表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/245

ゴミ12 達人、いいものを拾う

 いつも通りの朝がきた。

 昨日のうちに洗って干しておいたパンツをはいて、今日はゴミ拾いには出ないで、作業服を洗おう。夜のうちに干しておけば乾いたかもしれないが、寝具が段ボールとビニール袋だけなので凍死する危険がある。だからやめておいた。

 凍死というのは、なにも本当に凍る必要はない。人間の体温は、36~37度を維持するようにできているが、これが1度上がると頭がフラフラするし、1度下がると内臓の働きが悪くなる。体温が下がれば体が震えて、震える=筋肉を動かすことで、熱を生み出そうとする。筋肉は人体最大の発熱器官である。だが発熱量を上回る寒さに晒されたり、筋肉を動かすだけの体力がなくなったりすると、体温は下がっていく。

 そして、34度を下回ると大脳の働きも悪くなって意識朦朧となり、いわゆる「寝たら死ぬぞ」状態になる。27度を下回ると意識がなくなり、仮死状態になる。蘇生はもはや困難だ。そして体温が20度以下になると、死亡する。凍死である。

 要するに、気温が氷点下みたいな極寒じゃなくても、そこそこ寒いと人間は凍死してしまうのだ。ましてや眠っている間は体温が下がる。春や秋、布団をかぶって寝るにはちょっと暑いと感じる頃に、布団なしで寝てみるといい。最初は平気で横になれるが、ウトウトし始めた頃に、気温は変わっていなくても、寒くて寝られないと感じるようになる。そのまま無理に寝ると風邪を引くやつだ。

 ちなみに、体温計で測ると37.0度より高くても無症状の人や、35度台が出る人もいるが、こうした個人差が出るのは、筋肉や脂肪の量、体調や汗の量などによって、皮膚の温度が違ってくるからだ。そのため体温計で測れる体温は、標準的には36.5度ぐらいであり、37.0度あったら微熱である。

 今日は友達と飲みに行ったとか、今日は遊びに出かけたとか、多くの人は、毎日いくらか違うことをして過ごすため、毎日同じ時間に体温を測っても、プラスマイナス0.5度ぐらいは変動する。ところが引きこもりや出不精などで日々の変化が極端に少ない生活をしていると、プラスマイナス0.1度ぐらいまで変動幅を小さくできる。まあ、変動幅を小さくしても体調が良くなるとか病気になりにくいとかの効果があるわけではないが。

 閑話休題。

 そんなわけで俺は、作業服を洗うなら昼間に、と決めていた。


「だが、その前に。」


 作業服をタオルで拭いてみる。体の汚れはチート化したタオルの「絶対に拭き取る」が発動して綺麗になるのだから、作業服の汚れも同じように拭き取れるのでは? そしたら、いちいち洗わなくても、タオルで拭き取るだけでいい。


「レッツ・トライ!」


 というわけで実験である。

 このときのために、目で見て分かるほど汚れるのを待っていた。嘘である。だがそう思うことにしよう。タオルで拭いて、綺麗になったら洗濯しなくていい。ちょっとだけ泥か何かで汚してみればいいと気づいたのは、今朝、目覚めてからだった。我ながらアホである。

 いや、まあ、聞いてくれよ、俺の言い訳を。結構しんどいんだよ。技能のレベルを上げるためだけにゴミ拾いを続けて、たまに野菜とか果物とかもらうのを期待しながら、言葉も覚えながら、そしてサバイバルな食生活。1ヶ月で20kgぐらい痩せたんだから、そのヤバみが分かろうというものだ。これで普通の食生活に戻したら、絶対リバウンドするだろ。そして、たまに夜中にガサガサと草を掻き分けるような音がして「魔物!?」と緊張するわけだ。まあ、このあたりに居るのは、角が生えた兎みたいな小動物ぐらいなんだが、それでも命の危険を感じながらでは、寝ても体が休まらない。何よりも心が疲労する。分かるだろ? ……うん、言い訳だ。極限状態でこそ頭を働かせて、生き延びる道筋を探さないといけないのに、俺ときたら……。

 神様! 俺にこんな環境でも熟睡できる図太い神経をくれ! ……ダメだ。それじゃあ襲われても気づかずに死んでしまう。生き延びるコツは、兎のように臆病(チキンハート)になることだ、って13の人も言ってた。人混みの中でも撃鉄を起こす音に反応して武器に手をかけるほど臆病じゃないんだから、13の人と比べたら俺だってだいぶ獅子のように勇敢(ライオンハート)だよ。

 気を取り直して、フキフキしてみる。


「おお……!」


 賭けは俺の勝ちだ! タオルで拭くだけで作業服の汚れが落ちた! ……何か賭けたっけ? まあいいや。とにかく、これで洗わなくても済む! 毎日、清潔な服を着ていられるということだ。いやぁ、どうして今まで試そうと思わなかったのか不思議でしょうがない。でもまあ、技術の発見ってこういうものだよな。ビバ・清潔! ビバ・衛生管理! 俺の人生に幸あれ!


「作業服を洗うのは中止だな。」


 今日もゴミ拾いに出かけよう。





 市場のゴミ拾いを終えて、広場にやってきた。

 市場の屋台商人は果物や野菜を売っているが、広場の屋台商人は串焼きとかの「そのまますぐ食べられるもの」を売っている。つまりファーストフード店だ。

 そこで俺は、ゴミ箱に捨ててもらえなかったゴミを見つけた。

 拾ってみると、それは紙袋だった。中には空容器が入っていた。容器にはちょっと濡れたような跡がついている。これは油が染み込んだのか? たぶん唐揚げの容器だろう。


「いいものを拾った……!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくれてありがとうございます。
楽しんでいただけたら、幸いです。

「楽しめた」と思っていただけたら、上の☆☆☆☆☆をポチっと押していただきますと、作者が気も狂わんばかりに喜びます。
バンザ━━━┌(。A。┌ )┐━━━イ!!

「続きが気になる」と思っていただけたら、ブクマして追いかけていただけると、作者が喜びのあまり踊りだします。
ヽ(▽`)ノワーイ♪ヽ(´▽`)ノワーイ♪ヽ( ´▽)ノ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ