ゴミ192 達人、タワーディフェンスに挑戦する
8月23日、オーヒン。
「遊ぶ者」が主催する殺し合い――ゲームに参加した俺たちは、アローの魔力吸収体質を使って、強制装備させられた武具を外した。
「私のゲームを無茶苦茶にするんじゃあないッ! このクソエルフがあああッ!」
と「遊ぶ者」が激高する。
なので俺は言い返した。
「人の生活を無茶苦茶にするんじゃあないッ! このクソ犯罪者があああッ!」
どの口が言うすぎて、思わず大声を出してしまった。
窓ガラスが割れ、兵士たちが耳を抑えてうずくまる。……すまんかった。種族が達人だから、存在進化6回分のステータスがある。気を付けないと。本気で大声を出したら、即座に気絶して聴力障碍とか起こすだろうな。今回はスピーカーの魔道具に負けない程度にするつもりだったから、この程度で済んだわけだ。
「ふん……! 馬鹿め! この程度のゲームで『人の生活を無茶苦茶にした』とは言わん! このゲームは生きるも死ぬも本人の自由だからな!
人の生活を無茶苦茶にするとは、どういう事か、見せてやろう!」
「遊ぶ者」の声が響き、アリーナのあちこちから住人たちが武装して現れた。
その武装はどれもこれも、ゲームで使っていた呪われた装備だ。
「進めッ! 我が手駒どもッ!
タワーディフェンスゲーム! 攻撃側は私だッ!」
現れた住人たちは1か所に集まり、整列して行進し始めた。
なぜか、こっちへまっすぐ突っ込んでくるのではなく、右へ左へと大きく蛇行している。
これは……マズイ……! たぶん……! 予想通りなら、すごくマズイっ!
「タワーディフェンスって何だ?」
アローが首をかしげる。
「プレーヤーがその本拠地として与えられた塔を、迫りくる敵から防衛するゲームだ。」
俺もスマホのゲームアプリで何度か遊んだことがある。
住人たちの変な行進は、つまり、そういう事だろう。
という事は――
「塔を守るゲーム? 塔なんてどこにあるんだ?」
「いや、ゲームだから塔自体には特に意味がなくて、『ここに到達されたら負け』という地点に過ぎない。
決まったルートを進んでくる大量の敵に対して、限られた手駒を有効に配置して殲滅し、防衛するのがタワーディフェンスゲームだ。」
そう。つまり、到達されて負けるか、殲滅して勝つか、選択肢がその2つしかない。
負けたらどうなるか分からないが、勝つには住人を殲滅するしかないのだ。殲滅するのはマズイ。相手は何の罪もないこの都市の住人だ。
かといって負けるのもマズイ。俺たちに何が起きるか分からないというのもあるが、住人たちがどうなるかも分からない。
タワーディフェンスで負けた場合、侵攻してきた敵キャラは塔まで到達すると、塔の中に入っていくような演出とともに画面から消えることが多い。その塔が見えないのだから、住人が塔に到達して消えてしまったら、どこへ行くのだろうか……? 高校生の右手に空間ごと削り取られた「立禁止」の看板みたいに「どこへ消えるのか分からないが、とにかくこの世界から消えてしまう」という状態になりかねない。
「なんかよく分からんが、あの連中を止めればいいんだな?」
いうが早いか、アローが住人たちに突っ込んでいく。
今回は相手が移動している――その移動は「遊ぶ者」のルールによって決められたもので、ステータス差があっても止める事ができない――ので、アローは一気に接近して手早く呪われた装備を奪い、また距離を取る。
まるで盗賊系のキャラクターを配置したような動きだ。
しかし、装備は外れるものの、移動は止まらない。
タワーディフェンスというからには塔が存在するはずだが、どこが塔なのか見た目には分からない。残り時間が分からないのはちょっとストレスだな。しかし「止めればいい」というのはアローの言う通りだ。移動が強制されているとはいえ、その方法は「歩行」である。つまりは、動けなくしてしまえばいい。タワーディフェンスゲームにも、移動阻害系のキャラや能力が登場する事がある。
「あとは俺の仕事だな。」
ゴミ袋からロープを取り出す。ロープはゴミ拾い用具の1つとして「自動操縦」で操作できる。
装備が外れて、爆発や吸血の危険がなくなった住人を、俺がロープで縛り上げる。
そしてロープはゴミ拾い用具の1つだから、「破壊不能」も作用する。ゲームなら足止め系スキルは時間が過ぎれば解除されるだろうが、このロープによる捕縛に「時間経過で解除」はない。ルールに組み込んで制限するのも無理だろう。
今までに「遊ぶ者」が設定したルールは、行動を制限したり強制したりすることはあっても、能力を制限することはなかった。能力の制限ができるなら、アローの魔力吸収体質による装備解除にキレる理由もない。それを制限する新ルールを加えればいいだけだ。ならば、「遊ぶ者」は、こちらの能力を制限できない。ロープで縛ってしまえば、いくら時間が経過しても行動不能状態を解除できないはずだ。
そしてそれは予想通り、ウェーブが進むたびに手足を縛られて地面に転がる住人が増えていく。
「だからッ! 私のゲームを無茶苦茶にするんじゃあないッ! このクソどもがあああッ!」
「遊ぶ者」がまたも激高する。
だが、もうそろそろ住人の侵攻は終わりのようだ。「遊ぶ者」はゲーム自体の公平性にこだわっているらしい。無限に――つまり全住人を突撃させるという事はないのだろう。頑張ればちゃんとクリアできる程度にレベルデザインをしているようだ。
まあ、その「ちゃんと頑張る」というのが悪逆非道なので、こうしてゲーム自体をぶち壊しているわけだが。
「攻守交替、逆侵攻だ! 俺たちのターン! 進軍を開始するッ!」
タワーディフェンスゲームには、攻守が交代するタイプもある。
たとえば、単純にタワーオフェンスのターンが存在するゲームとか、あるいは、2人のプレーヤーがそれぞれタワーディフェンスをやるのだが、自軍のスキルが相手のキャラを妨害したり、相手のタワーに向かう敵を強化したり、さらには自軍が敵を殲滅するほど相手のタワーに向かう敵が増えたりする。要するに、お互いのタワーを攻めながら自分のタワーを守っているわけだ。
「なにぃぃぃッ!? タワーディフェンスにそんな要素がッ!?
くそッ! 確かにその方が面白いッ!
しかも一方的に攻められるだけじゃあないのが公平だッ……! 相手のタワーに到達してしまえば、自分のタワーに向かってくる敵を止められるわけだなッ!?」
さすが「遊ぶ者」と名乗るだけあって、ゲームへの理解は早い。
だが、残念。ゲームに関しては、地球出身の俺のほうが、一日の長がある。