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ゴミ103 達人、ヒルテンの領主に会う

 3月21日、午前10時。

 学校の視察を拒否されてから3日日、今日は領主と面談する日だ。

 この3日間に、俺たちはいくつかの学校や研究機関に視察をおこなったが、どこも視察を拒否するようなことはなかった。中にはわざと無許可で視察に入って、責任者の反応を見てみた事もあるが、「役目なら仕方ない」という反応だった。一応「先に申請してくれ」とは言われたが。

 つまり、あの学校だけ拒否が強かったという事になる。しかも、あれから何度か視察の申し込み手続きをしたが、すべて断られた。


「どういう事だろうな?」

「やたら頑固な性格なのか、それとも引っ込みがつかなくなったのか……。」


 俺たちは領主の屋敷に向かう道すがら、視察を受け入れて貰う方法を求めて話し合う。

 単に感染性廃棄物の一般的な処理方法を視察するだけなら、他の似たような機関を視察すればいいのだが、あの学校がずさんな処理をしているのを隠そうとしているのではないか、という事だけが気がかりだ。それをやられていたら、ヒルテンでも流行病が拡散するかもしれない。


「人物像については、このあと領主から聞いてみればいい。

 他に俺たちにできそうな事はないか? 忍び込むとかは、ちょっとやりたくないが。」


 警察の捜査にだって「違法捜査」というものがある。取り締まる側がルールを破るようでは、何のために取り締まっているのか分からない事になってしまうわけだ。

 その一方で、たとえばスピード違反の車を見つけて追跡するときに、そのパトカーがスピード違反の速度になるわけだが、あれは違反車がどれだけの速度を出しているのかを調べるためという目的もある。

 速度の超過量が大きいほど違反点数も大きくなるから、きちんと測定しないといけないわけで、違反車を追跡して完璧に同じ速度で走ることで、パトカーのスピードメーターでもって違反車の速度を測る。つまり車間距離を精密に保つわけで、これには高い運転技術が必要となる。警官はそのための訓練も受けていて、合格者でなければこの方法で取り締まることはできない。決して違反車を捕まえることだけを目的にしているのではないのだ。

 その証拠に、追跡すると事故を起こしそうで危険だと思われる場合は、追跡を諦める。ただしパトカーが諦めても、付近の別の警官に情報を流して目撃情報を集めて追跡したり、ヘリを要請して上空から追跡したりするのだが。

 ちょっと例え話が長くなったが、要するに俺も違法性を疑われるような方法は避けたいのだ。


「浩尉の身分を聞いてもあの態度だったから、権力で押し通すのは無理っぽいな。

 実はあの校長も貴族とか? キオートの領主みたいな言い方だったし。」

「ああ。確かに。」


 キオートの領主にも、騎士爵なんて貴族のなり損ないと言われた。


「だったら、領主から言って貰うのはどうだ?

 あの校長が貴族だとしても、自分の領地ではなく、ヒルテンに学校を作ったということは、ヒルテンの領主のほうが高い爵位ネームバリューがあって生徒を集められると思ったんじゃないか?」

「かもしれないな。

 でなければ、地理的・歴史的な影響でヒルテンに優秀な生徒が集まりやすいだけかもしれないが。」


 ルマスキー学園と領主のどっちを優先するかという判断では、アローの提案を却下して時間を無駄にした。次はアローの言う通りにしてみようと思っていたが、今がその時だろう。


「とりあえず、アローの案を試してみるか。」


 そろそろ話を切り上げよう。

 領主の屋敷が見えてきた。





 領主の屋敷にやってきた。

 使用人の案内で客間に通されて待っていると、すぐに領主がやってきた。


「初めまして。

 廃棄物処理特務大使の五味浩尉騎士爵です。

 こちらは護衛のアローです。」


 まずは挨拶。

 俺の紹介でアローが一礼する。

 続けて領主が自己紹介してくれるが、もちろん名前が長くて覚えられない。


「早速ですが、ゴミ処理の最終段階をこちらで請け負うように陛下からご命令を受けています。」

「承知しています。私もあの場にいました。」


 あの場というのは、俺が大使に任命され、全国20都市を巡るように命令されたその場だろう。


「各方面には、すでに話を通してあります。

 あとはゴミ処理場の場所をお伝えするのと、処理場の責任者と顔合わせといったところですか。ゴミ処理場にご案内する準備はできていますので、よろしければ今からでも。」

「助かります。

 仕事が早いというのは素晴らしい事ですね。」


 と、まあ、そういうわけでゴミ処理場へ。

 現地までは馬車で連れて行ってくれるそうなので、その車中でちょっと情報収集してみることにした。あの学校にだけ視察を断られたが、校長はどういう人物なのかと尋ねてみる。


「どう……と言われましても、取り立ててどうという人物ではなかったと思いますが……。」


 領主は首をかしげた。


「大使や騎士の肩書きを前にして、それでも拒否するような人物ではないと?」

「ええ、もちろん。

 あの学校から出たゴミについて、特に問題があったという報告もありませんし。」

「きちんと密閉……遮蔽されているわけですね?」

「それは問題なくおこなわれているかと……異常があれば報告が来るはずですが。」


 さて、ますます分からない。

 領主からの評価と、実際の態度が、あまりに違う。

 もしかして別人だったのか?


「こう……頭頂部の薄くなった毛を大事そうに撫でつけている感じの、初老の男性でしたか?」


 俺は校長の姿を伝えた。

 頭に櫛を通すような身振りを交えて、ハゲ散らかしている範囲をなるべく正確に伝える。一口にハゲといっても、ハゲ方は人それぞれだから、あまり同じハゲは居ないものだ。

 それだけに、気づかない人がいる事が不思議でならない。ハゲには綺麗なハゲと汚いハゲがあるのだ。毛がないことそれ自体は恥ではない。ハゲを隠そうとすることが恥なのだ。僧侶のようにスキンヘッドにしてしまえば、サッパリとした清潔感がある。様々なハゲを見れば、それに気づくと思うのだが、自分のハゲが気になりだすと他人のハゲに目を向ける余裕がなくなるのだろうか?

 閑話休題。


「ええ。そんな感じの男です。」


 領主がうなずく。

 別人だったというわけではなさそうだ。


「こちらの身分を伝えても、まるで怯まなかったのですが、あの校長は貴族ですか?」

「いいえ、平民のはずです。創業者の一族なので、富豪ではありますが……。」


 騎士爵を授かっていなくても、授かっている者より裕福な者はいる。

 たとえば商人でも、その商売が国益に大きく寄与したという功績でもって騎士爵を与えられる事はある。だが、そこまで国益に寄与しない商売でも、その売り上げは遙か多いという商人だって居るわけだ。極端な例では、麻薬王なんかがまさにそれである。

 そういう人物であれば、騎士爵なんてあろうがなかろうが自分には関係ないという気持ちを持っていても不思議ではない。その線だろうか? だとすると、やはりアローの提案通り、領主から言って貰うのが有効だろう。大商人だろうが麻薬王だろうが、本物の貴族が相手では文字通り身分が違う。


「正面突破が無理なら搦め手で……と行きたい所です。」

「分かりました。私から言ってみましょう。」


 さすが貴族。察しがいい。

 魑魅魍魎のパワーゲームを生きていると、そういう感性が磨かれるのだろう。


「何かお礼を……。」


 した方がいいのだろう。

 見返りもなしにやってくれるような人種ではあるまい。

 とはいえ、俺に差し出せるものといったら、資材か労力ぐらいだ。労力のほうは王様の命令で差し出すことが決定しているのだから、お礼にならない。まあ、20都市以外にもう1つぐらい請け負うという手もあるが。一方で資材のほうも、あまり大量に流すと猫耳商会の商売を邪魔してしまう可能性がある。贈るとしても少量だ。希少価値の高い資材なんかあっただろうか?


「いやいや、お礼をするのはこちらです。

 ルマスキー学園の学園長から報告を受けていますから。何でも素晴らしい助言をいくつも頂いて、一気に研究が進んだと。学術都市としてヒルテンの名を高める事になりますし、流行病の拡散を防ぐことにもなります。ヒルテンが大使殿から受けた恩は大きいのです。

 こんな事でお役に立てるなら、いくらでも。」


 意外な所で、ルマスキー学園を先にすませておいた効果が出た。

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