ゴミ137 達人、護衛する
20都市の1つフッコは、人狩りと呼ばれる武装勢力に支配されていた。
復讐を誓う未亡人に誘われて、俺たちは人狩りと戦うことを決める。
だが、時刻はすでに夕方。作戦の実行は明日からという事にして、ひとまず未亡人の家へ。今夜の宿を借りることにした。
あらゆる物資が不足しているというので、宿のお礼に素材合成で出せる物資を出してやった。ただ、このスキルでは素材しか出せないので、たとえば「炙りサーモンマヨ」は「炙りサーモン」と「マヨネーズ」と「玉ねぎ」といった素材になって出てくる。つまり化学反応を起こしていない限り、原材料別に出てくるわけだ。七味唐辛子みたいに単に混ざっているだけなら当然分離されるし、カフェオレさえもコーヒーと牛乳に分離する。だから海水から真水を取り出すこともできる。転移直後から使えていたら、飲み水を確保するのが楽だっただろう。煮沸する手間がかからない。
◇
明けて翌日、5月20日。俺たちは作戦を実行する。
まずは未亡人が5年かけて用意してきた策略を使って、人狩りの拠点の1つへ攻撃を仕掛ける。具体的には、人狩りの拠点近くにある建物に、それとわからないように設置された足場を使って屋根の上へ。そして屋根の上に隠してあった弓矢や魔道具で、遠距離から攻撃する。
人狩りが応戦のために出てきたところを、未亡人の策略通りに誘導しつつ、5年かけて準備した罠を順次発動。人狩りの人数を減らしていく。未亡人が用意した罠はどれも簡単なブービートラップだが、敵が足をひっかけたときに発動するのではなく、未亡人が屋根の上を走って逃げるときにわざと足をひっかけて発動させる。5年もバレずに用意するには、そうするしかなかった。
「ぐわっ!?」
「ぎゃあ!?」
ただ走って逃げているようにしか見えない未亡人だが、その足元ではトラップのスイッチを次々と踏んでいる。そのたびに地上を走る人狩りの頭上や足元などから、割れたガラスや陶器の破片が降り注いだり、どんぶりほどもある岩が落ちたり、矢が飛び出したり、棘つきの棒がフルスイングで飛んできたりする。
どれもこれも、あまりダメージを狙っていない罠だ。よほど当たり所が悪くない限り、負傷はしても戦えるし、問題なく動ける。一方的に攻撃を受けて、しかもそこそこ痛いがダメージは少ないと来ているから、人狩りは「小癪なまねを」「よくもやったな」と怒り、ますます猛然と追いかけていく。
しかし、未亡人が用意した罠は、だんだんと威力を増した凶悪なものになっていく。やがて人狩りは致命傷を受けて倒れたり、即死したりするようになるが、怒りに染まって猛然と追いかけている間は、罠の攻撃力が上がったことに気づかない。
ちょっとだけ冷静さを保っていたリーダー格が、ようやく異変に気付いたのは、油を浴びせられたときだった。
「ぶわっ!? ……これは……油? ――いかん! 退避! 退避だ!」
「もう遅いわ。」
未亡人は立ち止まり、火打石を打ち鳴らす。
あらかじめ用意してあった火口に着火し、火口から紙へ延焼したところで、松明へ着火。松明の先端に巻き付けた布には油をしみこませてあり、紙が燃える程度の火からでも簡単に着火する。
足を滑らせながらも退避しようと動き出していた人狩りの集団へ、未亡人は松明を投げた。
「ぎゃあああああっ!」
「熱い! 熱いいいいい!」
先に浴びせた油のおかげで火は一気に燃え広がり、火だるまになった人狩りが転げまわって火を消そうとするので、よけいに油が飛び散って火の海が広がっていく。
最初から油を浴びせて火をつけるという手が使えれば早いのだが、大量の油を屋根の上などにこっそり運んで保管しておくというのは、敵の拠点近くだと見つかってしまう可能性が高かった。だから離れた場所に用意しておいて、そこまで誘導する必要があったのだ。
この作戦中、俺は自動操縦でゴミ袋を動かし、未亡人を守っていた。盾の代わりに未亡人に随行させたのだ。人狩りも追いかける最中に弓矢や投擲で攻撃しようとする。未亡人は最初、防具をつけて走るつもりだったらしい。非力な未亡人が屋根の上を走り回ることを考えると、選択肢はレザーアーマーしかない。軽いからだ。しかしレザーアーマーでは、矢に対してさえ十分な防御力を持たない。だから防具の代わりにゴミ袋を使うことにした。ゴミ袋なら破壊不能だからな。
未亡人は、人狩りの拠点をすべて把握しており、すべての拠点近くに同様の罠を用意していた。
俺たちは順番に同じ作戦を繰り返して、人狩りの拠点を潰していった。
ちなみにアローには、もしもの場合にカバーできるように、遠距離からの狙撃を頼んでおいた。その出番が回ってきたのは、東側で最後の拠点を攻撃したときだった。