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ゴミ204 達人、重く受け止める

 9月17日、リモーラ。

 2度目の決戦となった「変わる者」との戦いが終わった。俺たちの勝利だ。討伐完了である。

 街に被害もなし。

 ただし領主は死亡していた。それと、室内で戦闘を始めたから、領主の屋敷の一室がボロボロだ。

 そしてなぜかアローの耳がピクピク動いていた。あれは嬉しいときのサインだ。だが、なぜ……? 何に喜んでるんだ?


「……というわけで、討伐は完了しました。」


 とりあえず領主代理を務めるご令嬢に報告。

 ワープ技で手紙を送り、王様にも報告する。報告書を書く手間は、俺もご令嬢も同じなので、ご令嬢の報告書もついでにワープさせてやった。

 しばらく待っていると、返事の手紙が()()()()()。収納し、取り出す。その手紙で、ご令嬢が正式に家督を継いで領主になることが認められた。


「これで一安心ですね。」


 なお、手続きとして領主に任命する式典があるそうで、後日首都へ行くらしい。

 俺がアイルの領主になったときには、手紙だけで「お前やっとけ」みたいな感じだったが……もしかして20都市を全部回り終わったら、任命の式典をやるからとかいって呼び出されるのか? いや、どうせ終わったらちゃんと報告しないといけないし、それも手紙ワープだけで済ませるというわけにはいかないだろう。ちゃんと顔を出さないと。たぶんそのついでに任命式をやる感じか。


「それじゃあ、リモーラでやるべき事は終わったな。

 今回もアローのおかげで助かった。

 次は……徒歩2日ぐらいか。1泊して、明日出発するか。」

「ああ。そうだな。」


 アローが耳をピクピクさせる。

 戦闘終了後、アローの耳がいつ動くのかずっと観察していたが、どうやら俺がアローに感謝したり褒めたり、あるいはアローの言うことを肯定したりサポートしたりすると、耳が動くようだ。

 ところが、ご令嬢から感謝の言葉をもらっても、アローの耳は動かなかった。

 そして決定的だったのは、道を歩いていたら見知らぬ冒険者たちから声をかけられたときだ。


「あれ? おい、見ろよ。あれって……。」

「うわ! マジか! え? 本物?」

「声かけてみろよ……!」

「お、おお……。

 すみません、もしかしてハイエルフのアローさん?」

「そうだが……?」

「うわー! 本物じゃん!」

「俺ら、アローさんにあこがれて冒険者になったんすよ!」

「存在進化ってどんな感じっすか!?」

「めちゃくちゃ遠くの的に当てられるって本当っすか!? 2㎞先の敵に当てたとか聞いたんすけど!」

「あ、ああ……そうなのか。

 存在進化は、気づいたらなっていた感じだ。

 遠距離狙撃が得意なのは本当だ。2㎞先の的なら当たるが……敵に当てたのは、いつだっけ……? キオートのときか……?」


 アローは困惑しつつも答えている。

 手の内をさらすような事は言わないのが、いかにも冒険者らしい。といっても、常人には「2㎞先を狙える」というのがすでに「強力な手札」に見えるだろう。実際には5㎞先でも狙えるから、アローにとっては隠すほどの情報ではないわけだが。

 それより、肝心な事はアローの耳だ。あれだけ名誉挽回を望んでいたアローだが、こうして「憧れている」なんて言われても、耳は動かなかった。アローにとっては、ずっと望んでいた事のはずだが……なぜか喜んでいない。

 過去の評価と比べてギャップがありすぎて戸惑いの方が大きいとか、すでに成就した過去の目標を自慢するような趣味はないとか、いくつかの可能性は考えられるが……他のケースと総合して考えると、俺のうぬぼれでなければ、アローは俺からの賛辞や肯定にだけ反応する。

 ……そういう事なのか?


「……? な、なんだ……? そんなじっと見て……。」


 アローが恥ずかしそうに上目遣いになる。

 ……これ、たぶん、そういう事だろうな。

 ふむ……嫌じゃあない。というか、拒否する理由はない。ただ、なんか「来るもの拒まず」的なのは、よくないと思うんだ。それは、できもしない仕事を簡単に引き受けてしまう無責任な従業員みたいな、あるいは代金を払わずに商品・サービスだけ受け取るみたいな、そういう印象だ。ちゃんと俺がアローに気持ちを返せるようになっていないと、アローに失礼なんじゃあないだろうか。

 一方的に好意を向けられ、それを受け取るだけというのは……たとえばたまたま預かったペットがやたら人懐っこいとかいうのは別だが……毎回おごってくれる友人みたいなのは、それは本当に友人なのか? 金づる扱いしているんじゃあないのか? たとえ相手がそれを良しとしてくれたとしても、たまにはおごり返さないと、というのが常識的な感覚だろう。まあ、中には平気でおごってもらう人とか、おごるのは平気でもおごってもらうのは嫌いだという人とかも居るには居るが。


「……はぁ。」


 ため息しか出ない。

 あと20歳若かったら、「異世界! ヒャッハー!」みたいな感じでハーレム作ろうとか思ったのだろうか? けど、実際は俺、40だからなぁ……。


「人の顔見てため息つくって、どういう事だ。

 何か悩みでもあるのか?」


 直接相談する……? いや、なんかそれは違う気がする。

 もしアローが「それでも構わない」と言ってくれたとしても、そのまま受け入れるのは「なんか違う」感がぬぐえない。むしろそのまま受け入れたら「なんか違う感」がずっと消えない気がする。

 要するに、これは俺の心の問題だ。けじめをつけてから始めたいという、俺のただのわがままだ。……そう、悩みというよりわがまま。だからこそ、誰かに言われてどうにかなるものではない。自分が納得するしかないのだ。自分で解決するしかない。

 なら、とりあえず今は別の話題を振っておこう。


「……キオートのときと似た感じ、と言っていたな?」

「うん? ああ、調べる前にそんな話をしたな。」


 あのとき、俺は「アイルのときと似た感じ」と言った。

 結果、似た感じどころか、そのものの敵が出てきたわけだが。


「もしかして、あれは正しいんじゃないか? と思ってな。」

「どういうことだ?」

「アイルより南と、ハメイショより東では、魔族勢力を見た。その間にある都市……キオートとかダイハーンとかディバイドとかでは、事件は起きたけど魔族勢力は見なかった。けど、見なかったのは、単に発見できなかったせいで、実際には魔族勢力がいたのかもしれない。

 おかしなことは起きていたから、あれらの事件が魔族勢力の暗躍だとしたら、俺たちは知らずにそれを潰してきた事になる。当然それらの討伐はしていないから、この先、今回みたいなリベンジマッチがまだあるんじゃないかと思ってな。」


 つまり、キオートの時も今回のように、魔族勢力はいたが、うまく隠れていたのではないか。

 そう考えると、魔族勢力はすでに全国にくまなく広がっていることになる。もしかして、俺たちがやっているのは、王国を守る戦いではなく、すでに奪われた王国を取り戻す戦いなのではないだろうか。

15章 完結!


明日はキャラクター紹介、明後日から16章を始めます。

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