ゴミ115 達人、攻撃手段を考える
4月13日、2度目の水害が発生し、アイルの街が浸水した。1度目の水害から10日目、人々は元の暮らしに戻ろうと努力を始めたばかりだった。
2度目の水害には、発生時から現地に居て、俺は浸水をなんとか食い止めようとしたが、為す術がなかった。有効な攻撃手段がなかったのが原因だが、即席の防波堤を作ってもまるで効果がなかったり、ゴミ拾いスキルで「つかむ」ことはできても「持ち上げる」ことはできなかったりする事から、水害の水は誰かの所有物という可能性が浮上した。
だとすると、この水害は「所有者」が意図して起こした事件という可能性もあるし、意図せずに起きてしまった不慮の事故という可能性もある。そして「所有者」は水と一体化している精霊みたいな存在で、俺が即席で作った防波堤なら民家より高くても乗り越えるくせに、建物には1m以上浸水しないという謎の行動を起こす「知性」がある。
しかしアローいわく、精霊ならこんな悪意のある行動はしないらしい。
という事は、要するに、この「所有者」というのは、討伐するべき魔物と考えていい。何とか有効な攻撃手段を見つけなくてはならない。
「水をすべて蒸発させるしかないのか?」
アローいわく、それが有効な方法らしい。
「他の方法は知らないな。」
「そうか……しかし、あの量の水をすべて蒸発させるなんて、現実的じゃない。」
「まあ、な。」
アローも同意するが、何しろアイルの街全体を浸水させるほどの水量だ。
「しかも、海から来るんだから、蒸発させたそばから補給するかもしれない。」
「それはあるだろうな。」
「て事は、海の水を全部蒸発させないといけない事になる。」
「ますます現実的じゃなくなったな。」
自分で言っておいてアレだけど、とアローは苦笑する。
実現できなければ、アイデアがあっても効果を得られない。
俺は、ふと地球のゲームを思い出した。
「風属性や土属性の魔法でダメージが通るって可能性は? あるいは、植物属性の魔法とか。」
一部のゲームでは、赤・青・緑・黄色・紫あたりの色が使われ、属性として扱われている。たいてい、赤は緑に強く、青に弱い。青は赤に強く、緑に弱い。緑は青に強く、赤に弱い。そして黄色と紫はお互いに強い。なんとなく、赤は火、青は水、緑は植物、黄色は光、紫は闇をイメージする。火は植物を燃やすが、水を浴びると消えてしまう。水は火を消すが、植物には吸われる。植物は水を吸うが、火で燃える。そんなイメージだ。
「水の精霊に、風や土の魔法が有効という話は、聞いた事がない。
水の魔法と風の魔法を混ぜると、配合比率によるが、水の魔法の範囲が広がったり、風の魔法が強くなったりする。
土の魔法と混ぜると、水の魔法の威力や収束率が高くなったり、土の魔法の操作が速くなったりする。
……まあ、私は自分では使えないから、聞いた話だけど。」
アローは、魔力の回復力が強すぎるために、自分で使った魔法の魔力さえも吸い取ってしまって、魔法を使おうとしても発動する前に消えてしまう。
ただ、魔力の回復力を抜きに考えると、一応は使えるらしい。魔法に関する知識も一通りだ。もっとも、エルフであるアローは、人間が使う魔法とは別の体系の魔法を使うが。
まあ、どっちにしても実際には発動できないのだから、同じ事だ。
「植物魔法? に至っては、そんなの聞いたこともない。どんな魔法なんだ?」
「植物を操る魔法だが……。」
近いのは、2000年前に転移してきた七味唐子さんのスキルか。
そういえば、あの人のスキルなら「海水を一瞬で吸い取る植物」とか作れそうな気がする。
そう思って、あとで手紙を送ってみたが、返ってきた答えは「無理」だった。正確に言うと、「海水を一瞬で吸い取る植物」は作れるが、吸い取った海水の量だけ植物が大きくなる。つまり海水の貯水槽としては機能するし、水害を防ぐことはできるが、今度はその後始末をどうするかという問題が起きてしまうのだ。
第1の問題は、「どこからどこまでが敵なのか」という事だ。その判断ができないと、触れた海水を全て吸収する植物になってしまう。津波を吸い取って一瞬で巨大化した植物が、海岸からはみ出して海に到達してしまったら、あとは海が根こそぎ吸い取られる。世界規模の大干ばつが起きるだろう。
第2の問題は、うまく津波だけを吸い取ったとしても、その後始末をどうするかだ。一応ゴミとして収納することはできるが、そのためには地面から引っこ抜かなくてはならない。巨体を支えるには、相応の根を張る必要があるだろう。そして俺が持ち上げられるのは、ゴミだけだ。地面はゴミではない。土地には所有者がいるからな。
従って、手作業で掘り出したり解体したりする必要が出るだろう。このとき厄介なのは、海水をたっぷり吸い取って、ほぼ海水だけで巨大化しているという点だ。切ったら水風船に穴を開けたみたいに、一気に海水が噴き出すかもしれない。それで水害が起きないように、解体は極めて慎重におこなう必要がある。高層ビルみたいになってしまった植物を、手作業でそんなに丁寧に解体できるものだろうか?
そういった事から、七味唐子さんに頼るのはナシの方向になった。
それより問題なのは、現実はゲームのようにはいかないという事だな。しかし、考える糸口としては効果があったかもしれない。
「じゃあ、電撃ならどうだ?」
これも地球の知識だ。
この世界では、電気を利用するノウハウがない。電気どころか蒸気機関すらないのだ。人力、または家畜の力で何とかしている。水力も風力も使われていない。ドワーフの少女クが作っていたタービンは、この世界の技術レベルからすると、ものすごい発明だ。風車をすっ飛ばして飛行機のエンジンを作ったぐらいのトンデモ発明である。
その一方で、雷は恐れられている。音が大きいとか光が強いとかの理由もあるが、落雷に直撃された被害者の致死率の高さというのも理由だろう。なんとか天然の雷を模倣したいと思ったのか、電撃の魔法というのが存在する。
「さあ……分からないが、遮断されるんじゃないか?」
「え?」
「相手が電撃魔法を使うなら、こちらは水魔法で防御するというのがセオリーだからな。」
「ああ……そういう理解なのか。」
電撃魔法は一瞬の閃光だ。水魔法で防御したときに、電撃魔法がどうなったのかを目で見て確認できる者はいないのだろう。アローならどうだか分からないが。
それで、避雷針みたいに水に流されて逃げているという事が分からず、遮断されると理解しているのだろう。
もっとも、純粋な水なら絶縁体だというのは正しい。問題は、純粋な水なんて自然界には存在しないという事だ。必ず不純物を含むので、電気伝導率が高くなる。もちろん海水なんていわずもがなだ。
「それより、防ぐだけなら防御魔法でもできるんじゃないか?」
「いやいや、目的は討伐だ。防ぐだけじゃ、また次の襲撃があるかも……ああ、その手があったな。」
「その手?」
「海水から水を補充するのを防ぐために、防御魔法で包んで外と隔絶してしまえばいい。
いわば封印だな。
あとは電撃だろうが火炎だろうが試し放題だ。」
「なるほど。
……で、あの水量を封印できるほどの巨大な防御魔法を、誰が使うんだ?」
「……その問題があったか。」
言われて気づいた。
大きな現象を起こすには、大きなエネルギーが必要だ。物理でも魔法でも、これは共通している。水害の水を全部封印するほどの巨大な結界となると、物理に換算すれば、たとえば諫早湾の水門(全長7km)みたいなサイズになる。いや、高さを無視して乗り越えてくるから、1辺が7kmの箱形結界が必要か。球形とかドーム型とかでも構わないが。いずれにせよ、とんでもなく巨大で、1人で作るのは無理があるという事だ。魔力無限とかのチート能力者がいれば別かもしれないが。
「封印も無理となると、やっぱり電撃ぐらいしか思いつかないな。」
電撃なら、水を伝って広がるはずだ。どこに当てても、相手全体を攻撃できる。
心が折れた住人たちを、もう1度奮い立たせるためにも、この話を広めてみよう。
たしか、感情には、それが起動するために必要なエネルギー量に違いがあるという話を聞いたことがある。喜びを起動するには、高いエネルギーが必要だが、怒りを起動するには弱いエネルギーでいい。だから疲労困憊している人や絶望に打ちひしがれている人を奮い立たせるには、喜ばせるよりも怒らせるほうが簡単だ……と、たしか、そんな内容だったと思う。
あの水害は魔物の仕業だった。みんなで協力して倒してやろう。そんな運動を起こせば、軍需産業も多いこの街なら、奮い立つかもしれない。




