ゴミ02 達人、戸惑う
まさか、ここは異世界だとでも……?
飛び去っていくドラゴン? を見送りながら、思考もろともフリーズすることしばし。
我に返った俺は、周囲に誰もいないのを確認した。
そして、念のため小さめの声でこっそり言ってみる。
「ステータス。」
まさかそんなわけない、と思っていたものが現れた。
空中に平面画像である。文字情報がずらりと並んでいる。
名前:五味浩尉
種族:達人
年齢:39
性別:男
技能:ゴミ拾いLV1
「なんじゃこりゃ……?」
種族が達人って何だ? 技能がゴミ拾いって? こんな画面が出るぐらいだから、技能ってのはスキルの事でいいんだよな? ゴミ拾いがスキルってどういう事だよ? あとLV1って何だ? レベル上がったらどうなるの?
「意味わからん……。」
いきなり知らない場所にいるし、空には太陽が2個あるし、ドラゴンみたいなのは飛んでるし、変な画面は出るし……あり得ないことが起きすぎている。
「……マジで異世界ってか……。」
どうやら異世界ということで納得するしかなさそうだ。
元の世界に戻れるか分からないが、未練がないのは救いだろうな。家族もいないし、休日に一緒に遊ぶような友人もいない。仕事に追われて、休日は疲れて寝るだけだ。唯一の楽しみは食べることだけ。おかげで体重が90kgオーバーである。身長が180cmあるから、Tシャツとか背広とかを着て立っていれば、贅肉がそれほど目立たないと思う。座ると腹の肉が掴めるほどだが。
となれば、ぼーっとしていても仕方がない。言葉が通じるか? 文字が読めるか? 文化の違いは? 生活基盤は? 考えるべき事がいっぱいある。
「とりあえず、これか……。」
足下にある道らしきもの。これをたどってみるしかない。
◇
街を目指していたら商人が盗賊に襲われていた――などというテンプレイベントが起きる事もなく、無事に街を発見した。ぶっちゃけ、そんなイベントに遭遇しても、見つからないように逃げ隠れするしかないと思うのだが、一方で「技能:ゴミ拾い」については、少し分かった事がある。
道端に光るものを見つけて拾ってみると、それは小さな空き瓶だった。他にも折れた矢とか曲がった剣とか、よく分からない金属板(見たところ肘当てや膝当てみたいなものの一部だと思うが)とか、どう見ても役に立たないものが光って見える。
「つまり俺の視界には、ゴミが強調表示されるってことか。」
街に入るのに門番に税金を払う的なシステムはないようで、誰でも出入り自由のようだ。門番は金属鎧と剣で武装しており、人々の格好は映画やアニメや漫画で見るような「ザ・中世ヨーロッパ風!」だった。それと比べると俺の作業着はだいぶ浮いていると思うのだが――事実、周囲の視線を感じる――しかし、門番に止められたり誰何されたりはしなかった。
視界で光って気になるので、見つけたゴミを拾いながら街を歩く。不燃ゴミの袋は転移前に拾ったゴミで満杯なので、可燃ゴミの袋に入れておこう。分別は後回しだ。
そして肝心の、言葉や文字である。さっぱり理解できない。聞いたことのない言葉だし、見たことのない文字だ。
「こいつは困ったな……。」
どうやって生計を立てようか? というか、会話ができないのなら宿に泊まることもできない。そもそも金がない。野宿は覚悟しなくては。それに、食べ物をどうしようか……?
◇
街を歩き回ること1時間ほど。ゴミ袋にゴミが満杯になった。
これ以上入らないし、どうしようかな……と思いながら、さらに1つゴミを見つけて拾い、拾ったのでゴミ袋へ押し込もうとした。
「ん……?」
ゴミ袋が突然、空っぽになった。
どう見ても空っぽだ。だが不思議な事に、俺には「中に入っている」というのが、なぜか分かった。しかも入っているゴミの一覧が頭の中に浮かんでくる。
試しに手を突っ込んでみる。そして最初に拾った「空っぽの小瓶」を取り出そうとしてみる。
「……できちゃったよ、おい……。」
空っぽの小瓶が取り出せた。
アイテムボックスとか魔法の鞄とか、そういう事か? ゴミ袋なのが残念だが。
しかし、突然どうしてこんな……もしかして。
「……ステータス。」
名前:五味浩尉
種族:達人
年齢:39
性別:男
技能:ゴミ拾いLV2
やっぱりだ。「技能:ゴミ拾い」がLV2になっている。
という事は、ゴミを拾いまくれば、ゴミ拾いの技能はレベルアップするという事か。そして何か特別な効果が追加されるようだ。
ならばゴミを拾いまくるしかない。ゴミ拾いの技能は、この世界で俺が生き抜くための武器になる。問題は、何をどうすればゴミ拾いの技能で生活できるかという事だ。ゴミ収集業者にでもなればいいのだろうが、そのためには会話ができないといけない。
「……やっぱ、どう考えても言葉を覚えるのが重要課題だな。」
街を歩き回って、市場や商店街の位置は覚えた。人が多く、会話も多い場所だ。しばらく市場や商店街で過ごせば、言葉が分かるようになるかもしれない。赤ん坊だって聞いて覚えるからな。どっかの英会話教材のCMでも言ってたから、何とかなるだろう。
それまでは乞食のような生活でサバイバルするしかないか。あ、そういえば転移前に拾ったゴミに、キャンプ趣味の人が捨てたっぽいキャンプ用品がいっぱいあったな。あれ使おう。