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ゴミ104 達人、論戦する

 3月21日、午後14時。

 昼食を済ませて、俺たちは領主とともに学校へ向かった。視察を拒否する例の学校だ。

 大使で騎士の俺からの要請は拒否できても、学校の運営認可を出す領主の要請は拒否できないだろうと思ったのだが――


「お断りします。」


 校長はあっさり拒否した。

 悩む様子さえない。


「なぜかね?」


 領主が尋ねる。


「そちらの大使殿は、都市のゴミの最終処分を引き受けるのが役目でしょう?

 最終処分より前の段階でどう処理されるかを監督する権限はないはず。であれば、視察するべきは途中の段階ではなく最終処分の工程でしょう? 見るべき場所が間違っている。」


 どこから聞いたか知らないが、部分的には俺の事を知っているらしい。


「それは不完全な情報ですね。

 俺に与えられた権限と役目は、単に最終処分を引き受けるだけではない。法的に問題のあるゴミを見つけた場合は、捜査権を発動できるのですよ。

 そして、事は感染性廃棄物だ。自動で増える猛毒ですよ。それを不適切な方法で処分しているのなら、それはもう猛毒をばらまいているのと同じです。このヒルテンで例の流行病が広まれば、大勢が馬という財産を失い、経済に大打撃が生じます。」

「不適切な処分などと……どこにそんな証拠があるのですか。

 第一、当学では全て適切に処分している。」

「適切に処分をしている証拠がない。

 だからこその視察です。

 それを拒否するのであれば、不適切な処分をしているかもしれないと、疑いを持って当然でしょう? 起きるかもしれない大惨事を、起きても構わないと放置するわけにはいかない。たとえ適切に処分しているのだとしても、視察を拒否したという事実が後になってどれほどの風評被害になるか、考えてみてはどうですか?」

「なるほど。風評被害は恐ろしいものだ。」

「でしょう?」

「だが断る。」


 校長はきっぱりと言った。

 なぜかニヤリと笑っている。


「大使殿。あなたは『捜査権』と言った。しかも『法的に問題のあるゴミを見つけた場合は』と。

 見つけたのですか? 法的に問題のあるゴミを。

 さっきから聞いていれば、処分方法を『疑っている』だけで『問題がある』わけではない。ならば、あなたはまだ『捜査権』を発動できないはずだ。違いますか? にもかかわらず、領主様まで巻き込んで視察を強要するというのなら、これは越権行為だ。問題があるのは、あなたの方じゃありませんか。」


 なるほど。学校を率いる立場にいるだけの事はある。

 まるで法律の条文を解釈するみたいに、きっちりと線を引いて、その位置を見極めている。つまり、確かに校長の言う通りだ。俺はまだ捜査権を発動できる段階ではない。


「おっしゃる通りだ、校長。

 ()()()()()殿()()()()()()()()()()。」


 俺がそう言うと、校長が「何を言っているんだこいつ?」という顔をした。

 そして俺の言葉を引き継ぐように、領主が口を開く。


「例の流行病は、もし広まればヒルテンの経済にも大きく影響する一大事だ。

 問題が起きてからでは遅い。

 だから大使殿は、疑いの段階で私に報告をくれたのですよ。

 そもそも学校の運営認可というのは、問題を起こさないと認めて与えるもの。問題を起こしたのなら取り消すことも可能だ。その疑いがあると報告を受けたのなら、領主として調査をしなければ。

 つまり今回の視察申し込みは、私が主体だ。大使殿にはアドバイザーとして同行して頂いている。」


 これは領主の権限・職務の範囲内である。

 もう校長には視察を拒否する理由はない。

 校長は「な、なにィ!?」と言わんばかりに驚いた顔をしたが、すぐにその表情を落ち着けた。


「なるほど……。

 であれば、やはりお断りします。

 認可は取り消して頂いて結構。当学はこれより閉鎖の準備に入りますので、もうお帰り下さい。私も忙しくなる。」


 今度はこっちが「なにィ!?」と驚く番だった。そこまでするのか、この校長。

 しかし、学校を閉鎖してまで隠すようなことがある、と公言したようなものだ。

 視察はもう諦めるしかないが、同時に学校側も隠し事の存在が明るみに出た。あとは隠し事の内容を知るだけだ。





 学校を出ると、俺は領主に頭を下げた。


「すみません。わざわざ来て頂いたのに、こんな結果になって。」

「いえ、あれは大使殿の責任ではありません。

 むしろ隠し事があることを明らかにしたのですから、大使殿には功績でしょう?

 私も、認可を取り消す準備に入ります。問題が起きる前に手を打てるのですから、大使殿には感謝しかありませんよ。」

「ありがとうございます。」


 この領主、大変な人格者だ。

 何も無いところへ消防車や救急車を呼んでも「誤報か、迷惑な」ではなく「何もなかったのか、よかった」と考えるタイプのようだ。


「それで、この後はどうしますか?

 よろしければ屋敷へ来て頂いて……。」

「いえ、相手がああいう手に出るのなら、こちらもやるべき事がありますので。」

「分かりました。

 手伝える事がありましたら、いつでもご連絡下さい。」

「ありがとうございます。その時はお願いします。」

「では、これで。」


 領主が立ち去り、そしてアローと2人だけになる。


「すまない。こんな結果になって……。」


 アローが頭を下げてきた。

 今回の作戦はアローの提案だ。その失敗に責任を感じているのだろう。


「いやいや、領主も言っていた通り、1歩前進だ。

 次の手を打とう。」

「ああ。……でも、どんな手を?」

「まずは買い物に行こう。」


 買い物? と首をかしげるアローを連れて、俺は商店街を目指した。

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