ゴミ181 達人、接敵する
8月13日、ソーホーゲン。
「恐れる者」を探し出すために、かつて「恐れる者」に怖い目にあわされた人を探した。兵士たちの頑張りによって探し出された「かつての犠牲者」から、「恐れる者」の外見を確認する。
あとは確認した外見に合致する人物を探すだけだ。兵士たちが事件解決のクライマックスに向かって動き出す。刑事ドラマだったら勇ましいGBMが流れて、捜査の様子がハイライトされるところだ。
残念ながらこの小説は刑事ドラマではないので、そのあたりは省略される! 兵士たちよ、君たちは泣いていい! 名無しキャラの地道な頑張りは、現実なら非常に重要だが、小説やドラマでは省略される運命なのだ! だって描くべき事がないからね!
◇
そして8月20日、兵士たちの努力が実って、ついに「恐れる者」を発見した。
「よし、行こう!」
「待て。これを持っていくといい。」
発見された「恐れる者」のもとへ急行しようとする俺たちを、領主が止める。
そして、円盤が2個ついたようなマスクを差し出した。
これって、アレだ。防塵マスクみたいな、普通の不織布マスクとかガーゼマスクとかとは一線を画する本格的なやつだ。防毒マスクほどじゃないが、匂いなら防げるだろう。
「ありがとうございます。」
受け取って、アローとともに装着する。
炭の、無臭すぎて逆に特徴的な匂いがした。
◇
現場に急行。そして「恐れる者」を確認する。
「あいつか?」
「はい、そうです。」
見張っていた兵士に確認をとり、俺たちは「恐れる者」の前へ姿を見せた。
万一間違っていたら大問題だから、一応本人に確認しないとね。
「ちょっと失礼。あなた『恐れる者』ですか?」
尋ねると、その男は「こいつ馬鹿なのか」という顔をした。
「は? なんですか、それ?」
「いやいや、ごまかさなくて結構。
今『こいつ馬鹿なのか』みたいな顔をしただろう? それで十分だ。」
本当に人違いだったら「何言ってんだ、こいつ」という顔をするだろう。
困惑と呆れ。その2つは、明らかに違う表情だ。
「まあ、他人のフリを貫いて死んでくれても、それはそれで構わないが。」
匂いのもとが実体のない幻覚であるなら、「恐れる者」を倒すことで、新たな発症者は出なくなるだろう。俺はちょっと社会的に信用を失うかもしれないが、そんなのは些末なことだ。つまり、倒せばよかろうなのだ。
こちらが戦闘態勢に入るという事を明示するために、俺はゴミ袋から剣を取り出した。すでに刃こぼれがひどくて捨てられた剣だ。切れ味が落ちていて斬撃には不都合だが、ぶっ叩くだけの鈍器としてなら、まだ使える。
「くそっ! てめえ、狂ってやがるのか!? 正気の沙汰じゃねえ!」
男は飛びのいて距離を取り、正体を現した。
頭に角、体に砂をまぶしたような姿だ。地面に伏せたり茂みに隠れたりされたら、ちょっと見つけられないだろう。ギーリースーツ並の偽装効果だ。
「狂っているとは失礼な。執念深いと言ってくれ。
おかげで君を見つけることができただろう?」
戦闘開始だ。
剣を振る俺と、弓矢を射かけるアローに対して、「恐れる者」は懐から取り出したものを地面に投げつけた。
たちまち視界を奪うほどの煙が発生し、「恐れる者」の姿が見えなくなる。遠ざかっていく足音が聞こえた。
「逃がしゃしねえぞ!」
俺は追いかけた。
ステータスがべらぼうに高いのだから、「恐れる者」がいかに全力で逃げようとも、追いつく自身がある。
さらにアローが、牽制のために爆裂の矢を撃ってくれる。当たることはないが、かなり近い場所に着弾し、周辺に米粒をまき散らす。まるで個人携行のミサイル兵器だ。軍事オタクじゃないからあまり詳しくないが、対戦車砲とかを思い出す。
そういえばゲームでも連射可能なグレネードランチャーをぶっ放すのが好きだった。もう1年以上プレーしてないのか。地球に残った俺の私物はどうなったんだろう? まあ、今となっては確認しようもないが。
「オラオラオラァ!」
俺は硬いゴミを取り出して投げつける。
剣を振るのは得意ではない。剣で斬るためには、「刃筋を立てる」といって、正しい角度で切りつけなくてはならない。包丁だって寝かせた角度で当てたら食材を切れないのと一緒だ。
一方で、物を投げるのは得意だ。プロ野球のピッチャーほどではないが、野球部だった事もある。今でも「投げる動作」をすれば、腕の血液が全部指先に集まって手がしびれるぐらいの事はできる。
「馬鹿め。」
どこかから、そんな声が聞こえた気がした。
そして俺は、予想もしなかった角度から攻撃を受けた。
「ぐはっ!?」
狙撃……と言ってもいいだろう。
相手が見えないのだから、狙撃と言っていいはずだ。
どうやら俺は「恐れる者」を追っているつもりで、いつの間にか偽物(幻影?)を追っていたようだ。
まったく、いつの間に入れ替わったのか……。