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ゴミ20 閑話 隣村の神父

 私は村の教会に勤める神父、36歳。

 生まれ故郷で神父をやっていた父の背中を追って、神の恵みを理解する道へと踏み込んだ。見習いとして地方都市の大きな教会で修行したあと、晴れて僧籍を得た私は、教会の指示でこの村の教会へ赴任した。

 この村を見た私の第一印象は、あまり良くなかった。

 この村は病んでいる。

 作物は痩せているし、村人は病気がちで、腹を壊すぐらいは普通のことだと思っている。決して食事量が足りないわけではないが、村人はみんな痩せていて、穏やかというより活力がない。

 私も、畑に肥料を加えたり、与える水の量を変えたり、色々と試してみたが、まだ赴任して数年しかたっていない事もあって、今のところ成果は出ていない。


「これも神がお与えになった試練なのでしょうか……。」


 決して広くない大聖堂に、決して大きくない神像が祀られている。私はそれを見上げた。創造神様は様々な姿に変身できるというが、中でもよく知られるのは、ヒゲを腰まで伸ばした老人の姿で、黄金のローブをまとい、杖を持っている。そのお姿を表わし、後光を表現した円盤つきの神像だ。

 それを見上げていると、不意に扉が開いた。


「失礼。」


 中年男性が現れた。夕方の強い西日が彼の背後から大聖堂に入ってくる。

 なぜだか私は、その姿――単なる逆光に過ぎないはずの彼の姿が、神の降臨のように見えた。逆光が後光のように感じられたのだ。

 彼には神々しい雰囲気などなかったし、たまたま神像を見上げて神に思いを馳せていたから、そんな気がしただけだろうが、それでも私には、彼が神に使わされた人物のように感じられた。つまり、この出会いに運命を感じていたのだ。


「……というわけで、情報収集のためにこの村へ来たのですが、どうやら見るからに汚染の影響が出ているようですね。」


 ゴミ処理方法の改良を計画しているという彼の話は、私のこれまでの努力にまったく別の角度から導きを与えてくれるものだった。


「なるほど……東の平原から毒が流れてきているというわけですか。」


 そんな発想はなかった。

 やはり、この出会いは運命だったのだ。


「この村の水や土に、解毒の魔法をかけてみた事はありますか?」


 それは、驚くべき提案だった。

 見習いのときに教会で学ぶ知識というのは、教えられたものをただ覚えるという暗記の作業である。すべては「神がそうなさった」「神がそう望まれた」というところから出発しているので、そこに疑問を挟む余地はない。

 回復魔法が生物にしか効果がないというのも、そうして教えられた知識だ。自身の回復力を高めて治す魔法だから、と教わっていたから、そういうものだと思っていたし、生物以外には回復力がないのだから回復魔法が効果を発揮しないのは当然だと思っていた。本当かどうか疑うことはなかったし、ましてや試そうなどと思った事はない。


「ならば、試してみませんか? 神の奇跡がこの地を祝福なさるかもしれません。」


 なんという事でしょう。もしかすると、神父である私より、彼のほうが神への信仰心を持っているのかもしれません。

 教わった知識ではなく、神を信じる。私に足りなかったのは、その信仰心だったのでしょうか。

 神の愛を、神の恵みを、この地にも他の地と同じように等しくもたらされるものだと信じる。それは神父として、教わった知識よりも大事な、より本質的なことなのかもしれませんね。

 やはり、彼は神に使わされた人物なのでしょう。


「そうですね。では、ひとつ試してみましょうか。」


 もはや私の信仰に迷いはありません。





 村の井戸から水をコップ1杯ほど汲んできました。

 そして教会が所有する畑からも、土と作物を少しだけ持ってきました。

 水や土には回復魔法が効かないと教わってきましたが、生物には効果があると言われていますし、事実あるのですから、作物にも効くかもしれません。一応「生物」ですし。とはいえ、そんな事は今まで意識もしませんでしたから、試したことなどありません。作物は食べるべき食糧であって、癒やすべき生物だと思った事はなかったのです。


「いきます。

 デトキファイ。」


 解毒魔法を掛けました。

 すると、どうでしょう! 解毒魔法をかけた水・土・作物から、黒いガスのようなものが立ち上り、消えていきました。解毒が成功した証です。同時に、魔法をかけたものに確かに毒が混じっていたという証拠でもあります。


「おお、神よ……!」


 思わず神に祈りました。

 生物にしか効果がないと教えられてきた回復魔法が、水や土や作物にも効果が出たのです。教会の教えが間違っていた? 知らないだけだった? そんな事はどうでもいいのです。重要な事は1つ。神の奇跡はもたらされた。この地は神に見放されていなかったのです。


「予想通りですね。

 ですが、今のままでは村全体を解毒して回らなくてはなりません。神父様の魔力は、それほど続きますか?」

「あ……。」


 そうでした。魔力は魔法を使えば減るもの。そして有限です。私の魔力量では、村全体どころか畑1つ2つ解毒すれば、もう魔力が尽きるでしょう。かといって、ポーションをがぶ飲みしていては資金が足りません。教会は信者の皆さんからの寄付で成り立っていますからね。


「やはり、そうですか。

 だからこそ、領主様にはゴミの処理方法を改善して頂かなくてはなりません。そもそもの汚染源がなくなれば、問題は解決するのですから。

 そのための説得材料として、神父様、一緒に領主様に訴えてくれませんか? 領主様も、今の神の奇跡をその目でご覧になれば、考えて下さるのではないでしょうか。」

「おお……! まさに、おっしゃる通りですね。」


 根本的な解決。願ってもないことです。

 やはり、彼は神が使わした人物なのでしょう。

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