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ゴミ18 達人、調べる

 ゴミ処理の一般的な方法を見学した。

 魔法で燃やして、魔法で埋める。単純明快で、大筋では地球のやり方と同じである。しかも圧倒的に早くて、特別な設備なども必要なく、極めて効果的だと分かる。

 ただ、その方法はゴミ処理の方法としては間違っている。

 なぜなら、分別せずに集めたゴミを、可燃・不燃の区別なくとにかく燃やして、ちゃんと燃えたのか・燃え残ったのかを確認することもなく、有害物質の発生に対して何の対策もなく、土壌汚染・水質汚染・大気汚染に一切無頓着である。

 という事は、今までに埋め立てた場所でそれらの汚染が発生しているはずで、水の流れにおいて下流に位置する村では住人に何らかの健康被害が出ている可能性もある。また、埋め立て地に生息する動植物を狩猟・採集している可能性もあり、その消費地でも同様の健康被害が懸念される。さすがに農耕地ではゴミ処理をやらないだろうが、近くでやっていたら農作物の収穫量に被害が出る可能性もあり、川の近くでやれば漁獲量の低下も起きるだろう。

 現に、今回のゴミ処理に使った場所は、広大な草原の一部にできた広い荒野の、そのまた一部だけだ。この荒野になっている部分には、たぶん地下にゴミを燃やしたものが埋まっているのだろう。


「とりあえず……街に戻るか。」


 まずは近い所から調べてみよう。





 ゴミの埋め立て地では草も生えない荒れ地になっていたが、周囲は草原で、さらに少し離れた場所では森もあって川もある。となれば、当然そこに動物が住み着くわけで、それを狩猟する人も居るだろう。そして狩猟された動物がどこへ行くかといえば、一番近い街に売られると考えるのが妥当だ。

 というわけで街へ戻る。

 何らかの健康被害が出ているはずだ。もしくは――


「いらっしゃい。」

「西の平原で狩ってきた動物の肉はありますか?」


 俺は肉屋にやってきた。


「うちには置いてないぜ。」

「どうしてですか? あのあたりにも動物は居るし、近いんだから運んでくる手間も少なくて、安く手に入ると思うんですが。」

「まあ、そりゃ間違っちゃいねえけどよ。

 あそこにはゴミの処分場があるんだ。焼いて埋めて処理するから、その時に周囲の植物も焼けて埋まるわけだ。当然あんまり植物は育たない。だから草食動物もやせっぽちなんだ。

 周りは草原や森があって草食動物も多いから、そこから縄張り争いに負けて追い出されたようなやつが流れ着くのが西の平原だ。個体数はそれなりだが、餌が少ないから痩せてて、食うところが少ない。運ぶ手間も少ないが、商品価値も少ないってわけだ。」


 店主は、やれやれといった様子で肩をすくめた。


「つまり、値段は安いと。」

「まあ、そうだな。」

「なら、どこで売っていますか?」


 あくまで西の平原の肉にこだわってみると、店主は訝る様子で尋ねた。


「……なあ、あんた、どうして西の平原の肉にこだわるんだ?」

「犬の餌にするんですよ。

 あんまり上等なものを食わせる余裕はありませんので。」


 嘘だ。犬は飼ってない。だが、言い訳としてはこんなところだろう。

 すると、俺の言い訳を聞いた店主は、安心した様子でため息をついた。


「ああ、そうか。それならいいんだ。」

「どういう事ですか?」


 尋ねると、店主の顔が再び険しくなる。


「西の平原の肉を食うと腹を壊すという話がある。

 動物に食わせる分には平気だが、人間が食うとダメらしい。

 川の水も、動物だったらそのまま飲めるが、人間が飲んだら腹を壊すからな。人間の腹は動物より弱いんだろう。」


 ビンゴだ。

 やはり健康被害が出ていた。


「その噂の出所は? 最近でも腹を壊した人がいますか?」

「いや、居ないはずだ。

 みんな知ってる事だからな。人間が食うことはないはずだよ。」


 証拠は出ない、か。

 だが周知の事実と化している。これは大きな事だ。ゴミによる汚染が原因だとは知られていないようだが、危険性はすでに認識されているという事だ。


「それほど危険だと思われているわけですね。

 ……となると、うちの犬に食わせるのもちょっと怖いなぁ……。」

「それじゃあ、うちの肉を買っていきなよ。」

「そうですねぇ。

 でも、ここで肉を買うなら、自分で食べますけどね。」


 一番安い肉を少し買って、店を出た。

 今日の調査はここまでにしよう。





 日を改めて、朝から西の平原を越えた先の村へ向かった。

 道中は川の近くを通り、魚の状態を見てみる。汚染物質が土壌を通って川にしみ出ている可能性がある。


「……見たところ、異常なしか。」


 川魚に異常は見られなかった。





 西の平原を越えて、村に到着した。腕時計を見ると、出発してから8時間ぐらいたっていた。何度か休憩を挟んだが、その合計時間が2時間ぐらいだから、正味6時間か。通っていた小学校が、自宅から2kmの距離で、歩いて30分だった。つまり俺の歩行速度は、小学校当時で4km/h。今は体も歩幅も大きくなって、たぶん5km/hぐらい出るだろう。5km/hで6時間なら30kmほどの距離だった事になる。疲れたとか体力がないとかで4km/hだったとしても、6時間なら24kmだ。けっこう歩いたものだな。

 隣村は、農耕地が広がっていて、そこを通る道路沿いに建物が密集していた。まるで稲穂だ。道路を茎として、穂のように家が密集。住宅地と農耕地が切り離されている。家と家の間に農耕地が挟まっているように見える部分もあるが、それは道路がそういうふうに延びているだけだ。

 おそらく家が建っている場所は、ほとんどすぐ隣に森があったのだろう。森から木を切り出して、森のすぐそばに家を建てていった結果、人口が増えて家が増えるのに比例して森が少なくなり、今では消滅したというわけだ。ヨーロッパの、大都市に近いところにある街でよく見る構造である。

 日本の農村とはだいぶ違って見える。日本の農村なら、住宅地と農耕地を均一に混ぜたような構造だ。農耕地の中に家々が点在しているというか、家と家の間に田畑が挟まっているというか、そういう構造になっている。

 おそらく魔物や盗賊に襲われた時に、素早く逃げられるように、こうなっているのだろう。午前中までいた街では、住宅地の周囲に防壁があり、農耕地がみられなかった。城がなかったから首都ではなく地方都市に過ぎないのだろうが、周辺一帯の中でも特に栄えている街だと分かる。


「……どうやらビンゴかな。」


 村を見るに、どうやら汚染の証拠を見つけたようだ。

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