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ゴミ189 達人、ルールを知る

 8月20日、午後。オーヒン、領主の屋敷。

 領主に面会した俺たちは、オーヒンに「遊ぶ者」と名乗る魔族側の手勢がいることを聞かされた。

 「遊ぶ者」はゲームと称して毎週、住人同士に殺し合いをさせるらしい。出場者は開催直前にランダムに選ばれ、剣と防具を装備させられる。

 そりゃ道行く人々も暗い顔になるわけだ。今週は自分が死ぬかもしれない。あるいは家族や友人と殺し合いをさせられるかもしれない。第一、見ず知らずの相手だろうと、殺人をやるのは嫌なものだ。


「出場を拒否することは?」

「不可能です。

 選ばれた時点で、強制的に会場へ移動させられてしまいます。本人の意思を無視して体が勝手に歩いてしまうんです。他の誰かが、それを邪魔することもできません。

 中には、家の柱に鎖で体を固定し、鍵をかけておいた者もいますが、周辺住人によって鍵も鎖も壊され、出場を免れることはできなかったようです。」

「なるほど。周辺住人もそうやって動かされてしまうわけですか。

 戻るのに1週間以上かかる遠距離へ逃げるというのは?」

「支配されている住人は、街から出ることができません。強制的に帰宅させられます。」


 という事は、俺たちみたいに外から来た人に遠方へ()()()()()()()というのも、無理なのだろう。

 おそらく周辺住人が総出で邪魔しに来るはずだ。


「出場しておいて、誰も殺さないというのは?」

「それも無理です。

 剣と防具を装備させられる、とお話ししましたが、それが呪われた装備なのです。」

「呪われた装備?」


 おうむ返しに聞く俺に、領主がうなずく。


「まず、外すことができません。

 そして、剣が防具に命中すると、その防具が爆発します。」

「爆発……攻撃した人も、された人も、無事には済まないのでは?」


 武器が剣なら、爆発に巻き込まれるだろう。

 刃渡りが1mあっても、剣を振って命中させるには手が届くほどの距離に肉薄することになる。フェンシングや剣道みたいな動き――目いっぱい腕をのばして、武器の先端をできるだけ遠くへ出す――をすれば話は別だが、普通の刀剣だと重くてそんな動きはできない。

 フェンシングで使うような細くて軽い剣ならともかく、たいていの刀剣は1㎏以上ある。1リットルの牛乳パックで試してみるといい。動作自体は不可能ではないが、戦うほどの動きはできないと分かるだろう。しかも刀剣ならもっと長いので、てこの原理でより重たく感じる。

 ちなみに、フェンシングで使われるフルーレという剣は、西洋版の「竹刀」だ。怪我をしないで訓練するために作られたもので、その実戦用の剣は「エペ」という。似たような形をしているが、フルーレが0.3~0.5㎏なのに対して、エペは0.5~0.8㎏と少し重たい。刀身(ブレード)もエペのほうが太くて頑丈にできている。

 さらに蛇足だが、いわゆる日本刀といってイメージする「打刀(うちがたな)」が0.8~1.2㎏、ロングソードが1.5~2.5㎏、フルーレやエペに形が似ているレイピアでも1.5~2.0㎏である。竹刀は0.5㎏ぐらいだ。ただし、何にでも例外はあるもので、極端に重たい竹刀とか、極端に軽い刀というのもある。

 装備させられる剣というのが、どういう重さなのかで、その使い方も違ってくるだろう。


「攻撃された側だけがダメージを受けます。

 手首の防具に当てられたら手首から先が吹き飛び、ひざの防具に当てられたらひざから下が吹き飛ぶといった具合です。

 ですが、攻撃した側にはダメージが来ません。防具の内側に向かって爆発するのです。」


 軽く当てて怪我をさせないように、というのも無理なわけだ。

 悪意しかないな。


「ということは、剣で防ぐか、よけるしかないと……。」


 防具のない箇所で受けるという手もあるが、防御力には自信のある俺だって、剣を生身で受けたくはない。普通に怖いからね。ちょっと勇気が――いや、この場合は「度胸」か――が足りない。


「そういう事です。」

「けど、そんな防具なら、ますます攻撃しないと思うのですが。」

「時間切れになると、剣が持ち主の血を吸うのです。

 最初の試合は、それで全員が死亡しました。」


 どうしても戦わないとダメなのか。


「そのため、2度目の試合では戦闘がおこなわれましたが、攻撃が当たると防具が爆発することが明らかになり、手加減して攻撃するのが無意味だと発覚しました。

 さらに、攻撃に成功した人の剣は、時間が来ても血を吸わないことが分かりました。攻撃しなかった人や成功しなかった人は、血を吸われてしまいます。」


 誰かを犠牲にしないと助からないわけか。

 本当に悪意しかない。


「全員で生き残るとしたら、2人1組になって、お互いの防具を1か所だけ攻撃する、という事でしょうか。」


 俺なら、左手を犠牲にするだろうか。右利きだから右手があれば何とか日常の動作はできそうだが、足は片方でも失ったら日常生活が極端に不便になる。片腕がなくてもトイレに行ったり食事をしたりできるが、歩けないとトイレや食事席までたどりつけない。この世界には車いすもないし。


「それも不可能です。

 両チームには1つずつ旗があって、これを倒されると負けになります。

 負けたチームは、全員の防具がすべて爆発するのです。

 そして時間が来ても両方の旗が倒れていなかった場合、両チームの全員の防具が爆発します。」


 そしたらもう、死にたくなければ必死に戦うしかない。

 こっそり見つからないように移動して旗だけ倒すのも不可能だ。誰かの防具を爆発させないと、剣に血を吸われて死ぬ。

 ここまで悪意まみれということは、どうにか抜け道を見つけても、すぐにふさがれてしまうのだろう。まるで日本人が勝ったらルールを変更する競技みたいに。

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