ゴミ106 達人、乗り込む
3月21日、午後8時。
俺たちは、視察を拒否して認可取り消しを受け入れた学校へ、乗り込んだ。
教師というやつは意外とブラックな職業で、残業が多い。授業だけやればいいというわけではなく、授業のための資料を作ったり、テストを作ったり採点したり、部活の顧問をやったり、色々とやる事が多くてなかなか仕事が終わらない。
社会人になって、学校の体育館を借りるスポーツクラブにでも入れば、職員室に居残る教師たちを何人も見ることができるだろう。
そんなわけで、校長の自宅ではなく学校へ乗り込んだ。校長の自宅なんて知らないという事情もあるが、そこは言わぬが花というやつだろう。
「こんな時間に当学へ何のご用でしょうかな?」
校長が不快そうな顔でやってきた。
「視察を拒否する理由は、例の流行病が人類にも感染するようになったから。そうだな?
証拠も見つけた。これより強制捜査を始める。手始めに、校長の身柄は拘束させて貰おうか。」
半分脅しのつもりで言ってみる。
なぜ、なんのために隠そうとしたのか。この事件はまだ全貌が見えていない。校長を刺激して、何か情報を得られれば……。
校長は片方の眉を吊り上げ、続けて鼻で笑った。
「ふっ……。くっくっくっ……! ははははは!」
そのまま大声で笑い出した校長に、俺はちょっとイラついたふりをして口を開く。
「何がおかしい!」
「いやいや、何を言うかと思えば、その程度しか調べられなかったのか。
バカめ。人類にも感染するようになったのではない! したのだ! いつまでも治療目的の研究をしていると思ったら大間違いだよ!」
なるほど。生物兵器を作りたかったのか。
もう少し情報を引き出したい。
「兵器として対人用に改造していたということか……!」
自分で使うつもりなのか、欲しがっている国やテロ組織へ売るつもりなのか。
どちらにしても看過できない状況だ。ただ、後者であれば「欲しがっている連中」がイコール出資者という可能性もある。ことによると、そもそも「欲しがっている連中」が指示して作らせていたのかもしれない。そうだとすると、校長を処罰してそれで終わりという事にはならない。
まあ、黒幕がいたとして、その取り締まりをという事になれば、それはもう俺ではなく軍隊の仕事になるだろう。なるべく情報を引き出して、王様に伝えておきたい。
「その通りだ! これを世に放てば、人類はやがて絶滅し、輝かしい魔族の時代がやってくるだろう!
ふはははは! 見るがいい! これが新しい夜明けだ!」
校長は高らかに小さな容器を掲げた。
ガラス容器のように見える。形状は試験官を木材で囲んで補強したような感じだ。
あの中に対人用に改造されたウイルスが入っている!
直感した直後、校長はその容器を地面に叩き付けた。
「やめ――!」
咄嗟に手を伸ばす。だが届くわけもなかった。
その代わり、腰のカラビナに取り付けたゴミ袋から、ゴミとして収納していた別の袋が飛び出す。袋を含む容器全般が、ゴミ袋やゴミ箱として使用できるゴミ拾い用具だ。ゴミ拾い用具はスキルによって自動操縦できる。
地面に叩き付けられたガラス容器は砕け散るが、その直後に袋が覆い被さって密封する。しかし、この状態では「ゴミの上に容器をかぶせた」だけで「ゴミを拾った」とは言えない。事実、袋の中のガス容器を収納できていない。収納できれば収納したゴミのリストが頭の中に浮かんでくるし、ゴミ拾い用具から半径1km以内にあるゴミは探知できる。
「こんなもの……!」
校長が覆い被さった袋を蹴飛ばそうとした。
破壊不能だから袋が破れる心配はないが、自動操縦は俺を持ち上げられないほどパワーが弱い。蹴られたら吹っ飛ぶだろう。
「させるかッ!」
アローが矢を放つ。
動く相手には命中しないアローだが、狙ったのは校長ではなく、その近くの地面だった。
そして七味唐子さん特製の爆裂する矢が、着弾と同時に爆発。校長は足を吹っ飛ばされて、その場に倒れた。
なお、あの矢は1度放つと回収・再利用ができないから、ゴミとして扱える。爆発には自動操縦でも耐えられる。街から街への移動中、昼食の準備のために何度か似たような事をやっている。あの爆発する矢から放たれる破片は、白米なのだ。
「ぐあああっ!」
痛みに転げ回る校長を、領主がビシッと指さした。
「捕らえよ!」
領主の護衛をかねてついてきた兵士が、校長を捕縛する。
「助かったよ、アロー。」
「ああ。」
アローは嬉しそうに笑った。
アローの笑った顔を、久しぶりに見た気がする。ずっと張り詰めたような顔をしていたから。
その瞬間、「ああ、そうか」と思った。直感というやつだ。ディバイドで護衛の役目を果たせなくて、逆に俺に守られたから、ゴッドアからこっち、アローはずっと俺を守ろうと力が入りすぎていたのだ。評判の回復という個人的な目標もあって、余計に力が入っていたのだろう。
「いつも助かってるよ。
評判だって、遠からず回復するさ。」
「そ、そうか。」
アローは照れて目をそらし、頬をかいた。
とりあえず、アローのことはこれで心配ないだろう。これからもこまめに伝えてやるほうがいいか。コミュニケーション不足は俺の課題だな。
さて、あとはウイルス対策だ。ガラス容器はすでにゴミ箱の中にあって砕け散っている。もう完璧にゴミだ。地面ごと掘り起こして、そのまま収納すればいい。ただ、ウイルスはまだ生きているから収納できない。死ねば生ゴミとして収納できるが……いや、ウイルスのサイズなら生ゴミというより塵や埃か。
袋の周囲に紙くずを出して、その周囲を細い木で囲み、さらにその周囲を太い木で囲む。そして紙を雑巾みたいに絞って作った棒を、手袋に持たせて火打ち石で着火。この火打石はメイゴーヤで大工の手伝いをしていた時、初めての給料で買ったやつだ。移動中、昼食のための野営でちょいちょい使っている。
火を付けた紙を、袋を囲んだ紙へ近づけ、延焼させる。紙から細い木へ、細い木から太い木へと燃え移り、たき火が始まった。袋は断熱性能の高い素材とか難燃性とかいうわけではないが、破壊不能だから燃えない。ただし熱を遮断する効果はないので、袋の中は蒸し焼き状態だ。
念のため、兵士に手伝ってもらって、できるだけ高温の炎の魔法で焼いて貰った。
◇
それから1週間ほど滞在したが、この事件は結局、校長が魔族崇拝者だったという事で決着した。
2000年前、七味唐子さんが当時の王国軍と一緒になって「汚す者」という魔族を倒したという。魔族と呼ばれるものが、たしかに存在する世界なのだ。であれば「汚す者」以外にも魔族が存在する可能性はあるし、校長が魔族と連絡をとっている可能性もあった。だが、それらしい痕跡は見つからなかったのである。
俺たちはヒルテンを出て次の20都市へ行くことにした。
「そうですか。もっと多くを教えて頂きたかったのですが……。」
ルマスキー学園の学園長ヒが別れを惜しむ。彼は俺たちと別れる事よりも、未知の技術についての情報が惜しいのだろう。それが透けて見えるので、俺たちのほうに別れを惜しむ気持ちはあまりない。技術者としては優秀なんだけどな……。
「とりあえず間に合ってよかったわ。」
クは、この1週間あずけておいたゴミ馬車をぽんぽんと叩いた。サスペンションとタイヤを搭載してもらったのだ。ついでに座席も地球の自動車のものを参考にして、形状を変えてもらった。単に座れる高さの台だった座席が、体にフィットする形状に作り変えられた。
実際に乗ってみると、自動車と遜色ないほどの乗り心地だった。これなら次の20都市まで快適に進めるだろう。
6章 完!
明日はキャラクター紹介です。




