ゴミ203 達人、決着をつける
9月17日、リモーラ。
領主の屋敷で「変わる者」と戦闘開始。体が水でできていて物理攻撃が効かない相手だが、連続投球からの「自動収集」で体積を削っていく。
ところが小さくなった「変わる者」は、体積が減った分、力を集中させたのか、驚くべきスピードでアローに向かって突進してきた。
「まさか『魔人』か……!?」
存在進化3回。たぶんそうだろうと思えるほどのスピードだった。
だが、たかが3回だ。俺は達人。存在進化6回分のステータスがある。思ったより速くて驚きはしたが、それだけだ。
「止めた……だと!?」
すぐにアローの前に回り込んで、「変わる者」の突進を止めた。
素手で銃弾を受け止めたようなものだが、今の俺にはオモチャのゴムパチンコで飛ばされた小石が当たった程度にしか感じない。ちょっと痛い。それだけだ。
「小さくなってスピードが増したか。
考えたんじゃあないか? だが、こっちだって弱いままじゃない。」
「くそっ……!」
「変わる者」が逃げ出す。
力こそパワーなんていう有名な脳筋言葉があるが、「変わる者」が考えていることも似たようなものだろう。水がもっとあればパワーで対抗できると。
たしかに水さえ補充できればサイズを回復でき、アイルを破壊するほどの津波を起こせるのだから、「変わる者」が水を得るのは脅威だ。
「だが、そうと分かっていて逃がすわけもない。」
まずは2個のゴミ箱を取り出す。全く同じ形をしたものだ。しかもそれを「ゴミ修復」で直しておく。直してもゴミ箱はゴミ拾い用具の1つだから「自動操縦」で操れる。そこに「素材合成」で作り出した油を塗って、「変わる者」を閉じ込める作戦だ。
ゴミ拾い用具には「破壊不能」も働くから、閉じ込めてしまえば逃げられない。油を塗って水密性を高めておけば、隙間から出てくることもできないだろう。なにしろ油は水をはじく。
「ほら、捕まえた。」
ボールをキャッチする感じで、2つのゴミ箱を合わせる。
「捕まるかッ!」
全速力だと思っていた「変わる者」が、さらに加速した。
ゴミ箱が回避される。
「なにっ!?」
マズイ。逃げられる。
「どうせ、そこだろう?」
と、アローが矢を放った。
アローが狙ったのは排水管。そして使ったのは「凍結」の魔道具弓だった。排水管が凍結する。
そこへ飛び込もうとした「変わる者」が、即座に軌道を変える。
「さすが。」
体を自由に変形できる「変わる者」なら、排水管を通って下水道から海まで行けるだろう。そうしたら、また津波を起こすほど巨大化する。
だが、「変わる者」が操れるのは水だけのようで、氷や水蒸気はダメらしい。だから排水管を凍らせてしまえば、「変わる者」はそこから逃げる事はできない。
「だったらこうだッ!」
「変わる者」が排水管近くの壁に突撃し、破壊する。
壁が崩れて、中から排水管が出てきた。さらにその排水管も、今の突撃で破損している。
「しまった……!」
「変わる者」はそのまま排水管へ飛び込んだ。
俺は「ゴミ探知」で排水管を流れる下水を探知した。途切れている部分が移動していくのを感じる。この「途切れている部分」こそが「変わる者」だ。ゴミとして探知できない。
どうやら「変わる者」は、下水を通って海へ向かっているようだ。予想通りだが、ちょっと面倒なことになった。
「海へ行くぞ。逃がすわけにはいかん。」
「やっぱり海へ行くつもりなのか。」
「ああ、移動してるようだ。」
俺たちは、「変わる者」を追いかけて海へ。
◇
海。
「潰れろぉ!」
津波になって「変わる者」が襲ってくる。
「そうはいくかッ!」
俺たちは、2人でガドリング並の連続投擲をおこない、「変わる者」を砕いていく。物理攻撃は無効だが、衝撃を与えている間は「変わる者」も自由に動けない。そして、飛び散った水を「自動収集」で削っていく。
しかし「変わる者」は、海水を吸収してサイズを回復する。
「無駄無駄無駄ァ! 海水を全部収納するつもりかァ!?」
さすがに海の水を全部収納できるのか、自信がない。しかも、できたらできたで世界規模の天変地異が起きるから大問題だ。具体的には、雨が降らなくなり、猛烈に乾燥する。酸素の供給と二酸化炭素の吸収が大規模に失われ、空気の組成が大幅に変わってしまう。二酸化炭素が増えることで温室効果が強化され、気温が劇的に上昇……などの影響が出るはずだ。
そうなる前に元通りに海水を戻したとしても、俺のスキルでは水の流れを止めることはできない。一気に吐き出した海水は放射状に広がる巨大津波になり、沿岸部を中心にかなり内陸まで到達するだろう。運動エネルギーによる破壊と、海水に含まれる塩分による塩害。しかも人類の文明は沿岸部のほうがよく発達しているので、国家機能がマヒするレベルの大災害になる。犠牲者の数も、全人類の過半数になるだろう。
ちょっとそれは許容できないので、ゴミをばらまいて海水をせき止める。「自動操縦」でゴミ箱を複数飛ばして、一気にゴミをばらまいていく。
そうして海水をせき止めて、その中にある海水だけを「自動収集」で収納し、干拓状態にする。
さらに投擲と収納を繰り返してサイズを削っていく。
「こっ……これは……!?」
「気づいたようだが、もう遅い。」
アローが電撃の矢を織り交ぜて麻痺させ、逃亡を防ぐ。
俺も周囲の被害を気にする必要がない場所なので全力投球ができる。全力投球を浴びた「変わる者」は、砕けて飛び散ると同時に、衝撃が熱エネルギーに変換されて蒸発する。もはや収納する必要もないぐらいだ。
「こ、こんなハズではあああ……!」
断末魔の悲鳴を上げる「変わる者」を、最後まで削りきって決着だ。
水しぶきに灰が混じる。
「……灰だ。終わったな。」
目がいいアローが先に気づき、攻撃をやめた。
灰ということは、今度こそ死んだ。
「討伐完了。
アローのおかげで逃亡を阻止できた。」
「屋敷に戻ろう。
室内をだいぶ荒らしてしまっただろう? 直してやれないか?」
耳をピクピクさせながら、アローが領主の屋敷の方向を向く。
アローが耳をピクピクさせるのは、喜んでいるときだ。しかし、表情はそんなに喜んでいない。屋敷を直しに行くのを喜んでいる? ……わけはないな。討伐できたことに対して? いや、それもないだろう。今まで討伐できたときに耳が動いたことはない。
あれ……? じゃあ、なんでアローの耳が動くんだ?




