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ゴミ136 達人、提案を受ける

 5月19日、フッコに到着した俺たちは、いきなり襲われた。

 襲ってきたのは「人狩り」と呼ばれる武装勢力で、元はよくあるマフィアの1つだったが、今やフッコを実効支配しており、武装も充実してマフィアと呼ぶには無理がある武装勢力になっている。この人狩りは、ほかのマフィアとの抗争を繰り広げて勢力を拡大している頃に、街の各所に――それも交差点なんかを封鎖するような形で、バリケードや櫓などの建造物を設置して、周辺を支配する拠点にしている。

 ……と、これらの情報を、いきなり現れた未亡人から教わった。彼女は人狩りに旦那と息子を殺され、復讐するために人狩りを徹底的に調べ上げたらしい。


「残念だけど、私では連中を半壊させるのが精いっぱいだと思うの。でも私は連中を全滅させたい。

 それで、人狩りを簡単に退けたあなたたちに手伝ってほしいのだけど、どうかしら?」


 俺たちは顔を見合わせた。

 いきなりそんなこと言われても……と思ったが、考えてみれば悪くない提案かもしれない。フッコにも領主がいて、領主の兵士がいたはずだが、どうなったのか? 今のこの街のゴミは誰がどうやって処理しているのか? それに、少なくとも反社会的勢力であるのは間違いないようだから、俺がやるか領主に任せるかは別にして、いざ排除しようとなったときのために、人狩りが作った拠点の場所とかの情報を得ておくのは悪くない。


「悪くない提案だが、俺たちがあなたの計画通りに動いてやるとは言えない。

 俺たちは、冒険者でも傭兵でもないからな。」


 言ってから、そういえばアローは冒険者だったと思ったが、アローは黙っていてくれた。


「そうなの? そういえば、何をしにこんな街へ?」

「俺は廃棄物処理特務大使、五味浩尉男爵。

 この街には国王陛下の命令で、ゴミの処理を引き受けに来た。だからまずは領主に会いたい。

 だが、男爵が他の貴族の領地で起きた問題に首を突っ込むのは、ちょっと問題がある。そもそも内政干渉だし、男爵なんて貴族の中では一番下っ端だからな。20都市の1つを任されるような大貴族を相手に、その持ち物を勝手に改めるようなことをしたら反感を買うだけじゃすまないかもしれない。

 しかし、大使としての俺は、近衛騎士と同格の扱いだ。つまり、その領主が人狩りに監禁されているのなら、救出までやってもいい権限がある。ただ、人狩りをフッコから完全に排除するまでやるのは、大使としての権限を越えてしまっているんだ。」

「そうなの……。」


 未亡人は残念そうにうつむく。


「領主様の衛兵は、抗争から住人を守ろうとして大勢死んでしまったわ。

 領主様は監禁されているのか殺されたのか分からないけど……。生きていたとしても、助けたところで人狩りをどうにかできるほどの戦力はないはずよ。」

「そうだろうな。今すでにやられているわけだし。

 ただ、もしも領主が生きていて、俺に人狩りの排除を要求するなら、男爵として大貴族からの要請に応じるのは、やぶさかではない。」


 大使としては、任務外のことは拒否できる権限もあるが、あえて拒否しないという選択肢もある。


「もしも領主が死んでいる場合には、陛下にその旨を報告し、後のことは陛下の判断に従うことになる。陛下が『ついでに排除してこい』と言えば、俺はそれに従うし、『鎮圧部隊を送るから任務を急げ』と言われたら、俺はそれに従う。これは、男爵としても大使としても、そうする以外にない。」


 報告・連絡・相談。これの重要性は、現代でも中世でもこの世界でも変わらない。

 そして上からの命令には、基本的に従わねばならない。これも組織ならどこでも同じだ。

 俺は王様のことを「雇い主」「顧客」「上司」という程度の認識でいる。だから忠誠心も愛国心もないが、社会人として礼節はわきまえるし、組織の一員として行動可能な範囲や優先順位は判断できる。もし領主が死んでいた場合、王様がやれと言わない限りは、人狩りを排除するつもりはない。勝手なことをして人狩りを刺激すると、いざ鎮圧部隊が来た時に想定以上の抵抗を受けるという事もあり得る。最悪、鎮圧部隊が人質にとられて王様に何か要求するまであり得るのだから、王様が何もするなというなら何もしない。


「そういうわけで、とりあえず領主の安否を確認するところまでは付き合おう。

 俺としても、領主がどこにいるのかわからない状態では困る。」


 未亡人は悩み始めた。

 未亡人としては、領主の死亡を確認し、王様から「何もするな」と言われてしまうのが、最悪のパターンだ。中途半端に人狩りを刺激して立ち去り、鎮圧部隊が来るまで何の補償もない。苛立った人狩りに八つ当たりで攻撃される可能性が高くなるばかりだ。

 だが、だからといって俺に今すぐ何もせずに立ち去るという選択肢はない。領主の安否確認と、生きていればゴミ処理を引き受け、死んでいたら王様に報告するところまでは、未亡人がどう動くかに関係なく実行する。

 従って、未亡人としては、領主の居場所を俺より先につかみ、その情報を秘匿しつつ、俺を誘導するのが最善だ。


「つまり、しらみつぶしに拠点を潰して回り、最後の拠点でようやく領主の安否が判明すれば、浩尉は合法的に人狩りを全滅させられるというわけだな。」


 アローが言う。

 未亡人は、はっとしてアローを見た。アローは「そうだろ?」と言わんばかりに未亡人を見る。

 未亡人は次に俺を見た。「そうなの?」と書いてあるような顔をしている。俺は「そういう事もあるだろうな」という顔で肩をすくめ、アローを見る。

 アローは俺を見てにやりと笑った。「どうせそのつもりだろ?」と言わんばかりだ。俺は「そういう事もあるだろうな」という顔を保ったまま、肩をすくめて軽く何度もうなずいた。「はいはい、そうですね」と。

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