ゴミ207 達人、生物兵器を探す
9月27日、ザンドリフ。
20日にザンドリフで収納したゴミの中に、ヒルテンの校長が持っていたのと同じ生物兵器を発見した。ゴッドアで馬だけ死ぬ病気が流行していた、その病原体を人間に感染するように改造したものだ。
という事は、そこから2つのことが推測できる。
1つ、たぶんヒルテンで校長を洗脳していた奴がいる。「信じる者」みたいな能力者だ。
2つ、ヒルテンでの兵器開発に失敗した――開発には成功したが、直後に俺たちが潰したから、量産したり散布したりする時間がなかった――から、ザンドリフで続きをやっている。
というわけで、ゴミ処理場から遡って、問題のゴミを出した奴を特定するため、この1週間、調べまくった。
そうしたら、とある研究所から問題のゴミが出された事が分かった。
「というわけで、大使権限で強制捜査をおこなう。
全員おとなしく従うように。」
俺は廃棄物処理特務大使。任務は20都市のゴミの最終処分を引き受けることと、法的に問題のあるゴミを発見した場合は調査・報告すること。その権限は、近衛騎士団と同等の扱いとし、貴族はこれに協力しなければならない。
「お断りします。我々は貴族ではありませんので、大使殿に協力する義務はありません。」
所長が予想通りの反応を返してくれる。
「だが今や俺は男爵だ。
君たち、爵位はあるかね? なければ抵抗する者は全員、不敬罪で拘束する。」
「くっ……! ならば、お好きになさるといい。
だが、調べるというのなら、我々は自害しよう。」
「なんだって?」
洗脳されているだろうとは思ったが、自殺までさせるほど強力な洗脳だったのか? だとすると導師よりも強力な洗脳という事か。導師はあくまでも、信者にする能力だった。信者に自殺を命令するには、即身仏になろうというような超常の信仰心を植え付けなくてはならない。導師には、そこまでの事はできないようだった。俺にけしかける事はできたが……あのとき住人を人質にとられて、自殺させるぞと脅されていたら、手も足も出なかったかもしれない。
「いいのですか? 我々は単なる民間人。大使殿が追っている魔族ではないのです。
強引に事を進めた結果、無用な犠牲者を出した……と、そんな事になりますが?」
「……どうする、浩尉?」
アローが緊張した様子で俺をうかがう。
だが、俺の腹は決まっていた。
「勝手に死ね。
洗脳された犠牲者だろうが、兵器開発にかかわった犯罪者には違いない。この調査を遅らせて兵器が使われるような事になれば、君たちなど誤差にしかならんほど多くの人が死ぬだろう。君たちの犠牲で罪なき大勢が助かるのなら、俺は君たちを犠牲にしよう。」
物事に優先順位をつけるのが為政者――領主の仕事だ。
ならば決断するのみ。
しかも、罪なき民が人質に取られて、見捨てるか助けるか迷っているという状況ではない。
ならば迷う必要はない。
アローと所長たちが少し驚いた顔をしている。
人質が有効だとでも思ったか? アテが外れたな。人質には、せめて罪なき人を取るべきだ。そしたら俺だって少しぐらい考えたかもしれない。だがもう彼らは犯罪者なのだ。情状酌量の余地があったとしても、ためらう事はない。
1歩踏み込んだ。
同時に所長や研究者たちがナイフを取り出す。
なんでナイフなんか常備してんだよ。
彼らが一斉に自分たちのノドへ刃を運ぶ。
その瞬間、彼らの体は動きを止めた。
「まあ、話を聞く程度の人数は残しておかないとな。」
ロープだ。
踏み込むと同時に放ったロープが、すでに彼らの動きを拘束している。
「そういう事か。ヒヤッとしたが……さすがだな。」
アローが何やら感心している。見捨てるのは演技だったとでも思ったのだろうか。
俺たちはそのまま研究所へ突入した。
まずは所内にいる人たちを拘束していく。
片っ端からしらみつぶしにしていったが、中には間に合わずに死んだ人もいた。
構うものか。どうせ見捨てる予定だった。拘束して助けたほうの連中がラッキーだっただけだ。より大勢の犠牲を防ぐために――そう、唯一の被爆国から来た者として、それだけは防がなくてはならない。




