ゴミ14 達人、逃げる
ちょこちょこブクマや評価を頂いております。ありがとうございます。
7月20日23:17
1章完結まで執筆終了し、「章」を作成しました。
1章は35部(8月11日投稿)で完結します。
作品全体の完結は21章ぐらいを予定していますが、各章が何話で構成されるかは未定です。
書き切れるかなぁ……。(; ̄ー ̄A アセアセ・・・
キャンプ地で実験を終えた俺は、次に今夜の食事を調達するべく、川底へ火ばさみを突っ込んだ。
そして川底にあった大きめの石……石と岩の中間サイズのやつを、ひょいと持ち上げた。ゴミ拾いスキルのおかげで、岩を持ち上げても重さを感じない。
で、その持ち上げた石を、別の岩へ叩き付ける。
ガコッというかバキッというか、とにかく重量感のある硬い音を立てて、叩き付けた石が割れた。同時にその衝撃が水中を伝わって周囲に放射される。
音とか衝撃波とかの振動は、空中よりも水中、水中よりも固形物の中を、より速く伝わる。そのせいなのか知らないが、気絶した魚がぷか~っと水面へ浮いてきて、川に流されていく。
「今日の食事ゲット。」
俺は流されてくる魚を拾った。
あ、ちなみに、日本でこれをやるとどうなるか分からない。禁止されている漁法だからだ。それだけに効果も大きい。釣り竿でチマチマ釣るよりも、あっさりと大量に漁獲できる。
地球ではどうなるか分からないが、この世界では魚も学習するらしく、この漁法を1度でもやると、次から魚が寄りつかなくなる。だから魚を獲る場所は、キャンプ地からはだんだんと上流へ向かっていて、今日はもう1kmぐらいはキャンプ地から離れた場所に来ている。
キャンプ地は毎朝きちんとテントを片付けて完全に撤収しているから、わざわざキャンプ地へ戻る必要もないんだよな……。
「戻るのも面倒くさいから、ここで食事にするか。」
今日はここをキャンプ地とするッ!
というわけで、まずは火起こしだ。初日は火がつくまでに2時間かかったが、1ヶ月ほどたった今では慣れてきて、5分ほどで火がつくようになった。要点は力の加減だ。摩擦熱は「押さえつける力」と「移動距離」によって決まるから、できるだけ強い力で押さえつけなくてはならない。滑らかに回転するギリギリの強さで押さえつける、その加減を覚えないと、うまく火がつかない。
さて、うまいこと火起こしが終わったら、次に魚をさばいていく。はらわたを抜いてから焼いた方が、内臓の苦みが周囲にしみ出なくて好みだ。まあ、たまになら内臓の苦みも味付けとして楽しめるが、毎日の食事なら遠慮したい。
魚をさばくのに使うのは、ご存じ地球で拾ったナイフだ。こいつを川の水でジャバジャバっと洗ってから、タオルで拭いて使う。タオルで拭くとゴミも雑菌も汚れも錆もすべて綺麗に落ちるのだ。いや、雑菌については見えないから分からないけども。たぶん間違いない。フライパンも同様にしてタオルで拭き、そうやって除菌が終わったところで、フライパンを火にかけて、魚をライドオン!
ジュウジュウと音を立てて魚が焼けていく間に、タオルを川で洗う。
ジュウジュウという音がチリチリと水分のない音に変わったら、いざ実食!
「……結構痩せたなぁ。」
食べながら、自分の体を見下ろして、つぶやく。
転移前は90kgオーバーだったが、今はたぶん70kg台だ。この調子なら60kg台に突入するかもしれない。実は高校までは60kg台だったのだ。大学に入ってから80kgオーバーになった。運動部の連中に合わせた食事をしていたが、俺自身は運動部じゃなかったのだ。なんでそんな食事だったのかというと、そういう学生寮だったからだ。県人寮とか県民寮とか呼ばれる、同じ県の出身者だけを受け入れるアパートがある。○○県学生会館とかの名称で、その県の育英会が運営していることが多い。卒業後も食事量は減らず、運動量は増えず、気づけば90kgを超えていた。
深く息を吐き、腹を意識的に引っ込めてみる。90kgオーバーだった時には、ぼよんと出っ張った腹がまっすぐになる程度だったのが、今はまっすぐな腹が引っ込むようになっている。60kg台だったときには腹直筋だけ浮き出て、あばらと合わせて象の顔みたいな形になっていたものだが、まだそこまでではない。
「……さて、ごっそさん。」
食事は終わった。
次にフライパンで川の水をくみ、火にかける。煮沸消毒して夜の間に冷まし、明日の飲み水にするのだ。
沸騰したときに振動でフライパンがひっくり返らないように、しっかり握っておく。一応、石をならべて五徳を作っているが、なんせ自然物なので支持力が弱いし、きちんと均一な高さにならない。たいていは普通に使えるが、たまに何かの拍子にバランスを崩してフライパンがひっくり返ることがあるのだ。
そんなわけでフライパンをしっかり握っていると、次第に沸騰が近づいてきてガサガサと音がし始める。
「……ん?」
ガサガサと? そんな草を掻き分けるような音はしないはずだが……。
「げっ……!」
なんであんなのがここに!?
犬だか狼だか分からない魔物だ。鱗なのか何なのか、ゴジラの背中みたいに馬のたてがみみたいなものが生えている。地球じゃお目にかかれない動物だ。幸い単独のようだが、魚を焼いた匂いに寄ってきたか? さばいたときの血のにおいに寄ってきたのかも? どっちでもいいが、撤収だ。幸いテントはまだ出していない。沸騰間近のお湯をひっくり返してたき火を消すと、俺はそっと逃げ出した。
「……おお……!?」
走るのは大工を助けたとき以来か。つまり昨日のことだ。
昨日は大工を助けるのに必死で慌てていたから気づかなかったが、俺ってこんなに速く走れたっけ? それに、足音が全然しない。
……ああ、分かった。スニーカーだ。しかも今履いているのは、ランニングシューズとしてスポーツ用品店で買ったやつだ。けっこう高かった。
スニーカーというのは、スニーク(こそこそしている)という英単語から来ている名称で、革靴に比べて足音が小さいことから名付けられたらしい。たしかに、どこを歩いても革靴より足音は小さい。板の間みたいな所を歩けば、素足よりも静かに歩ける。
そんな靴を、ゴミ拾いスキルがチート化してくれたものだから、走る速さも足音も驚くべきレベルになっている。今までで一番すごいチートかもしれない。マジで命に関わる事態から脱出できた。