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ゴミ160 達人、フューリーを見つける

 6月15日、ハメイショ。

 街にあふれる呪曲の作曲者フューリーを探していた俺たちは、ついにその男を発見した。


「君がフューリーか?」


 怒髪天(モヒカン)モードだった領主が、元のしおれた草みたいな髪型に戻っていた。

 消音の矢で呪曲を消している影響だ。態度も穏やかになっている。


「だったら何だ!?

 大勢の兵士で取り囲むなんて、まるで俺が犯罪者みたいな扱いじゃないか! どうなってんだ!?」


 フューリーは怒鳴り散らした。

 こいつが怪しいと睨んでいる俺たちからすると、逃げ回った末に怒鳴るなんて、最後の悪あがきにしか見えない。精一杯威嚇しているつもりだろうが、こっちからすると滑稽だ。やってる本人はそのことに気づかないんだから不思議なものである。


「聞きたい事があるんだ。

 なかなか見つからないから、兵士の手を借りたが、他意はない。」


 領主も負けていない。

 穏やか、かつ冷静に逃げ道をふさいでいく。


「領主に教える事なんかないよ!

 それとも、曲の作り方でも知りたいってのか!?」


 笑わせるな、とフューリーはあざけるように笑う。

 音楽家には男が多いが、音楽家から音楽を学ぶ者(つまり音楽家が音楽を教える相手)には女性が多い。それも貴族の奥方や令嬢である。日本でいうなら、たとえばピアノ教室を家庭教師のスタイルでやるようなものだ。音楽家が貴族の家へ出向いて、そこの奥方や令嬢に楽器の演奏を教える。

 こっちの世界では、音楽はBGMとして聴くものという認識が一般的だ。音楽は脇役なのである。コンサートやライブみたいな「音楽が主役」という場面は、この世界には存在しない。それは音楽に対する認識の違いだ。

 地球でも、古い時代にはそういう認識だった。それを変えたのは、かの有名なベートーベンらしい。料理人などと同じく、音楽家は貴族の家に入るとき、裏口から入らなくてはならない。それをベートーベンは「俺は正面玄関から堂々と入る」と言って聞かなかったそうだ。当時の常識からは考えられない事である。そして、それはこっちの世界でも同じことだ。

 つまり、演奏を学んだ貴族の奥方や令嬢は、楽団を呼ばない規模の会合でその腕前を披露する。たとえば親しい相手を家に招待したときや、新しく知り合いになった相手を家に招いたときなどだ。プライベートな会合とはいえ、そこで下手な演奏をしたのでは、奥方や令嬢が「残念な女」と見られてしまう。どうかすると、この家では音楽を学ばせる余裕もないとか、招待しておいて馬鹿にしているとか受け取られてしまうので、なるべく高名な先生に教わろうとする貴族が多い。

 そうなると、音楽家として名を上げれば食っていけるという道ができる。家督を継げなかった貴族の次男や三男などが、娘たちのように政略結婚の手駒として使う道もなく、独立せねばならないとなったときに、冒険者になるか、商人になるか、学者になるか……あるいは音楽家になるか、という事になってくるわけだ。それで音楽家には男が多い。

 つまり、領主はすでに家督を継いで領主になっているわけで、音楽家として曲を作る必要などない。かといってフューリーの作る激しい曲は、貴族同士のプライベートな会合に使うBGMには適さない。フューリーが「笑わせるな」というのも当然だ。

 ……とはいえ、それは今の俺たちには全く的外れなのだが。


「作り方ではなく、作った経緯を知りたい。

 聞いた人を怒りっぽくさせる魔法効果が備わった曲なんて、どういうわけで作曲したのだ? 君はいったい何が目的だ?」

「魔法効果だぁ? 俺が作った曲に? なんだそりゃ? 意味わかんねー事いってんじゃねーぞ! なんで俺が呪曲なんか作らなきゃいけねーんだよ!」


 フューリーがとぼける。

 しかし、内心はどうだろう? ここまで誰にもバレずに呪曲を広めてきたのに、なぜ今になってバレたのか……と多少なりとも焦りや動揺を抱えているはずだ。

 少し揺さぶりをかけてみよう。


「なぜ呪曲を作らなくてはならなかったのか、それを訊いているのは、こっちのほうだ。

 喧嘩をしたり暴れて物を壊したり……傷害罪や器物損壊罪の発生件数がものすごい事になっている。その原因が呪曲にある事は、もはや明白だ。音楽を消したら急に全員大人しくなったのだからな。」


 ここまで言うと、フューリーは「そんなの偶然だろ」と言いたげな顔をした。

 たしかに今はまだ状況証拠と言われても仕方ない。何度か音楽のオン・オフを繰り返せば立証できるが、面倒だから、このまま口を挟ませず、さらに畳みかけよう。


「つまり、この呪曲を作ったお前は、事の先導者、主犯格というわけだ。問答無用で刑罰に処されたいのなら黙っているがいい。だが、領主は『おまえにも何か事情があったのかもしれぬ』と申し開きの機会を与えているのだ。その慈悲を拒むのなら、最も重い刑罰を覚悟しろ。」


 ここまで言うと、フューリーは嘲笑するような顔をした。

 領主の慈悲なんて、といったところか。

 三権分立の概念がないので、司法・立法・行政がすべて領主の手に握られている。領主が望む通りのルールを定め、領主が望む通りにそのルールを運用し、領主が望む通りに処罰することができる。たいていの貴族は、そこに保身や利益といった欲望が入り込み、公正公平を徹底できない。税率さえ領主の自由に決められるのだから、どこまでが正義で、どこからが搾取なのかも曖昧なのだ。しかも、領主が出世すれば権力や財力が高まり、領地に恩恵をもたらす事もできる。だから余計に「どこまでが必要な投資で、どこからが不要な贅沢なのか」という線が引きにくい。

 まだフューリーに余裕があるようだが、そろそろ首を絞めてみよう。「最も重い刑罰」がどれほどのものか、説明してやる。フューリーはまだ「たかが曲を作っただけ」とか思っていることだろう。だが、それは間違いだ。


「お前には、呪曲によって小規模な暴動を多発させた騒乱罪と、さらに曲の影響範囲を広げて規模を拡大しようとした内乱予備罪および内乱陰謀罪が適用される。また、最終目標を国家転覆とする反逆罪の嫌疑もかかっている。」


 聞いた人を感化して呪曲を演奏させる効果もあるようだから、意図しようがしまいが、放っておけば最終的に国家の存続が危ぶまれる事態になることは明白だ。つまり、反逆罪はほとんど確定している。


「なんじゃそりゃ!? ほとんど死刑確定じゃねーか! くそっ! ふざけんじゃねえ!」


 フューリーは地団太を踏んだ。

 フューリーの足が地面を踏みつけるたびに、フューリーの体がもこもこと膨張していった。筋肉が発達し、頭からは角が生える。


「この『怒る者』がそう簡単にやられてたまるかってぇの!」

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