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ゴミ105 達人、人を頼る

 3月21日、午後4時。

 学校に視察を断られた俺たちは、買い物をするために商店街へやってきた。


「何を買うんだ?」

「手袋と容器だ。サイズや素材は何でもいいが、とにかく数が必要だ。」


 というわけで、片っ端から店をはしごして、あるだけ全部の手袋と容器を買い集めていく。

 手袋と容器はゴミ拾い用具にカウントされるから、それをスキルで動かしてゴミ処理場へ飛ばす。新品を購入するとゴミとして判定されないから、容器に収納して別の容器から取り出してワープさせる技が使えないが、今は時間が惜しい。

 手紙のワープみたいにゴミとして捨てることで収納できるようになるかもしれないが、その点はいつか検証してみよう。手紙は書き損じたことにして(字が綺麗に書けなかったとかの理由で)捨てればゴミ扱いになるが、新品で買ったものはどうなんだろう? 10個セットの紙コップを2個余ったから捨てる、とかは、あるかもしれないが、買ったものをそのまま捨てるとなると……?


「買うだけ買ったら、次は領主の屋敷へ行こう。」

「さっき別れたばっかりだが。」

「しょうがない。そういう事もあるさ。」



 ◇



 領主はちょっと驚いた顔をしながらも歓迎してくれた。


「思ったより早く準備が終わりましたので、早速手伝いをお願いしたいのですが。」

「何なりと。それで、何をすればいいのですか?」


 俺はゴミ袋から紙の束を取り出した。

 スキル(LV2)によって収納したゴミを、スキル(LV4)によって素材別に分別できる。素材を合成するスキル(LV7)に目覚めるまで、しばらく役に立たないと思っていたスキル(LV4)だが、今回は役に立って貰うことになる。分別するスキル(LV4)で紙だけを取り出したのだ。

 このスキル(LV4)の使い方は、ちょっと複雑なやり方だ。発動しようとスキルを選んだ状態で、まだ発動していない。分類するとどうなるかの見積もりが出るが、分類はされない。そこでスキル(LV4)を解除して、見積もりを元に、分類しないで取り出す。

 なぜこんな面倒なことをするかというと、分類して取り出すと紙とインクが別々に分類されてしまうからだ。再生紙を作るには漂白の手間がなくて便利だが、書類のゴミだけ探して取り出したい時には、書かれていることまで消えてしまうので、こういう手順が必要になる。


「あの学校が出したゴミを探して、その内容を調べるのです。

 指示書とかチェックリストとか業務日誌とかが見つかるかもしれません。」


 学校なんだから毎年新入生が入ってくる。当然新入生は素人だ。その指導のために、ゴミの捨て方マニュアルなんてのが必要になるだろう。コンビニのトイレ掃除みたいにチェック表があるかもしれないし、業務日誌に何か書いてあるかもしれない。あるいは、その他の内部文書から何か分かるかもしれない。

 ゴミに書かれた文章を読むスキルは持っていないから、この調査は人海戦術が有効だ。


「わかりました。」


 領主は執事を呼んで、指示を出した。


「文字を読める者を集めろ。文官でもメイドでも構わん。なるべく大勢だ。

 それとパーティー用の部屋にテーブルを並べて、作業スペースを設営しろ。」

「かしこまりました。」


 執事は一礼して出て行く。


「さて、準備ができるまでの間に、調べるべき書類を出して頂けますか?

 部屋はこちらです。」


 俺たちは領主の案内でパーティー用の部屋へ向かった。



 ◇



 それは地獄のような作業だった。

 呼び集められた者は、部屋の中央に積み上げられた書類を見て驚き、自分たちが集められた理由を聞いてさらに驚いた。

 作業開始から1時間もしないうちに、全員の目が死んでいく。関わった事がない団体の、読んだことがない資料を読むのだから当然だろう。しかも内容は順不同で統一性がなく、探すものがどんな形式で書かれているのかも不明だ。ほとんど何を探しているのかも分からないまま探しているような状況である。とりわけメイドたち、文字を読むことになれていない者にとって、これはつらい作業になった。

 俺が回収するゴミの量に比べれば、調べるべき書類はごくわずかだ。なにしろ昨日より前に出されたゴミは、今まで通り燃やして埋められている。読める状態なのは、俺がゴミの最終処分を引き受けた今日、出されたものだけだ。ただし、どれがどこから出たゴミか分からないし、どのゴミに何が書いてあるかも分からない。つまり、街中のゴミを紙に限って手当たり次第に探しているわけだ。たった1日分とはいえ、非常に量が多い。

 しかも、それは同時に、見つけるべきものが見つからない可能性が高いという事も意味する。学校が隠していることに関する内容が書かれたゴミは、今日は出していないという可能性もあるのだ。


「……あれ?」


 と小さく声が聞こえたのは、作業開始から2時間ほどが過ぎた頃だった。

 声を漏らしたのはメイドの1人だ。


「どうかしましたか?」

「この数字ですが。」


 尋ねると、メイドは見ていた資料を差し出した。

 意味の分からない文字と数字の羅列があって、唯一分かるのはそれが何かの表らしいという事だけだ。健康診断とかでもらう血液検査の結果が書かれた紙に似ている。つまり文字の羅列は頭文字をとった略語で、数字はその項目のデータということだろう。


「これが?」

「これは人類への感染力が高いことを示すデータです。」


 その一言に、室内がざわめいた。


「なぜ分かる?」

「私は貧乏男爵の娘で、私もそういう系の学校を卒業しましたので、研究中は定期的に、安全確認のためにこういうデータを取るんだと教わった事があります。病気の研究をしていると、特に他者にうつる病気は、途中から急に感染する対象を変えることがあるのだそうです。」


 全員が言葉を失った。

 それがあの学校から出たゴミかどうかは不明だし、それが例の流行病のものかどうかも不明だ。だが、この時期にそんなデータが見つかるとなれば、状況的にそれしか考えられない。


「そのゴミがあの学校から出たものという証拠が欲しい。

 それがあれば、あとは強制捜査だ。」


 自分たちまで感染して死ぬかもしれない。

 全員の、書類を見る目が変わった。


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