるだろうと予想した。だから領主に協力を求めて、ザンドリフから出ていく人を制限してもらった。入ってくる人は通常通りノーチェックで通すが、出ていくには検問を通ってもらう。
その検問には、アローが常駐して、相手から魔力を奪う。ほんのちょっとでも奪えば、アローには相手の残り魔力量が分かる。魔力量がやたら多い奴がいたら、そいつが魔族勢力だ。アローとしては「持ってみたら重かった」みたいな感覚らしい。
そして俺は、街中のいたるところに砂をまいて、探知魔法の代わりにした。誰かが砂を踏めば、砂粒の位置が変わる。それを「ゴミ探知」で探知すれば、誰かがそこを通っているということが分かるわけだ。これで検問を通らずに出ていこうとする者を探知する。
そうやって発見したのが「染める者」というわけだ。
「そうかね。俺も、大量殺戮兵器を作ろうというその思想は大嫌いだ。」
唯一の被爆国の国民として――そうでなくても地球の先進国では全体的に、ABC兵器の類は使用を禁じられるべきだという意見で一致している。まあ、放棄することについては慎重だが。
「やかましい!
せっかくヒルテンで準備していた計画を潰しやがって。今度はザンドリフでも、だと!? ふざけるな!
だいたい、お前のことはダイハーンのときから気に入らねーんだよ!」
「ダイハーン?」
「『植える者』先輩が、ダイハーンの領主に寄生虫を植えて操っていたんだ。
てめえがそれを台無しにしやがった!
ふざけやがって。俺たちがどれだけ苦労して準備してきたと思ってんだ!」
おっと? 何やら新情報が出て来たぞ。
ヒルテンで校長を操っていたのは、やっぱりこいつか。やっぱり、という印象だ。洗脳する能力だから「染める者」というわけだな。
ダイハーンの領主は汚職に立ち向かう人物だったのに、いつしか汚職に手を染める側になっていた。それで弟と喧嘩していたわけだが、あれも魔族勢力の仕業と。首謀者は「植える者」か。
「まあ、だいたい予想通りだな。」
魔族勢力の手が伸びているとは予想していた。
となると、おそらくキオートのスタンピードや、ディバイドの爆発事件・アンデッド発生事件もそういう事だろう。
「ゴッドアで起きていた馬だけ死ぬ病気も、お前らの仕業か?」
そのウイルスをもとにして改造したのが、この「染める者」が人々を操って作らせた生物兵器だ。
なら、生物兵器の素になった病気も、魔族勢力の手によるものかもしれない。
「うるせえ! てめえ、ぶっ殺してやるから覚悟しろ!」
「やれやれ、会話もできん。
第一、悪党が悪事を働くためにした努力なんて、台無しにされてしかるべきだろう。」
まあ、話し合いで解決できるとは思っていない。
「染まっとけやァ!」
変身しながら「染める者」が突進してくる。
「こいつも液体!?」
その不定形な変形は、まるで「変わる者」だ。
しかし「染める者」と名乗っていて、洗脳する能力がある。ということは、この液体に触れたら洗脳されるという事か?
「アロー!」
飛びのきながら呼ぶと、ほぼ同時に――いや、呼ぶより少し早く、アローが矢を放っていた。
「ぐぎゃあっ!?」
電撃が走り、「染める者」が動きを止める。麻痺だ。
「おお……。突進してきた相手に当たるとは。ついに動く相手に当てられるようになったのか?」
「そうでもないんだが、考えたんだ。
直線的に動く相手なら、その正面か背後から狙えば、実質止まっているのと同じじゃないか。」
なるほど。平面画像としてみると、位置は動いていない。遠近法で対象の大きさが変わるものの、5㎞先の人間大の的を狙えるアローには、そのぐらいの変化はないも同然だ。
「なるほど。さすがアローだ。」
「それほどでもない。」
謙遜するアローの耳がピクピク動いていた。
喜んでるな。
「洗脳の方法次第では、縛って話を聞けるかと思ったが、液体じゃ縛れないな。」
「そうだな。討伐してばかりで、敵の情報がなかなか得られないのは痛いな。」
「とはいえ、液体の相手はもう3度目だ。」
俺は鉄材を取り出し、むしり取った。
攻略法は分かっている。




