ゴミ101 達人、学校へ行く
3月18日、午前11時。
ドワーフの少女クの案内で、俺たちはヒルテンの領主の屋敷へ向かった。
まずはアポを取り、日を改めて面談という流れになる。領主の都合で、面談は3日後となった。
「それじゃあ、先に学校へ行くか。」
「学校? ルマスキー学園に?」
アローが尋ねる。俺は首を横に振った。
「いや、別の学校だ。
病気の治療法や予防法を研究している所へ行く。」
そこでクに視線を送ると、
「案内するわ。」
という事で、また別の学校へ案内して貰う事になった。
◇
3月18日、午後2時。
移動のついでに昼食をとって、それから目的の学校へ。
魔道具の技師を育てるルマスキー学園がどことなくスチームパンクっぽい印象を受ける建物だったのに対して、今度の学校はどことなく病院のような印象を受ける建物だった。どこがどう違うということはないのだが、壁の色とか細部のデザインとかだろう。全体的には3階建てのビルといった形状だ。
クとは校門で別れて、俺たちは学内へ。
まずは校門近くの守衛室へ寄って、守衛さんに自己紹介と訪問目的を告げる。
「騎士様でいらっしゃる。へぇ。それで、どのような御用向きで?」
「ゴッドアの流行病に対処するべく、こちらで治療薬だか予防薬だかを開発中と聞きました。
大いに頑張って頂きたいのですが、効能を確かめるためには実際に流行病にかかった馬を運び込んで投与してみるという事になるでしょう? その関係で、ヒルテンにいる馬に感染しないように対策がなされていると思いますが、研究で出たゴミについては、どのような処理がされているのかと思いましてね。領主にも確認するつもりですが、今日は相手方の都合がつかず、先にこちらへ伺ったわけです。」
「ゴミですか? それじゃあ、担当部署と校長と、どちらがいいでしょう?」
「実際の処理を確認したいので、担当部署へお願いできますか?
校長先生には、都合がつけば面談をお願いしたいのですが、都合がつかなければ面談できなくても構いません。」
と、そういう流れで、環境整備課という所へ案内して貰った。
地下1階にある「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた扉を通って、その奥にあるバックヤードとでもいうべき場所へ入る。店舗などで売り場以外の場所をバックヤードというから、学校でも職員室とか給湯室とかはバックヤードといえるだろう。ただ、俺たちが案内された先というのは、それよりもうちょっとディープな感じだった。おそらく水道設備だろう配管が壁や天井を走っていて、壁には壁紙がなく、天井にも天井板はなかった。通路は人1人がやっと通れるほど狭い。
そんな場所を抜けていった先に、スタッフルームがあって、清掃員の格好をした人たちが5人ほど休憩していた。
「こちらです。」
「どうもありがとう。」
「では、これで失礼します。」
と守衛さんは守衛室へ戻っていった。
誰なんだ、こいつは? と俺たちに注目している清掃員たちに向かって、まずは自己紹介。
「廃棄物処理特務大使の五味浩尉騎士爵です。
視察に来ました。
ゴッドアの流行病に対する治療薬や予防薬を研究している所から出たゴミは、どう処理されているか教えて下さい。」
清掃員たちはポカーンとしている。
「浩尉。もうちょっと貴族らしく命令口調とか使ったほうがいいのではないか?」
アローが言う。
確かに、大使だ騎士だと名乗ったのに、「貴族だ!」みたいな反応がない。むしろ貴族を名乗る変な奴が現れた、ぐらいの感じで見られている気がする。
仕方がないので、貰ってから初めてアレを使うことにしよう。
「これを見よ。」
王様から貰った、騎士爵を証明するバッジと、特務大使を証明する身分証を取り出した。
「「本物だァ!」」
清掃員たちは目玉が飛び出すほど大きく見開き、髪が逆立つほど驚いて一斉に飛び上がると、慌てて床に跪いた。
「楽にしてくれ。貴族といっても騎士だから、そんなに偉くない。」
「近衛騎士と同格だけどね。」
「アロー。」
「てへぺろ。」
しょうがない奴だ。
どういうわけか、このところ俺をやたらと貴族っぽく仕立てようとしてくる。
「それで、どなたかゴミ処理の様子を見せて貰えませんか?」
「浩尉。」
「誰かゴミ処理の様子を見せてくれ。」
「そうそう。そういう感じ。」
やれやれ、何がそういう感じか……。
清掃員たちはお互いの顔を見合っている。お前やれよ。いや、お前がやれよ。みたいな念話が飛び交っているのだろう。
30秒ほどで清掃員たちの視線が1人に集まり、その人がやれやれと言わんばかりの顔をしてこっちを見た。
「では、私が。」
案内してくれるなら誰でもいい。
次からこういう場合には手土産でも持ってこよう。それを受け取った人に案内を頼むというのが良さそうだ。