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ゴミ135 閑話 一流の未亡人

 私は未亡人。

 私には夫と息子がいた。けれど、2人とも「人狩り」と呼ばれる連中に殺されてしまった。

 人狩りは、この街(フッコ)の裏社会で急激に勢力を拡大し、統一支配していった。人狩りのリーダーは「食べる者」と呼ばれる不気味な男で、敵対勢力を次々と食い潰していった。噂では、実際に殺した敵対勢力の人を食べているという。

 人狩りが他の勢力に攻撃し、攻撃された勢力が対抗して……という形で、抗争は激化し、襲撃事件が頻発するようになると、彼らはいつ襲われてもいいようにと常に武装するようになっていく。しまいには町中にバリケードを作って拠点を設営する有様で、そのバリケードもだんだん強化されていって、今では街のあちこちに砦みたいな建物が出来上がっている。


 そんな状況なので、街を歩けば抗争に巻き込まれる危険が高い。かといって引きこもっていては食料やその他の生活必需品に困るし、収入もなくなってしまう。


 今から思えば、人狩りが活動を始めた初期の頃に、ほかの街へ引っ越しておけばよかった。けれども、大都市に住んでいて「同じ都市のどこかで殺人事件が起きた」というのを理由に「じゃあ引っ越そう」と即断する人がどれだけいるだろうか? 「怖いわねぇ」と思いながらも、特に対策もせず日常を過ごす。誰だってそうする。私たちだってそうした。だんだん抗争が激化していっても、注意深く暮らしていけば大丈夫だと……何かあれば、すぐその場から逃げればいいのだと、そんな風に安易に考えていた。


 いよいよ危険を感じるようになって、人々が無用の外出を控えるようになった頃、彼らは交差点などにバリケードを作って拠点となした。そして急速に勢力を拡大した人狩りは、制圧した拠点を中心にして、周辺の一般住人をも統制し始めた。すなわち、ほかの街への脱出を禁じたのだ。

 街からの脱出――その判断が遅れたのは、この街に住んでしまっているからだろう。機敏な商人たちは、この街に寄り付かなくなって、フッコはあらゆる物資が不足し始めた。人狩りが住人を統制し始めたのは、物資の不足を予想していたからだろう。私たち一般人は、生き延びるために家庭菜園などの自給自足を始めるようになった。そして人狩りは、私たちが自給した生活物資を奪っていくようになったのだ。


 今や人狩りに対抗する勢力はなく、街は人狩りに支配されている。人狩りの敵対勢力がいなくなったから、抗争が起きなくなり、街は静かになった。住人は奪われる恐怖で息をひそめて生活しており、屋外を歩くのは巡回している人狩りぐらいのものだ。


 夫が死んだのは、まだ人狩りに敵対勢力が残っている頃だった。抗争に巻き込まれて負傷した夫は、命からがら逃げ帰ってきた。しかし家の外は人狩りやその敵対勢力であふれていて、医者に診せに行くのも危険だった。私はできるだけの手当てをしたが、夫はそのまま亡くなってしまった。

 息子は、そんな夫を助けるために、治療薬(ポーション)を手に入れようと出て行った。そして治療薬(ポーション)を手に入れて帰ってきたときには、息子まで負傷していた。しかも夫は息子が帰ってくるまでもたず、息子も家にたどり着いたところで力尽きてしまった。


 夫と息子をいっぺんに失った私は――壊れてしまったのだろう。泣きわめくこともなく、淡々と亡骸を弔い……そこから先の記憶がない。どうやって暮らしていたのか分からないが、ある時、悲鳴が聞こえて、急に我に返った。

 見れば近くで抗争が起きていて、悲鳴は殺された人狩りの1人が上げたものだった。

 そのとき、私は顔の筋肉が勝手にひきつっていくのを感じた。ずいぶん長いこと顔の筋肉を使っていなかったらしく、ひどく動かしにくい。

 私の顔は笑っていた。

 そして私は、自分が何をするべきかを理解した。私は立ち尽くし、抗争で死んでいく両勢力の人たちを眺めていた。


 それからの私は、ひたすら彼らを見続けた。

 抗争の行方を見守り、勢力図が塗り替わるたびに変化する巡回ルートや巡回のタイミングを観察し、彼らの弱点を探し続けた。

 5年が過ぎたころ、私は人狩りに見つからずに街を自由に歩き回れるほどになっていた。「1万時間の法則」だ。一流になった人はみんな、一流になるまでに1万時間の努力をしている。つまり逆にいえば、1万時間の努力でその分野の一流になれる。もちろん間違った内容では1万時間の努力も無駄だが、どうやら私の努力は無駄ではなかったらしい。

 私は、彼らに復讐する方法と、そのために必要なものを割り出し、用意していた。非力な私でも、策略と罠を使えば人狩りをかなりまで倒せる計算だ。しかし、私の望みは人狩りの全滅。かなりまで倒すだけでは満足できない。1人残らず殺してやる。だが、そのためには、私では力が足りない。

 そして運命の5月19日、私は、人狩りをやすやすと退ける男女を見た。


「……なんだ、ありゃ?」

「さあ……?」


 彼らは人狩りをやすやすと退けただけでなく、あたかも危険を感じなかったかのように……まるで走ってきた子供がぶつかった程度の事であるかのように、なんでもない様子で首を傾げ、肩をすくめていた。

 素晴らしい……! 素晴らしい強さだ。

 おお、神よ……! たとえあなたが邪神でも構わない。この運命的な出会いをもたらしてくれたことに感謝します。


「あれは『人狩り』と呼ばれる連中です。」

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