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ゴミ116 達人、電撃を用意する

 アイルを襲った水害は、単なる災害ではなく、魔物による攻撃らしい。

 水と一体化しているために、打撃や斬撃は効果がなく、防波堤を作っても乗り越えてくるから防げない。倒すには、ダメージを与える方法が必要だ。しかし水量が膨大なので、全部蒸発させるのは難しい。しかも蒸発させようと思うと海水から水を無尽蔵に補給してしまいそうだ。

 そこで、電撃はどうかと考えたが、ここで1つ問題が。


「それで、電撃を試すのはいいが、どうやって電撃を発生させるんだ?」

「あ……。」


 俺たちには、電撃を発生させる能力や技術がない。もし地球のゴミをこっちの世界に召喚できるなら、バッテリーや発電機を持ち出す手もあったが、俺のスキルではそれは無理だ。

 となると、代わりになる発電装置が必要だ。あるいは電撃を使える魔法使い。それも並大抵の威力では足りない。都市を丸ごと飲み込む相手を、丸ごと感電死させるほどの威力が必要だ。


「とりあえず、猫耳商会に相談しよう。」


 Sランク冒険者の剣豪オーレさんは、剣で対処できない相手に対処するために、猫耳商会で魔道具を購入した。それによってAランクからSランクに昇格できたのだから、猫耳商会が扱う魔道具の中にはSランクの敵にも対応できる威力の魔道具があるという事なのだろう。

 あるいはアイルの魔術師をかき集めて、その魔力を電撃に変換するような――コンデンサみたいな装置があれば、それでもいいかもしれない。





「そんなもの、ないにゃ。」


 猫耳商会を訪れて、そういう魔道具がほしいがあるかと尋ねてみると、会頭のエコさんが鋭くぶった切るように答えた。

 ちょうど水害発生の報告を受けて、復旧のための陣頭指揮に来ていたらしい。


「てゆーか、この状況じゃあ、まともに商品を用意できないにゃ。

 在庫も流されたし、港も機能停止状態だし、陸路も泥まみれの瓦礫だらけで馬車が通れないし、どうにもならないにゃ。廃棄物処理特務大使にゃんだから、さっさと片付けてほしいにゃ。」

「3日くれれば片付ける。

 てか、1回片付けたあとで、また水害が起きたんだけどな。」

「10日前に1回目、さっき2回目だ。

 あと、『水害』って言うけど、『そういう魔物の襲撃』だからな。」


 アローが補足してくれる。


「そうそう。それで、その討伐に必要なんだ。電撃の魔道具。」

「……それにゃら何とか用意してあげたいにゃけど、ダイハーンの本店から取り寄せる事になるにゃ。」

「取り寄せれば、あるのか。」

「あるにゃ。うちを誰だと思ってるのにゃ?

 『筆記用具(かてい)から武器防具(ぐんじ)まで』、猫耳商会に何でもお任せにゃ!」


 えっへん、と言わんばかりにエコさんが胸を張る。

 猫獣人のエコさんは、人間でいうと小学生ぐらいの小柄な体つきなので、胸を張ってもかわいらしいだけだ。


「さすが! 頼りになるぅ! そこに痺れる憧れる!

 じゃあ、頼むよ。」

「任せるにゃ!」


 エコさんは胸を張ったまま、拳でドンと叩いた。ちなみにちっぱいである。なので効果音は「ドン」だ。「ぽよん」とかではない。残念。


「あ、それと、もう1つ頼みがあるんだが……。」


 俺がその内容を伝えていると、知った顔のおっさんが駆け寄ってきた。

 弓矢工場の工場長だ。


「大使様! ここにいらっしゃいましたか!」

「どうかしましたか?」

「じ、実は……!」


 工場長がいうには、2度目の水害でまた物資や道具が流され、製品の製造が再び頓挫したことで、魔道具弓を開発する余力がなくなったそうだ。書類は2階に保管するように改善したので無事だったらしいが、資材や製品は2階に運び上げるには重たいとか量が多いとかの問題があり、どうしても1階でやる利便性を優先することになるらしい。それが(あだ)になった形だ。


「なんの話にゃ?」


 エコさんが尋ねた。

 資材や道具が流されたとなれば、操業再開に向けてまた買い直す必要がある。つまりは猫耳商会にとって商機というわけだ。


「今まで通りに操業できなくなって、開発中の新製品を開発する余裕がなくなったらしい。」


 その新製品が魔道具弓だという事は伏せて、俺は説明した。

 誰にも言わないという約束だしな。


「浩尉……。」


 アローが何とは言わずに俺を呼ぶ。

 その意味するところは、俺も考えていた。

 アローにはうなずきを返して、工場長とエコさんを交互に見る。


「提案があるんですが。」

「何でしょう?」

「何にゃ?」

「工場には資材を融通しましょう。道具も、回収できる分は回収して、足りない分はエコさんに用意して貰う。その代金は、俺が出します。

 その代わり、新製品の開発を急いでください。電撃を優先して欲しい。水害が2度と発生しないように、討伐するつもりです。」


 俺の言葉を受けて、水害が魔物の仕業であることを、アローが工場長に説明する。

 工場長は驚きながらも、討伐に必要ならと協力してくれることになった。


「エコさんのほうは、そういう事で頼む。」

「任せるにゃ。」

「それで、工場長。さらにもう1つ提案ですが、魔道具といえばルマスキー学園です。開発を急ぐために、提携したらどうでしょう?」


 学術都市ヒルテンにある学校機関の1つ、ルマスキー学園。ドワーフの学園長ヒや、その娘で学生のクは、かなり優秀な技術者のようだった。

 あの2人に協力を呼びかけ、天然の雷や発電機の発電の仕組みを教えたら、喜んで食いついてくるのではなかろうか。


「学園と……ですか?」


 工場長は、ちょっと懐疑的な様子だった。

 学生なんて素人に毛が生えた程度。そう思うのも無理はない。





 しかし、それから3日後、4月16日。

 俺が2度目の水害で出たゴミや泥を除去している間に、弓矢工場とルマスキー学園は順調に研究を進めていた。1日1回は様子を見に行くようにしていたが、初日にして電撃をまとった矢を放つことに成功し、2日目には威力が上がり、3日目には攻撃範囲が広くなっていた。

 だが、水害の魔物を倒すには威力も範囲も足りないだろう。さらなる進歩に期待するばかりだ。


「凄い開発速度だな。こんなに早く実用可能なものができるとは思わなかった。」

「まさにまさに……学園と思って侮っていたのは間違いでした。

 ただ、水害を討伐するには、威力も範囲も足りません。技術開発という意味では、ちょっと一段落して、行き詰まった状態です。」

「技術以外に何か突破口があると?」

「素材です。

 高純度の水晶か、ミスリルでもあれば……。しかし、どちらも今の状況では、資金的にも在庫的にも手が出せません。」

「なんだ、そんな事か。」


 そんな事なら問題ない。

 自動分別(ゴミ拾いLV4)素材合成(ゴミ拾いLV7)を使えば、純度100%の巨大水晶だって用意できる。

 ミスリルは……さすがに、それを捨てるやつは居ないようだ。冒険の途中で装備したまま死んでしまう冒険者ならいるかもしれないが、俺がゴミを回収しているのは全国20都市のゴミ処理場である。そんな場所にミスリルを、たとえ欠片でも捨てるような奴はいない。指輪程度のサイズでも、魔力を増幅する効果は絶大である。100倍の量の銀よりも強い。

 俺はすぐにソフトボールサイズの水晶を取り出した。


「ほら、これを使え。」


 素材合成(ゴミ拾いLV7)では、取り出せる素材の大きさや形は選べない。なので、念のために10個ほど取り出して、工場長に渡した。

 水晶なんて、要するに石英の結晶である。石英というのは、土や砂の中にいくらでも存在する一般的な物質だ。ただ、自然界では石英だけが大量に集まって結晶化するというのが珍しいのである。ちなみに、不純物の種類や量によって、水晶の色が変わる。


「こ、これは……! なんという高純度……! なんというサイズ……!

 ほ、本当に、これを頂いてもよろしいのですか!?」

「お互いの利益のためだ。足りなければもっと出すから、開発を急いでくれ。」

「身命を賭して開発に当たります!」


 工場長は胸を叩いて宣誓した。

 それはちょうど、騎士の敬礼と同じポーズだった。

 そして実際に、翌日には電撃の威力と範囲が10倍になっていた。だが、まだだ。もうあと10倍ほどの威力と範囲がなければ、水害を討伐するどころか、全体に攻撃を行き渡らせることもできない。





 4月20日。街の片付けも終わって、俺は工場に入り浸り、魔道具弓の開発に参加した。

 電撃の威力と範囲は日を追うごとに倍々に向上していく。

 もう少しで目標値に届きそう……というところで、開発は再び壁にぶつかった。電気回路やプログラミングみたいに複雑な魔法術式を、工場長とルマスキー学園の共同開発でどんどん効率化していった結果、すっかり無駄がなくなって、99.999%まで魔力を電撃に変換できるようになったのだ。

 こうなると、残りの0.001%の無駄をなくしても、大きな威力アップは見込めない。


「どうしたものか……。」


 頭を抱える工場長と従業員たち。


「ちょっと見ていても分からないんですが、術式を簡単に説明してもらっていいですか?」


 俺がそう言うと、従業員たちの視線は2種類に分かれた。

 一方は「この素人め」という面倒くさそうな視線。

 もう一方は「思考を整理するにはいい手かもしれない」という肯定的な視線だ。

 そして、肯定的な視線を送ってきた従業員たちが、代わる代わるに説明してくれたところによると、使用者の魔力を吸い取って電撃の付与魔法に変換し、発射した弓に電撃を付与するという仕組みらしい事が分かった。

 俺が提供した水晶は、魔力を吸い取る部分から、付与魔法に変換する部分までの間に組み込まれ、魔力を増幅しているらしい。電圧を上げるようなものだろうか。


「じゃあ、変圧器を組み込んだらどうでしょう?」

「変圧器?」


 俺はその仕組みを説明したが、工場長や従業員たちはちんぷんかんぷんの様子だった。

 なので、ルマスキー学園に説明を書いて送ったところ、すぐに返事が返ってきた。


『これ凄いわ!』

『これを電撃魔法に変換した後の回路へ組み込めば、電撃の威力が上がるわけですね!』


 親子そろって大興奮の様子だ。

 さらに、返事に続いて何やら専門的な回路図みたいなものが書いてあった。


「ふむ……。」


 と工場長がうなり、従業員たちにその図を見せて、全員で「ほうほう……」とうなずき合ったかと思うと、すぐに試作品が作られた。

 そして試射の結果、電撃の威力が2.5倍になった。ただし変圧器を使った結果、電圧が上がった分、電流が下がっている。スタンガンのように非殺傷の麻痺効果が強くなって、電気椅子のような殺傷力は低下しているという事だ。

 これの意味するところは、ダメージを減らして麻痺効果を強め、連射によって一方的に攻撃できる状態を作り出すという事である。麻痺を利用したハメ技だ。

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