表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/245

ゴミ109 達人、俺のターン! とばかりに無駄にポーズをとる

 被災地の片付けで最も困ることは、瓦礫だ。建物がゴミになってしまうので、量が多くて処理が追いつかなくなるし、一時的に置いておくにしても場所をとる。動かすにしても、大きくて重たいので人力では難しく、どうしても人力でやらざるを得ない場合は、まず切断なり破砕なりして持ち運べる重さになるまで小さくする必要がある。また、同じ意味で家財道具も大量にゴミになってしまうが、まずは瓦礫を取り除かないと家財道具まで手が出せない。そして何より、その建物を使っていた人達が、建物を使えなくなる。

 と、このように被災地の片付けというのは非常に面倒で、失ったものを新たに用意しようとしても、そのための場所や通路などがないという問題に直面する。しかもそれらが大量のゴミによって阻害される。もちろん費用もだ。

 実際、弓矢工場の従業員たちも、俺たちが見つけたときには大半が瓦礫の切り分け作業をやっていた。工場そのものは倒壊せずに済んだようだが、近隣の倒壊した建物の瓦礫が流れ込んでいるし、物置などは流されてしまったようだ。敷地内は瓦礫だらけである。そのため、瓦礫を置く場所を確保するために、瓦礫を切り分けて場所をあけなくてはならないという、訳の分からない状況だ。だが、そうしないと瓦礫同士の隙間が大きくて無駄にスペースを取る。切り分けて隙間なく敷き詰めるように集めれば、だいぶ省スペースになるものだ。

 で、ここに俺が手を出すと、どうなるか。


「さて、始めるか。」


 ここからは自慢の時間(おれのターン)だ。

 バッ! と両手を広げて無駄にポーズを取ってみる。それを合図に、200個ほどの飛翔体が飛び出した。腰にカラビナで引っかけてあるゴミ袋から、他の都市で連日回収しているゴミの一部を取り出したのだ。

 容器や手袋など「ゴミ容器」と「ゴミを掴む道具」として使えるゴミのペアが、工場の敷地内を飛び回って、次々と瓦礫を撤去していく。


「私に手伝うことは?」

「ないな。アローは休んでてくれ。」


 すべての瓦礫は、そのまま持ち上げられ、ゴミ袋に収納される。切り分け? 場所の確保? 処分の費用? 必要ない。

 30分ほどで全ての瓦礫がきれいになくなり、次に家財道具などを回収していく。工場なので、家財道具というよりは棚とか資材とか加工に使う道具とかだが。一部、弓らしい形になっている物があった。加工途中だった物や、加工を終えて出荷を待っていた物だろう。それと書類がたくさん。だが、おそらくかなりの部分が敷地外へ流れてしまったと思われる。これでは社外秘もなにもあったものではないが、たいていは読めない状態に汚れたり破れたりしているだろうから、問題ないはずだ。


「一応、なるべく社外秘は社外秘のまま扱いたいのですが……。」


 と工場長が難しい顔をして言う。手伝って貰っておいて申し訳ないとか、この状況で社外秘なんて維持できないとか、色々と思うところがあるのだろう。

 ともかく責任者の意向がそうなら、それに従うまでだ。それで従業員たちが製品や書類を拾い集めることになった。俺の作業に驚いてポカーンとしていた従業員たちが、工場長の指揮命令で動き出す。だが、それぞれが近くにあるものを拾うと、落胆の声が多く上がる。


「これはもうダメだな……。」

「泥は落とせばいいとしても、こんなに濡れたんじゃあ……なぁ。」


 木は濡れると柔らかくなってしまう。家の柱ほどの太さがあれば別だが、弓はしなり具合が重要だから、柔らかくなってしまうと性能が変わる。そして木を乾かすには年単位の時間がかかるのだ。

 しかし、もしかしたら少しは使えるものが残っているかもという期待があるのか、従業員たちは周囲の物を拾っては落ち込み、拾っては落ち込みしていた。

 自動分別(ゴミ拾いLV4)を使えば、木と水は別々に分類され、木だけを取り出すことができる。つまり乾いた状態だ。しかし、この方法では木が完全に乾いてしまう。枯れ木のように曲げたらすぐ折れる脆い状態になってしまうので、しなりが失われ、弓としては使えない。

 結局、回収できた中で使えるものといったら、矢の金属部分(つまり鏃)とか、加工道具(これも主要部分は金属製)とかだ。

 そうこうしているうちに、見える範囲のものはすべて撤去できた。


「あとは泥だな。」


 その中に埋まっている物もあるだろう。けっこう……10cm以上は堆積している。

 ここまで順調だった作業が、ここでちょっと壁にぶつかった。


「泥か……。」


 今まで泥をゴミとして回収したことがない。

 とりあえず、火ばさみで掴んで持ち上げてみよう。


「……ダメか。」


 ダメだった。普通に泥をつまんだだけだった。持ち上がらない。


「そりゃダメだろう。」


 何考えてるんだ、アホなのか、と言わんばかりにアローが呆れる。


「川の水は火ばさみで掴んで持ち上げられたから、泥もいけるかと思って。」


 キオートのスタンピードの時以来だから、2ヶ月半ぶりか。


「ああ……そういえば。

 え? じゃあ、どうして泥はダメなんだ?」

「瓦礫をまとめて持ち上げられないのと同じじゃないか? つまり『1個のもの』としてカウントされないんだろう。」

「それなら逆に、川の水はどうして持ち上がるんだよ……。」

「うん。そこに『1個』の定義の境界線があるようだな。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくれてありがとうございます。
楽しんでいただけたら、幸いです。

「楽しめた」と思っていただけたら、上の☆☆☆☆☆をポチっと押していただきますと、作者が気も狂わんばかりに喜びます。
バンザ━━━┌(。A。┌ )┐━━━イ!!

「続きが気になる」と思っていただけたら、ブクマして追いかけていただけると、作者が喜びのあまり踊りだします。
ヽ(▽`)ノワーイ♪ヽ(´▽`)ノワーイ♪ヽ( ´▽)ノ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ